テレワークや健康経営、副業など、働き方の多様化が進む昨今、企業と社員の関係性は大きく変わりつつある。選択肢が増えた今だからこそ、ビジネスパーソンは「なぜその仕事をするのか」や「なぜこの会社で働くのか」といった問いに向き合う必要があるのだ。同時に経営者は、同じ問いに対する”答え”を社員に示す必要があるだろう。

8月25日に開催されたTECH+スペシャルWebセミナー「働きがいと企業成長を共に実現する経営者の役割」では、一橋ビジネススクール 国際企業戦略専攻 教授の楠木建氏と、東京青年会議所 第70代理事長であり、スリーオーク 代表取締役の塩澤正徳氏、そして東京青年会議所 第71代理事長であり、伊澤 代表取締役専務の伊澤英太氏が登壇。

社員の働きがいを高め、モチベーションを引き出しながら企業成長を実現するために必要な考え方と、経営者としての姿勢について対談を行った。

楠木建氏、塩澤正徳氏、伊澤英太氏

(左から)楠木建氏、塩澤正徳氏、伊澤英太氏

働きがいを阻害する要因は?

楠木氏はまず、2人の経営者に向けて「働きがいや企業成長を考えたとき、大切にしていることは何か」と問い掛けた。

これに塩澤氏は「お客さまにも従業員にも楽しんでもらうこと」とした上で、「人の役に立つことで、人が変わっていくのを見るのが好き」とコメント。続いて伊澤氏は「従業員が意見を自由に言える場を大切にしている」と答え、「それが社内のモチベーションアップにもつながる」と持論を述べた。

両者の回答に楠木氏は「大切な真実ほど、言われてみて当たり前だと気づくことが多い」と同意を示し、「今の話がまさにそう。本来、難しいことではないはずなのに、なかなかできないもの」だと多くの企業に潜む課題を指摘した。

では、逆に働きがいを阻害する要因とは何なのか。この点について問われた伊澤氏は、1つの例として「上長が部下の話をきちんと聞かずに否定してしまうことが阻害原因の6割くらいを占めているのでは」と予想。「否定された部下は、次から意見自体を言わなくなる負の連鎖に陥ってしまう」と警鐘を鳴らす。

これに対し、楠木氏は「本来、個人の意見は”好き嫌い”でしかない」とした上で、「個人の意見に合っている/間違っているはないのに、『正しいことを言わないといけない』と抑制してしまう」ことが大きな要因であると分析した。

もっとも、この点については「発想やアイデア出しにもある程度センスはあるのではないか」という反論を抱く人もいるかもしれない。もちろん、人によって問題解決にあたる”センス”には差があるものの、楠木氏は「それは方向性の違い」だとし、「好きこそものの上手なれというように、人はある方面のセンスがなくても、別の方面にはセンスを発揮するもの」と説明した。

“何でも言える場”の重要性

ここまでに語られた、「自己を抑制せず、遠慮なくものが言える組織」を体現するのが東京青年会議所である。というのも、「東京青年会議所は皆が独立した存在で利害関係がない。だから好きなことが言える」(塩澤氏)環境なのだ。

では、塩澤氏や伊澤氏が経営する会社はどうだろうか。

「うちは古くて小さな会社なので、まだ”飲みニケーション”というものがあります。その機会を生かして、私のほうからいろいろと社員の話を聞きに行っています」(伊澤氏)

伊澤氏

飲みニケーションについては、「嫌がる社員も多いのでは」という意見が出るかもしれない。自身もお酒が飲めないという楠木氏は、「仕事とは別の場所で、何でも言える場を持つということは、人間の本性でもあると思う」と理解を示した上で、「若い人でもそれは変わらない。多くの若い人が飲みニケーションを嫌うのは、上司の話がつまらないなど、自分にといって意味のある機会にならないから。嫌な人は行かなければいいし、参加を強制すると窮屈になる」と一刀両断。伊澤氏や塩澤氏は、苦笑しつつも「その通り」と同意を示した。