10月1日にGoogleが「Nest Audio」、そして10月13日にAppleが「HomePod mini」を発表した。どちらもオーディオ機能を重んじたスマートスピーカーでありながら、価格は99ドルと手頃。しばらく、元気がなかったスマートスピーカーが再び活気づいている。前回と違うのは、4年前はAlexa(Amazon)やGoogleアシスタントといったデジタルアシスタントに後押しされたブームだった。今回はデジタルオーディオコンテンツに牽引された盛り上がりになっている。

  • Googleの「Nest Audio」とAppleの「HomePod mini」

    Googleの「Nest Audio」とAppleの「HomePod mini」

音楽ストリーミング、AM/FMラジオのデジタルストリーミング、ポッドキャストなど、米国のデジタルオーディオリスナーは2億人を超えた。料理中や掃除中に聞く”ながら”消費に使われ、中でもミレニアルズやZ世代は50%がデジタルオーディオを利用している。最も利用されているデバイスはスマートフォンだが、音楽ストリーミングサービスの普及を追い風にデジタルオーディオリスナーの31%がスマートスピーカーからオーディオコンテンツにアクセスしている(2019年、eMarketer)。

そんなオーディオコンテンツの伸びを支えているのが「パーソナライズ」である。コンテンツの「発見」を促し、コンテンツをマネタイズに結びつける。

例えば、9月にGoogleが「Googleポッドキャスト」アプリで「Your News Update」の提供を開始した。「探す」タブから「Your News Update」を購読すると、ユーザーの場所、興味があること、履歴や好みなどに基づいて集められた数分程度の短い音声ニュースがリストされ、継続的にアップデートされる。テキストのニュースも対象になり、音声読み上げ機能で再生されるが、オーディオニュースの間に差し込まれても違和感なく聴ける。

私はポッドキャストプレイヤーに「Pocket Casts」を使っているが、パーソナライズされたニュース、ローカルニュースを集中して聴ける「Your News Update」が便利でGoogleポッドキャストも使うようになった。

  • パーソナライズしたオーディオニュースを届けるGoogleの「Your News Update」、「すべて再生」をタップするとリストされたニュースの連続再生が可能

ここ数年で、iHeartRadioやPandora、Spotifyといったオーディオプラットフォーム、Google、Amazonがポッドキャスト市場に参入している。Interactive Advertising Bureau (IAB)とPwCが昨年リリースしたレポートによると、2018年に4億8000万ドルだったポッドキャストの広告売上が2021年には10億ドルを超える。長く収益化に苦労してきたポッドキャスターには朗報と言えるが、デジタルオーディオ市場はさらに大きく成長する可能性を秘めている。今年5月、Spotifyがポットキャスト番組の独占配信でThe Joe Rogan Experienceと契約した。11年分の番組のライセンス料にSpotifyは1億ドルを支払ったと言われている。

それでも見合うとSpotifyが判断し、ポットキャストにさらに巨額の投資を続けているのは、デジタル広告市場においてパーソナライズ広告が成長しているからだ。リスナーの地域、関心があること、性別や年齢などに合わせて、そのリスナー向けの広告を配信する。マイクロターゲティングはWeb広告では以前から用いられていた手法だが、ポットキャストでは特に効果が期待できる。The Infinite Dial 2019によると、ポッドキャストのリスナーの41%がポッドキャストの広告を他のオンラインオーディオよりも信用すると答えている。ポッドキャストの広告を聞いた後に製品について調べるなど、何らかのアクションを起こした人が81%に上る。

デジタルオーディオおよびポットキャストの将来は明るい。だが、急成長の弊害を危ぶむ声も広がっている。ポッドキャストは元々、RSSフィードの仕組みを利用して音声や動画メディアをプッシュ型で配信するサービスとして登場した。Webカルチャーに根づいたメディアである。広告効果が高いのも、ポッドキャストがローカルラジオ局のように、ニッチなトピックも扱い、リスナーがパーソナリティを身近に感じられるような番組を提供してきたのが大きな理由の1つになっている。Spotifyのように視聴者数をバロメーターに、人気番組を独占で配信すれば、それはポッドキャストではなくオーディオショーという批判の声が上がっている。

マイクロターゲティングの導入がこのまま活発化すると、データの活用を超えたパーソナルデータの収集、データの流用などが起こる可能性も危惧され始めている。

昨年9月にポッドキャストホスティングサービスArt19がパーソナル広告構築を進めていることをBasecampが知り、Basecamp CTOのDavid Heinemeier Hansson氏が「ポッドキャストはリスナーが誰であるかターゲットされることがない最後のオアシスだ」と述べてAri19を排除した。同年12月にはポッドキャストホスティングサービスのLibsynが、リスナーのプライバシー保護を理由にパブリッシャがポッドキャストデータサービスPodsightsを利用するのを制限。今年2月には非営利のメディア組織PRXがポッドキャストにおけるプライバシー保護の必要性をテーマにしたシンポジウムを開催している。

Marco Arment氏が開発するiOS用ポッドキャスト・アプリ「Overcast」に、ポッドキャストが収集するリスナーの情報やトラッキングの有無をユーザーが確認できるプライバシー機能を追加した。

検索やオススメからポッドキャストを登録する際に、情報で「Privacy & Tracking」をタップすると、「エピソードのダウンロードやストリーミングを通じてIPアドレスが判別されます」といった情報に加えて、「動的な広告挿入を採用しており、地域や他のパーソナルトラッキングに基づいた音声広告が入る可能性があります」というような情報が注意を促すサインと共に表示される。

  • 「Overcast」に追加されたプライバシー機能、ポッドキャストのデータ収集やトラッキングを分かりやすく伝える

Arment氏はパーソナライズ広告を否定しているわけではない。しかし、ポッドキャストで増加するパーソナライズ広告について、何が起こっているかユーザーが知る方法が用意されるべきであると考えている。