サンフランシスコ国際空港の全てのターミナルに、UberやLyftといったライドサービス専用の乗車スペースが設けられた。タクシーよりもライドサービスの利用者の方が圧倒的に多いにも関わらず、これまで専用の乗車スペースがなかったから到着便が多い時間帯にはターミナルの出口がライドサービスの車で混雑していた。新しい乗車スペースは公共の交通機関やタクシーと同じような扱いでアクセスしやすく、自分が乗る車を見つけやすくてとても便利だ。

UberやLyftの登場によって、この10年で米国での移動は格段に便利になった。白タク扱いされていたのは今は昔、今や「タクシーよりライドサービス」が人々の常識であり、ライドサービスをスムースに利用できるように空港が対応するのは自然なことである。

  • 各ターミナルでライドサービスの乗降スペースは異なるが、どこも徒歩3〜5分ぐらいでアクセスできる。

    各ターミナルでライドサービスの乗降スペースは異なるが、どこも徒歩3〜5分ぐらいでアクセスできる。

ライドサービスによるディスラプション (破壊)と再構築を経験したことで、米国ではタクシーのような長く変わらなかったものでも「より便利なものに変えられる」という意識が人々に根づいた。そうなると、次の破壊への期待が高まる。それは色々な産業で進行しているが、ライドサービスのように一般の人達にとって身近なものとなると「食」である。

グローサリーストアで食材を買ってきて料理するよりもフードサービスの利用が増え、2015年に米国人の食品支出で初めて「グローサリーストア以外」が「グローサリーストア」を上回った。その傾向は都市部ほど強く、ニューヨーク市では今年、フードサービスがビジネス向けリースの契約の約40%になっている。これは服飾、金融、フィットネスクラブを合わせたシェアよりも大きい。また、スクリーンタイムが長い人ほど食事の効率化を図る傾向が見られる。スターバックスのようなクイックサービス、ChipotleやSweetgreenのようなファスト-カジュアル・サービスが好調だが、食事を簡単に済ませたいというわけではない。一方でオーガニックを選ぶような食へのこだわりも強まっており、「食事を効率的に充実させる」のがトレンドとなっている。そうした中で、オンラインフードデリバリー、ミールキットデリバリーなど、ネットやモバイルを活用したサービスが成長している。

次のマイルストーンは2020年。フードサービスへの支出で"オフプレミス (off premise)"が過半数になる。オフプレミスとは、デリバリー、テイクアウト、ドライブスルーなど店外での食事だ。それらが初めてレストランでの食事を上回る。Cowen and Companyの予測では5年以内にオフプレミスが約80%にまで成長する。

配達無料のオンラインデリバリーサービスも登場

中でも注目されているのが「食のUber」と呼ばれるオンラインフードデリバリーサービスである。シェアではまだ一割にも達していないが、伸び率はフードサービスでトップだ。

  • Uberが8日に発表した4〜6月期決算は52億ドルの赤字で同社の株価が急落したが、そうした中でフードデリバリーサービスのUber Eatsは好調だった。

そんなフードデリバリーサービスのあり方をめぐって、4~6月期決算の発表においてちょっとした舌戦が繰り広げられた。

口火を切ったのはGrubhubだ。売上高は前年同期比36%増でアナリストの予想を上回ったものの、純利益は96%減で同社の見通しを下回った。業績発表の場で、CEOのMatt Maloney氏がライバルは「料金をごまかしている」と非難した。Grubhubよりも安い配達料で利用できるように見せかけているが、実際にはサービス料金など複数の料金が追加されて利用者が受け取る請求書の金額は高くなる。

同じタイミングで、New York Timesが公開したフードデリバリーサービスのパートナー配達員のキビしい労働条件のレポートも話題になった。中でも議論になったのがチップの取り扱いだ。米国では、サービスが心地良かったらその人にチップを渡す。フードデリバリーサービスの場合だと配達してくれた人へのチップになる。ところが、DoorDashなどの仕組みではアプリでチップを渡すと、それが配達員ではなくDoorDashの売り上げに加算される。6ドルの賃金の配達で、配達員が2ドルのチップをもらっても、配達員が受け取るのは6ドルのままなのだ。

人々の反応は、チップ文化の米国においてその仕組みは配達員からチップを奪って自分のものにしているのも同然という意見が多数だ。中には、チップも売上とすることで配達料金を抑えられ、それによって利用が増えて配達員に還元されるという見方もあるが、一方で"不透明な料金"の指摘もある。それらを考え合わせると、利用者と配達員のためを優先した仕組みになっているとは考えにくい (論争を受けてDoorDashはチップの取り扱いの改善を約束した)。

オンラインフードデリバリーサービスは成長の過程にあり、利用者が今後も使い続けていきたいと思えるように目先の利益より利用体験の向上にこだわるべきというのがGrubhubの主張だ。しかし、そのGrubhubもレストランの電話番号にかかってきた注文にも課金したり、レストランのオンラインプレゼンスを同社のマーケットプレイスに誘導するといった行為が非難された。

食事をより効率的に、そして充実させたいという声、デリバリーピザなど従来のフードサービスがそうしたニーズを満たせないことへの不満が確かに存在し、ライドサービスのような変化を期待して新しいサービスを受け入れようとする人々の意識も高まっている。ただ、今日のオンラインフードデリバリーサービスがディスプラプションを起こせるような存在になっているかというと疑問符が付くのも事実。

新しいフードサービスは「パイを奪い合う」状況にはまだなく、まだ新たなソリューションと成長の可能性を模索する状況にある。例えば、大学の学生食堂など運営するAramarkが大学キャンパス専門のフードデリバリーサービスのGood Uncleを買収した。Good Uncleは大学という環境を利用して、学生がスマートフォンから注文した料理を近くのレストランやカフェから30分以内に"配達料無料"で届ける。そのサービスモデルはビジネス街などにも応用可能だ。他にも様々なソリューションが誕生しているから、いま食が面白い。成長の可能性を探る段階なのに「パイの奪い合い」に終始していると、GrubhubやDoorDashもディスラプトされる側に回ってしまいそうだ。