ドーナッツチェーンのKrispy Kreme(クリスピークリーム)が3月22日からCOVID-19ワクチンの接種カード(証明書)を見せたら、同店定番のオリジナル・グレーズドを1日1個無料進呈するプログラムを開始した。終了日は2021年12月31日。公式ページのFAQから解釈すると、毎日1個ずつもらえ、すでに接種カードを持っている人ならプログラム終了までに280個以上のドーナッツをもらえる。

昨年12月にワクチン接種が始まってから2月まで、企業による取り組みは"ワクチンの接種"を支援するものばかりだった。例えば、ライドヘイリングのLyftやUberがワクチン接種会場への交通手段として配車サービスを無料または割引きで提供したり、McDonald'sやStarbucks、Targetなど多くの企業が従業員のワクチン接種を有給扱いとした。それが3月中旬頃から、Krispy Kremeのような"ワクチンを接種した人"を対象としたキャンペーンが増え始めた。

  • Krispy Kremeの定番ドーナッツ「オリジナル・グレーズド」

    Krispy Kremeの定番ドーナッツ「オリジナル・グレーズド」

クリーブランド州にあるMarket Garden Breweryは、ワクチン接種カードを持ってきた人にビールを10セントで提供する(2021人限定)。シカゴのVillage Tapは10,000ドル分の10ドル・ギフトカードを用意した。カンサスシティのWestport Flea Marketは年末まで、店内での食事という条件でワクチン接種カードで5.5オンスのハンバーガーをbuy one, get one free(1つ購入したら2つめは無料)で提供、中西部でチェーン展開するUp-Down Arcade Barは店内のゲーム用のトークン20枚を提供する。ハンバーガーチェーンのSuper Duper Burgersは、シリコンバレーを拠点とするハンバーガーチェーンらしく、ワクチン接種に行った時の写真を#covidvaccineというハッシュタグ付きでTwitterやFacebookに投稿した人にフライドポテトを無料提供する。

COBID-19ワクチン接種を奨励するようなプロモーションが拡大しているのは、米疾病対策センター(CDC)が3月8日にワクチンの接種を受けた人に向けた初の指針(暫定)を公表したことがきっかけだ。

  • CDCの指針

暫定指針では、接種が完了した人および2回目の接種が必要でも1回目から2週間を経過した人を対象に、接種済みの人または未接種でも重症化のリスクが低い人となら、屋内でマスクなし、ソーシャルディスタンスをとらずに集まることを認めている。例えば、接種完了者同士なら屋内でマスクなしでよく、ワクチン接種を完了した祖父母が健康な子供や孫の家を訪問し、屋内でマスクなしで過ごすことが可能だ。また、ワクチン接種者が感染者と接触したことが分かっても、感染症状が出ていない限り、自主隔離や検査を受ける必要はないとしている。

すべての人がCOVID-19ワクチンを受け入れているわけではなく、安全性に疑問を抱いて接種を避けている人も多い。そうした中、CDCが大胆な制限緩和に踏み切った背景には"再開への期待"の高まりがある。

それは接種会場に行くと明らかだ。3週間ほど前に私が行ったコンベンションセンターを利用したサイトは、音楽が流れるリラックスした雰囲気で、ワクチン接種に来ていた人達が口々に「これで旅行に行ける」とか、「今年の夏はバケーションを楽しめる」といったことを話していた。解放感で満ちていた。とはいえ、本当のところ、どうなるかは分からない。ワクチン接種で以前のような生活に戻っても大丈夫なのか、集団免疫が確認されるまで制限は続くのではないか、当局の説明を求める声が高まっていた。それに応えたのがCDCの暫定指針である。

訪問相手がワクチン未接種で重症化リスクが高かったり、3世帯以上が集まったりする場合は引き続きマスクを着用など対策を求め、公衆の場ではマスク着用するように促している。その上で、日常生活に戻るための「最初の一歩」として、ワクチン接種を完了した人が再開できる活動を具体的に示した。「ワクチン接種者の制限を緩和するステップを踏むことで、COVID-19ワクチンの受け入れと接種の向上につながる」としている。

それはコロナ禍において営業を制限されたビジネスの再開につながる。ワクチン接種を完了した人から利用客が戻ってくるから、ワクチンを接種した人を対象としたプロモーションに力を注ぐ。コロナ禍の影響を受けたビジネスに利用客を惹きつけるという意味では、米国版のGo Toキャンペーンのように機能している。

CDCの暫定指針に対しては感染再拡大の懸念も指摘されている。例えば、先に接種を完了した祖父母が家族を「重症化のリスクが低い人」と簡単に判断しすぎてしまう可能性もあり、未接種者に感染を広めることが起こり得る。CDCの暫定指針は踏み込み過ぎかもしれない。ただ、そうだとしても、これからワクチン普及が進む日本にとって参考になるはずだ。接種を済ませた人の間からいずれ「再開できる活動は何なのか」という疑問がわき上がってくる。それを上手く効果的な再開へと導けるように、CDCの暫定指針とその影響に注目してほしいと思う。