デジタルによる組織やビジネスモデルの革新を「デジタルトランスフォーメーション(DX)」と呼ぶ。ここ数年、耳にすることが増えたキーワードだが、果たしてどれだけの企業が実践できているだろうか。業界や組織規模によってはそもそも変化を嫌う風土も根強く残っており、革新を願う社員がいたとしても実際に取り組むのは難しい、という状況も多く見られる。

そんな中、保険業界という古い体質の業界でDXを強力に推進しているのがSOMPOホールディングスだ。言うまでもない大企業であり、業界の性質上、本来ならばDXとは縁遠い企業と言えるだろう。

同社のDXにおけるキーパーソンがグループCDO 執行役常務の楢﨑浩一氏である。楢﨑氏はどのようにDXをスタートし、大企業の風土そのものを変えるまでに至ったのか。

2月15日に開催されたWebセミナー「withコロナの成長に向けたデジタライゼーションと経営」では、この楢﨑氏と、一橋ビジネススクール 国際企業戦略専攻 教授であり、書籍『逆・タイマシン経営論』(発行:日経BP社)の著者でもある楠木建氏による対談が実施された。

楠木氏、楢﨑氏

(左から)楠木建氏、楢﨑浩一氏

なぜ日本の保険業界のデジタル化は遅れているのか

SOMPOホールディングスでグループCDOと執行役常務を務める楢﨑浩一氏の経歴はユニークだ。三菱商事でシリコンバレー駐在を経験し、ベンチャーの魅力に惹かれて現地で転職。スタートアップで事業開発や経営に携わり、2016年にSOMPOホールディングスに入社した。当時、SOMPOホールディングスはデジタル化を進めており、その指揮を執る人材として楢﨑氏にラブコールを送ったのだ。

そんな楢﨑氏の目に、日本の保険業界はどう映っているのか。

「日本の保険業界はとにかくデジタル化が遅れています。米国の保険業界のデジタル推進度を100とするなら、日本は15程度でしょう。だからSOMPOホールディングスから声がかかったときも、おためごかしでしょうと断ろうと思ったくらいです」(楢﨑氏)

楢﨑氏

なぜそれほどまでに日本の保険業界はデジタル化に遅れを取っているのか。楢﨑氏はその原因を次のように分析する。

「例えば、終身雇用と年功序列の問題です。保険業界に限らずですが、日本の企業は基本的にジェネラリストを育てようとします。課長、部長と出世していき、ジェネラリストとして丸い人材を作っていく。だからトランスフォーメーションしようという発想が出ないし、出ても潰されることが多いのです」(楢﨑氏)

もう1つの問題は保険が規制産業であることだと楢﨑氏は言う。保険ビジネスは金融庁が監督官庁であり、新しい試みをするには審査を受けて認可を得る必要がある。その際、特定の企業が突出しないように調整されるため、そもそもイノベーションが起きづらいというのだ。

加えてSOMPOホールディングスは売上3.3兆円を超える大企業である。規模の大きな企業はさまざまな思惑や利害関係が絡み合うため、ドラスティックな変化は起こしにくい。そこで楢﨑氏が取り組んだのが、小規模チームでデジタル化に取り組む”出島”としてのSOMPOデジタルラボだった。

このようなSOMPOホールディングスの取り組みについて、楠木氏は「非常に面白い。大企業は昨今、外部人材を入れて変革を目指すことが多いが、楢﨑さんのお話が大きなヒントになる」と称賛。SOMPOデジタルラボの特にユニークな点として「外部に丸投げするのではなく、自分たちで取り組んでいる」ことを挙げ、「日本の金融業はデジタル方面の施策をベンダーに丸投げにするところが多く、結果としてベンダーにいいようにされているところも多い」と現状の課題を指摘した。