AIやデータ活用がブームになって数年が経過し、多くの企業で取り組みが進んでいる。ノウハウも蓄積されつつあり、今後はさらに活用の幅が広がっていくことが予想される。

そうしたAI×データ活用の最先端を行く企業の一つがSBIグループだ。2012年頃からデータ活用を始めた同グループは、組織を横断する専門チームを設置し、社内の若手データサイエンティストの育成にも積極的に取り組んでいるという。

DataRobot社が7月14日~8月31日にオンライン開催している年次イベント「AI Experience 2020」では、SBIホールディングスから社長室ビッグデータ担当 次長 佐藤市雄氏とマネージャー・データサイエンティスト 高山寛史氏が登壇。SBIグループにおけるビッグデータ運用とAI活用の8年の軌跡を語った。

意思決定を早める組織体制の構築/強化

SBIグループ全体におけるAI活用の目的は「顧客中心主義」を徹底することだ。顧客中心主義とは「一人一人に最適なサービスを提供する」ことであり、AIこそがその目的を果たすための手段になり得ると佐藤氏は説く。

AI活用において何よりも重要なのはデータだが、「データそのものはすぐに価値を生むわけではない」(佐藤氏)という。データを収集した後に課題を発見し、意思決定し、行動に移すことで初めて価値を生むのである。

なかでも重要なのが早期に意思決定をすることだ。そこでSBIグループでは組織を横断したAIの専門チームとしてCoE(Center Of Excellence)を結成。社長直下に位置付けてグループ会社と連携し、AI×データ活用の機動的な意思決定に貢献している。具体的には、グループビッグデータ会議やグループデータ活用推進会議などグループを横断した会議体に参加したり、個別の企業の業績に連動したKPIを毎月モニタリングしたり、主要50社のマーケティングデータ活用をサポートしたりといった活動を行っているという。

佐藤市雄氏

SBIホールディングス 社長室ビッグデータ担当 次長 佐藤市雄氏

「短期のプロジェクトでは外部の専門家とタッグを組むのが効果的ですが、中長期プロジェクトになると社内に専門チームが必要となります。ここで重要なのはチームをCレベルマネジャー(CEOやCIO、CTOなど)の直下に置くこと。そうすると機動的に意思決定することができます」(佐藤氏)

CoEにはデータサイエンティストのほか、エンジニアも在籍する。データ収集からデータ分析基盤の構築、データを活用するための法的整備など取り組みの範囲は幅広い。

SBIグループのビッグデータ運用は2012年頃からスタートした。サイトやアプリのアクセスログ、広告のデータ、CRMデータなど膨大なデータを収集。オンプレ基盤のHadoopやクラウド基盤のAWS、Google Cloud、Microsoft Azureなどに蓄積し、Tableauで可視化している。2016年頃からはJupyter NotebookやPythonを利用してデータを基にした機械学習を行い、AIの本格活用を開始した。

2017年には機械学習自動化プラットフォーム「DataRobot」を導入。社内セミナーなどを通してAI活用を促進した。若手データサイエンティストの採用も進め、体制を急速に強化していったという。

「グループ会社の課題に合わせて、データサイエンティストが提案からデータ分析、AI構築、実装、運用まで一気通貫でサポートしています。2018年にはさらに多くのデータサイエンティストを採用し、CoE組織におけるAI活用も定着してきました」(佐藤氏)

また、機械学習/深層学習分科会も発足。AIを活用できる業務分野についてアイデアを募集し、AI活用を推進した。現在、SBIグループでは73のプロジェクトが案件化しており、うち38プロジェクトが現在も稼働中だという。

「プロジェクトのうち半分は保険分野のものです。保険分野はAI活用の幅が広いのです」(佐藤氏)