ということで6回にわたって、RAMBUSのTBIについて紹介してきた。現状はあくまでもTechnology Initiativeのレベルだから、今の時点でどうこう言っても仕方ない話であるが、興味深い取り組みであることは間違いない。
CPUコアとMemory Bandwidthのギャップ、という話は今に始まったことではないし、RAMBUSがこのギャップを埋めるための製品を常に志向しているのも昔から(というか、そもそもRAMBUS設立の動機がまさしくこのギャップを埋めるものであった)というあたり、或る意味この会社の方向性の軸がブレてないのは、何だかんだ言ってもTechnology志向の会社であることを明確に示している。
もっとも、そのSolutionが必ずしも現実に上手くMatchしていない、というのもこの会社の常。初代のRDRAMや第2世代のConcurrent RDRAMの場合、ある世代の製品(例えばGame ConsoleやVideo Card)には採用されても、それが次の世代に採用されるとは限らないというあたりが、同社製品の特徴とも言える。例えばConcurrent RDRAMの場合、Cirrus LogicのCL-GD5464などに採用されたものの、Video Cardへの採用例はここで打ち止め。まぁCirrus Logic自体がこのころからGraphics Controllerへの取り組みを次第に減らしつつある時期だったから仕方が無いのかも知れないが、結局GDDR系に戻ってしまった。あるいはDirect RDRAM。Intelは結局PC-800 / PC-1066でDirect RDRAMの採用を打ち切り。結局最後まで使われたのはSCEのPS2のみだった事になる。少なくとも当初の目論見と比較した場合、うまく行かなかったと判断されても仕方ないだろう。
ただ、これでだいぶ懲りたのかもしれない。XDRに関しては、ちょっと違った様相を呈しつつある。勿論最初の牽引役はCell BEであり、SCEIやIBM、Toshibaなどに広く採用されたわけだが、Cell BEそのものが順調とは言えない状況だけに、まだ広く使われているとは言えない状態だ。ここまではDirect RDRAMなどの時と変わらない構図である。牽引役のアプリケーションが大量に出回ることを予想したものの、実際にやってみると(様々な理由で)全然思ったように売れず、むしろ足を引っ張っているといった風情だ。
ただ、それに加えてXDRではもう少し地道な売り方をしているのが特徴的である。ここでの主役はDigital TV系。こちらでもちょろっと出てきた話だが、HDTVなどの内部のコントローラに使う場合、XDR DRAMを使うことでGDDRを使うよりも少ない個数で、より大きな帯域を得られるため、トータルとしては安くて高性能なソリューションとなる、という話である。
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Photo01:こちらはRDF Tokyo 2007の際に配布されたRAMBUSの「次世代デジタルTVに必要なメモリバンド幅への対応 低コストと高性能を両立したコンシューマ機器用DRAMソリューションを実現」と題されたホワイトペーパーよりの抜粋。MPEG-2 HDでの信号取り扱いは問題ないが、今後H.264に移行していったり、HDNMの対応を進めてゆくと、帯域がどうしようもなく不足するという構図。(出典:RAMBUS) |
これに関連する話がこちら(Photo01)。これは「HDTVといっても、勿論Over 50inchの大画面製品はともかく、40inch以下の普及帯の場合、もう新機能とかは不要だし、であれば何もXDRを使わなくてもDDR2ベースで実現できるし、確かに個数はXDRの方が少ないかもしれないが、コストベースで言えばXDRが1つとDDR2が4つはほぼ同等では?」という問いかけに対するDonnelly氏の返答の一部である。このホワイトペーパーはPhillips Consumer ElectronicsのSystem ArchitectであるIr. Leon Vervoort氏の作成したもので(他にRAMBUSからも2人、参加している)、要するにHDTV系にはまだまだ機能が求められてゆくため、そもそもDDR2のまま推移することは不可能(Photo02)という結論である。HDTVの場合、容量そのものはそんなに大量に要らない割に、帯域は高めに必要という事になるので、DDR2をベースとしたSolutionではどうしても無駄が多い(容量にマッチさせると帯域が不足し、帯域にマッチさせると容量が余る)事と、絶対的な帯域が不足するあたりが問題としている。勿論2009年あたりからはDDR3への移行もありえるとは思うが、こちらは更に容量が増えることになるため、ミスマッチそのものの問題は解消しないというのがここでの主張だ。
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Photo02:こちらも出典は同じ。DDRの帯域はDDR2-800×6~8で4.8GB/sec~6.4GB/secのピーク帯域、メモリ効率を80%と見積もっている。(出典:RAMBUS) |
こうした見方、つまり毎年順調により高い帯域が必要とされるというシナリオが成立するかどうかは議論の余地があるにせよ、決して大きくない(なにせ1台のHDTVに1個か、多くても2個しかXDR DRAMは入らない)マーケットではあるのだが、それでもこうしたところで実績を作るのがまずは重要、と同社は考えているようだ。勿論相変わらず、大きなマーケットに色気は見せている(Photo03)同社だが、それはそれとしてまずは足元を固めてゆくという堅実な方向性を見せているのは、割と賢明な選択だと思う。最近、某社のプロセッサの次世代品としてXDRの採用が検討されているなんて話が一部で出ているだけに、この調子で足元を固めてゆくと、2010年頃にはもっとXDRやXDR2が広く使われるようになり、TBIが立ち上がるための足場が出来上がるかもしれない。
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Photo03:こちらはRDFでWoo博士が行った"Computing Trends and Applications Driving Memory Performance"のプレゼンテーションより。TBIを使えば、今のグラフィック用メモリと同じ構成で8倍の帯域が実現できるというもの。(出典:RAMBUS) |