2020年4月、ANAホールディングス初のスタートアップとして、avatarin(アバターイン)社が設立された。「アバターを、すべての人の、新しい能力にすることで、人類のあらゆる可能性を広げていく」というミッションを掲げる同社は、世界のさまざまな場所に設置したアバターロボット(遠隔操作ロボット)を使うことで、あたかもそこに自分自身が存在しているかのようにリアルなコミュニケーションができるサービス「avatarin」を展開する。

SAS Institute Japanが10月21~22日に開催した年次カンファレンス「SAS FORUM JAPAN 2021」では、avatarin社 代表取締役CEO 深堀昂氏が登壇。「瞬間移動サービス『アバターイン』が描く未来」と題し、”飛行機を使わない新しい移動手段”をうたうavatarinの概要とそこに込められた想いについて語った。

“移動を拡張”するという発想

「30分あれば、世界中どこへでも瞬間移動して、美術館に行って美術品を見たり、百貨店で提案を受けながら洋服を選んだりといったことが、場所や身体的な制約にとらわれず、誰にでもできるようになる。そうした新しい移動の概念、”移動の拡張”に弊社は取り組んでいる」――登壇した深堀氏は、avatarinについてそう説明する。

深堀昴氏

avatarin社 代表取締役CEO 深堀昂氏

同氏によれば、当初開発を検討していたのは、ヒューマノイド型のアバターロボットだった。だが、実際に多くの人が望むのは、精巧に人間に似せることではなく、遠方に住む家族や親戚と手軽に交流したり、限られた時間でたくさんの観光地を巡ったりといった夢を叶えてくれることだ。これを具現化するために、不要なものをそいでいった結果、生まれたのがアバターロボット「newme(ニューミー)」である。

newme イメージ

newme

アバター(newme)を通じて現地の人とコミュニケーションしながら移動することが可能

「シンプルにはしたが、どうしても”動き回れること”は譲れなかった。動き回ることで周囲も存在感を感じられる」と深堀氏は語る。同社では海外からリモートで働くメンバーがアバターで社内に”出社”し、雑談する光景が見られるという。

avatarinは、コロナ禍においてもすでに活用されている。新型コロナウイルスの感染病棟に導入され、医師がクリーンエリアからアバターを操作して見回ったのだ。「(アバターロボットで)医師が近くを通りかかることで安心感が生まれたり、相談したりできる。これが信頼関係の構築やセレンディピティにつながる重要なポイント」だと深堀氏は力を込める。

このように「物理的に移動することなく移動を体験する」という新しい試みには、さまざまな可能性が期待できるだろう。とは言え、ANAホールディングスのスタートアップがなぜ、”飛行機を全く使わない移動”をテーマにしたビジネスを始めたのだろうか。