今日は株式会社すららネットにおじゃまします。すららネットは小学校高学年から高校生までを対象に、国語・数学・英語の3教科の対話型アニメーション教材「すらら」を配信しています。いわゆるe-Learningというものですね。すららネットは、その教育活動において得られたデータを統計的に分析しているそうです。

今回は取締役の柿内美樹さんと、すららネットと共同で統計的な研究を行っている東京大学経済学研究科助教の萱場豊さんにお話をうかがいました。

-柿内さん、萱場さん、本日はよろしくお願いします。さっそくですが、すららネットの事業について教えてください。

柿内さん:はい。株式会社すららネットは、もともとは上場企業の一教育部門だったのですが、2010年11月に独立した会社です。

学校や塾での勉強は、教える先生の質によって差がでますよね。また、カリキュラムが決まっているので、理解が追いつかないのにどんどん先の単元へ進んでいってしまうということもあります。そうなると、わからない子はどんどんわからなくなってしまうんです。

勉強はわからないと楽しくないんですよね。逆に言えば「わかる」というのは楽しいことです。この「わかる」楽しさとそれによって「できる」喜びを子どもたちに伝えていきたいなと思ったんです。

-御社が提供する対話型アニメーション教材「すらら」とは、どういったものなのでしょう?

柿内さん:これまでのe-Learningには大きくわけて3つの形態がありました。

講師のレクチャーを配信する動画配信型、問題集を解いてその結果を分析する問題集型、携帯ゲーム機などを使ってゲームを通じて学習するゲーム型などです。

これらはどれも一長一短あるのですが、その長所を集めて複合的につくられているのが「すらら」なんです。

-実際の画面を見せていただきましたが、キャラクターが教えてくれるんですね。

「すらら」は平成24年度日本e-Learning大賞の文部科学大臣賞を受賞した教材でもある(画像は中学版数学のもの)

柿内さん:先生役のキャラクターと、生徒役のキャラクターがいるんです。先生が一方的に教えるだけでなく、生徒もそれに対して答えるようなかたちになっています。

学ぶ側の視点も用意されているので、よりリアルで臨場感がある環境をつくることができるんですよ。途中で問いかけがあるので、しっかり授業を聞くという緊張感もあります。

-なるほど! これなら飽きずに勉強できますし、わからないところのわからない理由をしっかり理解できそうですね。

柿内さん:分野によってキャラクターが違いますし、コンセプトも違います。地球にやってきてしまった宇宙人を宇宙に帰してあげるというようなユニークな物語を演出することで、楽しく学習できるようになっています。

人気の先生や嫌いな先生など、学習者にとっても好みの差が出てくるのがおもしろいですね。

「すらら」のキャラクター。中学数学生徒:カケル(左)、中学数学先生:ミクロン(右)

「すらら」のキャラクター。高校数学生徒:アベレージ(左)、高校数学先生:ハンナ(右)

-萱場さんはどのような研究をされているんですか?

萱場さん:私の研究関心分野は脳や心についての神経科学のデータを経済学に応用する神経経済学です。そして、応用計量経済学、いわゆる統計学です。また、学習理論なども研究分野です。

-なるほど、複合的なものでしょうけれど、統計や学習理論を研究するために「すらら」と協力しているというわけですね。

萱場さん:オンライン学習における大規模なデータを「すらら」はたくさん持っています。正答率だけでなく、その行動まで追えるようなデータですね。

-行動履歴ですか。

萱場さん:たとえばレクチャー画面を読み飛ばしてしまう子もいるんですよ。レクチャー画面を何分見ていたのかということが、「すらら」ではデータとして残ります。「レクチャー画面を見る時間が短い子はドリルの点数も低い」といったようなデータがシステムに残るわけです。

ほかにも解答速度によって正答率が変化するのかといったような命題も、たてられますよね。そういった学習の行動履歴の統計を分析するということに私は協力しています。

「すらら」の解析画面

柿内さん:「より理解度を高めながら楽しく勉強を進めるためにはどうすればいいのか」という塾や学校の先生、そして親が知りたい情報が解析できるわけです。

-e-Leaningだからこそできる学習の解析ですね。統計は、平成24年度からは高校数学の必修に取り入れられたりと、注目を浴びていますね。

萱場さん:ビッグデータといった言葉がよく聞かれるようになりましたが、経済学で数学や統計を使うことはすごく多いです。統計を1から大学生に教えることはなかなか大変なので、高校で教えていただけるのはありがたいですね。

それと、統計というのは使う人のリテラシーが大切です。統計としての分析の結果を出すことそのものよりも、結果をどう解釈したらいいか、どんな解釈が適切・不適切かという判断が求められますからね。

-萱場さんは経済の分野に進まれましたが、数学は得意だったんでしょうか?

萱場さん:数学はあまり好きではなかったのですが、経済の分析に当てはめるなど、ツールとして使ううちに数学のおもしろさは感じるようになりましたね。

美しい証明といったようなことも大学院くらいになってからわかるようになりました。応用して使おうと思ったときの数学は強いですよね。

-実践の中で輝く数学、良いお話です。柿内さんは数学についてどうでしたか?

柿内さん:私はすごく苦手でしたね。ただ、この仕事をやるうえではどうしてもやらなければいけませんので、本を読んだり、インターネットで調べたり、専門家の先生に聞いたりしながら、自身も勉強しなおしています。

萱場さん:社会では数学的なデータ処理を求められる場面ってすごく多いので、日常においても数学的なベースは必須でしょうね。

-柿内さん、萱場さん、本日は貴重なお話をありがとうございました。

萱場さんの「統計は使う人のリテラシーが不可欠」という言葉は、いろんな人に覚えておいてほしい言葉だと思いました。統計といってもやはりツールなんですね。ツールとして使いこなすためには、解釈する頭も必要ということです。柿内さんがおっしゃっていた「わかるから楽しい」ということは、解釈頭を育むためのヒントになりそうです。自分で考えて理解する、その繰り返しが数学というツールを使いこなすときに大きな力になりそうですね。

今回のインタビュイー

柿内美樹(かきうち みき):左
株式会社すららネット取締役
東京女子大学現代文化学部卒業。
教育系出版社で書籍や教材の企画に携わったのち、数社を経て2011年にすららネット独立の際に取締役に就任。

萱場豊(かやば ゆたか):右
東京大学大学院経済学研究科 助教
カリフォルニア工科大学博士(経済学)
研究関心分野は実験経済学、応用計量経済学、行動ファイナンスと学習理論など

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