ストーブリーグを沸かせている東北楽天ゴールデンイーグルス。今シーズンは残念ながらパ・リーグ下位にとどまったが、チーム強化への歩みを止める訳にはいかない。

チーム力向上は”ファン作り”と”戦力作り”の両面で

プロ野球はあくまで「興行」であり、選手の年俸の多くは放映権料や入場料収入によって支えられている。近年は地上波放映の減少などから放映権料の低下が囁かれているが、そうした中で各球団が注力するのが「ボールパーク化」だ。

以前、ITSearch+でも横浜DeNAベイスターズの取り組みを取り上げたが、時を同じくして北海道日本ハムファイターズの移転問題が話題となり、いち早くボールパーク化構想でチーム作りを進めてきた広島東洋カープがセ・リーグを制覇するなど、収益性を伴ったファン作りと戦力拡充の相乗効果が見て取れる。

楽天もその例外ではなく、ホーム球場「Koboスタ宮城」の横に日本初となる観覧車を今年5月に設置。普段あまり野球場へ足を運ぶことのないファミリー層の取り込みを図り、前年比でおよそ10万人増の162万961人(2015年実績:152万4149人)、1試合平均で2万2513人(2015年実績:2万1467人)を記録した。

野球ファンとしてのうんちく披露はここまでにしておいて、戦力拡充面において楽天が苦戦している事実は否めない。今年で球団創設12年目の若い球団は、2013年に田中将大投手の神がかり的活躍によって日本一に輝いたものの、同投手のニューヨーク・ヤンキースへの移籍によって大黒柱を失った。

長年の野球ファンであれば何となく分かることだが、田中選手のような大黒柱となる選手が数名存在すれば、チーム成績は安定する。近年安定した成績を残している福岡ソフトバンクホークスやファイターズは、内川 聖一選手や攝津 正投手、大谷 翔平選手や中田 翔選手(一部賛否はあるが)といった軸がいるからこそ、大きく成績を下げることはなかった。

一方で楽天は、則本昂大投手や松井裕樹投手が気を吐いているものの、野手陣はドラフトの”あや”もあり、球団設立当初より外国人選手やFA選手に依存する体質が続いている。こうした状況を打破するため……とは言い過ぎかもしれないが、この秋にNTTデータが発表したプレスリリースが、一部で話題になった。

世界初、プロ野球球団が監修したVR技術による選手のトレーニングシステムを提供開始

このリリースを読んだ野球ファンの筆者は、たまらずNTTデータへ連絡、取材を取り付けた。

今江選手が利用した”VRシステム”

取材にあたっては、NTTデータ ITサービス・ペイメント事業本部 ライフデジタル事業部 eライフ統括部 eライフ営業担当 課長代理 馬庭 亮太氏と、同社 技術開発本部 エボリューショナルITセンタ デバイス協調技術担当 シニア・エキスパート 鈴木賢一郎氏に話を伺った。

NTTデータ ITサービス・ペイメント事業本部 ライフデジタル事業部 eライフ統括部 eライフ営業担当 課長代理 馬庭 亮太氏(左)と、同社 技術開発本部 エボリューショナルITセンタ デバイス協調技術担当 シニア・エキスパート 鈴木賢一郎氏(右)

このトレーニングシステムは、大元の技術をNTT研究所が開発。いわゆる「2020年」に向けたスポーツ分野における研究から生み出されたもので、2月に開催されたNTT R&Dフォーラムで披露されたそうだ。

「研究所では『kirari』というイマーシブテレプレゼンス技術や、全天球映像を高画質低ビットレートで配信するインタラクティブパノラマ技術を研究しています。そのような映像系の研究開発をする中でで、バッターボックスからピッチャーの投球をVRで見るという仕組みを造り、展示していました。その展示をきっかけにイーグルスと研究所の担当者で話が進み、ビジネス担当としてNTTデータを交えた3社で実証実験が4月よりスタートしました」(馬庭氏)

「投手がボールを投げてキャッチャーミットに到達する再現映像が見られる」という字面だけ見れば、近年整備が進む野球選手の等身大映像からボールが放たれるバッティングセンターとあまり大差ない。しかし、このシステムでは3つの”すごみ”が存在する。

  • 楽天が撮影した投手動画の当て込み
  • ボールの球筋(軌道)再現
  • 球場の全周囲再現CG

もちろん、VRシステムであることから、ノートPCとヘッドマウントディスプレイ(Oculus Lift)、センサーデバイスがあればどこでも仮想のバッティングセンターを再現できるというメリットもある。例えば、実証期間中は今江敏晃選手が遠征先などでも利用していたそうだ。

Oculus Liftを利用した

なお、野球ファンであればご存知の通り、今江選手は満足のいく成績を今シーズンは残せなかった。ただ楽天も「評価が難しいシステム」という点は理解しており、「選手が1打席目に落ち着いて臨めるように」という思いで採用。実際に選手からの評判も上々で、来季からの本格採用も決まった。

VRのため、視点に合わせて見え方も変わる。キャッチャー視線も再現可能だ(左)。筆者も体験したが、球速や変化球の軌道は”リアル”そのもので、選手の評判が上々であったのも頷ける