米国では多くのApple直営店がまだ店を閉じている。抗議デモが始まった時に起こった略奪行為で破壊されたAppleストアのことを知っている人は多いと思うが、今の休業中の米国のAppleストアの姿を知っている人は少ないと思う。それが下の写真だ。

  • 抗議デモが行われている地域の今を表現するような場になっているAppleストア

たくさんのメッセージとグラフィティに埋め尽くされている。抗議デモが激しいところでは、どこの店も道路に面するショーウインドウを厚いボードで覆っている。ほとんどの店は通常の茶色いベニヤ合板を使っているが、Appleは黒いボードを貼っており、グラフィティやイラストが映える。

Appleは、抗議デモが拡大した始めた早い段階で、企業として人種差別と闘いインクルージョンをサポートする姿勢を示した。そんなAppleの企業理念を多くの人が支持している。一方でニューヨークの五番街に店舗を持つようなブランドであり、暴徒化が起こった時は略奪のターゲットになった。そうした見方からの書き込みもある。様々な思いが交錯していて、休業中のグラフィティだらけのAppleストアが、今の米国を切り取ったアート作品のようになっている。

有色人種はマスク着用義務免除

新型コロナウイルスの感染拡大が抑えられていないものの、自粛長期化による経済崩壊を避けるためにマスク着用の義務化といった条件付きで経済活動再開が進める州が増えている。そうした中、ソーシャルディスタンスを保てない場合は外でもマスク着用を義務化したオレゴン州のリンカーン郡が「有色人種には義務づけない」という免除規定を設けた。同郡は、白人が約90%という地域である。初めて報道を知った時に、見出しだけ読んで「もしかして…」と想像したが、こんな時期に「まさか」とも思った。

リンカーン郡がなぜそのような判断を下したのかというと、有色人種がマスクをすると怪しい人物と見なされるかもしれない。だから、そんな見た目の判断やハラスメントが心配な人に対してマスク着用免除を認めた。つまり、人種差別問題に配慮した免除だった。同郡では他にも、12歳以下の子供、障害や病気でマスクを着用できない人達が免除されている。

しかし、正直なところ米国に住む有色人種の1人として感謝の気持ちは芽生えない。有色人種が見た目で判断されるのは現実だけど、新型コロナウイルス感染拡大防止のマスク着用を免除する特別扱いが解決策になるとは思えないし、感染拡大のリスクが高まるという点では全ての人にとってマイナスでしかない。

リンカーン郡の発表と共に、同郡には「白人に対する差別」「有色人種へのハラスメントを助長する」といった苦情が殺到、すぐに有色人種の免除は削除されることになった。

リンカーン郡が免除規定を策定していた段階で違和感を唱える声は出てこなかったそうで、関係者は一様に人々の反応に驚いている。だが、今の反人種差別運動について「変曲点 (inflection point)に達した」という表現をよく見かけるように、人々は根本的な変化を求めている。そこのところをリンカーン郡は見誤った。私のような有色人種が見た目で誤解されたくなければ、服装やふるまいを含めて気をつけなければならない。公共の場でマスクを着用しなければならないなら、なおさらだ。それは負担だし、「それでも差別されるのが…」という人もいる。でも、理解してもらうことに努めなければ、何の前進も向上もない。特別扱いでは、お互い問題解決に歩み寄れない。

7月の広告出稿ボイコットでFacebookを変えられるか?

NAACP (全米黒人地位向上協会)などによる#StopHateForProfitをきっかけに、Facebookへの広告出稿を一時的に取り止める企業が増加している。#StopHateForProfitは、社会の分断や憎悪を助長する投稿を放置し、ヘイトを利益に利用しているとして、Facebookに広告の掲載基準の見直しを求め、7月に広告出稿を中止するよう企業に呼びかけている。REIやPatagonia、North Faceといったアウトドア企業がボイコットを宣言し、Eddie Bauer、Eileen Fisher、Hershey's、Levi Strauss、Magnolia Pictures、Starbucks、Verizonなどが続いた。日系企業ではホンダ、Beam Suntory、そして電通グループ傘下の360iも支持していると報じられている。

StopHateForProfitについては、その効果を疑問視する声が強かった。過去最大規模のボイコットになっているとはいえ、企業が広告出稿を中断しても、Facebookの広告売上は800万を超える中小ビジネスによって支えられており、ビジネス活動再開で7月には中小ビジネスの出稿が伸びると予想される。また、ボイコットする企業もFacebookからの撤退を辞さない構えではなく、一時的な中断であり、中途半端な結果に終わる可能性が指摘されていた。

しかし、広告産業に大きな影響力を持つUnileverとCoca-Colaが加わったことで風向きが変わってきた。Unileverは7月だけではなく、FacebookとTwitterへの広告出稿を今年は見合わせる。Coca-Colaは、Twitter、YouTube、Snapchatなど全てのソーシャルメディアを対象にしている。また、広告主として世界最大のProcter & GambleもFacebook広告の見直しを検討していると報じられており、AxiosによるとFacebookと強いつながりがあるMicrosoftが5月にFacebookおよびInstagramの広告を中断したという。

そうした中、レストラン・小売店の口コミサイト大手Yelpが「Yelp: Local Economic Impact Report」というローカルビジネスに関する衝撃的なデータを25日に公表した。3月1日時点でオープンしていた米国のYelp登録の飲食店で、6月15日時点で閉まっているビジネスが23,981軒、その内の53%がすでに廃業している。ショッピング&リテールは27,663ビジネスが閉まっており、すでに廃業したビジネスが35%に達する。

  • Yelpに登録されている米国の「ショッピング&リテール」「飲食店」「美容&スパ」「フィットネス」で、6月15日時点で休業中または廃業したビジネス数、閉まっているビジネス全体の41%がすでに廃業 (Yelp: Local Economic Impact Report)

こうした時期に中小ビジネスが多くの顧客にリーチできるFacebook広告をボイコットするのは社会の負担になり得る。だが、ヘイトは変曲点に達しており、解決を先延ばしにしても問題が長期化するだけである。人々や社会に価値を生む広告システムであってこそ、苦境にたたされる中小ビジネスの回復の助けになる。ソーシャルメディアを通じた広告の効果をビジネス側が認めているからこそ、変化の実現にこだわった行動が広がっている。