どの場所で撮影したかわからなくなる場合

エプソンのR-D1xGを持って街歩きをしていると地図や旅行ガイドを片手に史跡を訪ね歩いている人たちや夫婦でウォーキングしている人たちに出会うことが多い。彼らはきちんと目的地を設定して地図に従って歩いているので見るべき遺構や建物の見落としは少ない。だから後日、「あの風景はこの辺りだったよね」と、地図を見ながら歩いたところを振り返ることもできる。

一方、写真撮影が主な目的の場合には、気になる被写体があれば角を曲がるし、路地の向こうに何か見えれば遠回りでもそちらに向かってしまい、地図を持っていても最初に考えていたルートのまま進むことは少ない。これは主な目的が「景色を見て楽しむ」ことではなく「印象に残る被写体を見つけて良い写真を撮る」という違いがあるからだ。そのため、適当な路地に入って撮影してしまうと、後でどの場所で撮ったのか正確な位置がわからなくなることがよくある。

iPhoto'09なら、ジオタグに情報が記録されていれば、環境設定の詳細にある「撮影地を検索」を自動に設定しておくと情報をクリックした際に地図上に撮影地が表示される。ただし、当然だが、インターネットと接続されている必要がある

ジオタグを付加した写真データをPicasa経由でウェブアルバムにアップロードすると、経度緯度から自動で地図上に写真をマッピングする。歩いた道を確認できるだけでなく、撮影場所の貴重な記録となる。友人に写真を見せる際にも判りやすい

そんなときに威力を発揮するのがGPS(Global Positioning System)だ。GPSといえば、人工衛星が発する信号を受信して現在位置や進行方向を表示するカーナビが馴染みが深い。このGPSを利用してデジタルカメラの写真データに位置情報(ジオタグ)を埋め込むことができるのである。ジオタグはデジタルカメラの写真の諸情報を保存するExifの情報の一つで、緯度、経度などを記録しておくことができる。このジオタグを利用すると、従来のような撮影の日時だけでなく、撮影地という観点でも写真を整理することができるというわけだ。

GPSレシーバ未搭載のデジタルカメラで位置を特定するには

このようにとても便利なジオタグだが問題が一つある。ニコンのCOOLPIX P6000のようなGPS機能が搭載されているカメラがほとんど存在しないのだ。そのため、デジタルカメラで撮影をしてもジオタグに情報が記録されることまずないといってよい。これは、R-D1xGも同様である。

ニコンのCOOLPIX P6000。オープンプライスで、実売は5万円~6万円ぐらい。ちなみに携帯電話のiPhoneもGPS機能を内蔵しているので写真を撮影するだけで自動的に位置情報が記録される

では、R-D1xGのユーザーは、ジオタグがまったく利用できないかというとそうでもない。COOLPIX P6000のようにGPSレシーバが内蔵されていなくても同じような機能を持つ携帯用のGPSレシーバを持ち歩いて時間ごとの位置情報を記録しておき、それを写真データの撮影時刻と一致させればよいのだ。つまり、R-D1の内蔵時計の時刻を正確に設定しておきさえすれば、後で撮影時刻から緯度と経度を割り出すことができる。

そんな、R-D1xGの撮影の友に利便性が高く有用なのがソニーから2009年3月に発売になったGPS-CS3K(1万8,900円)だ。GPSによる位置測定と記録に特化した製品で、単体では内蔵メモリに15秒ごとにひたすら位置情報を記録するだけのハードウェアだ。しかし、SDメモリーカードスロットを持っており、JPEGならば写真撮影後にGPS-CS3Kにメモリーカードを入れてマッチング操作するだけで、数分で写真にジオタグを付加してくれる。従来は、パソコンを使用してGPSのログデータを編集し、専用のソフトを利用して写真と一致させる作業が必要だったが、GPS-CS3Kなら撮影帰りの電車の中でジオタグの処理ができる。ただし、RAWデータで撮影する際にはGPS本体内でマッチングができないので、従来通り帰宅後にパソコンで処理する必要がある。

タバコの箱を一回り小さくしたくらいの大きさのGPSレシーバ。価格は1万8,900円だが、安いところなら実売1万5,000円以下で購入できる。これをカバンのポケットなどにいれておくだけで、屋外ならほとんどのところで位置情報を記録できる。GPSレシーバは各メーカーから発売されおり、バイクでツーリングする人やマラソンランナーなどにも人気が高いが、このGPS-CS3KはSDメモリーカードとのマッチング機能などデジタルカメラユーザーを意識した製品となっている

今回、このGPS-CS3KとR-D1xGにコシナのフォクトレンダー「SUPER WIDE-HELIAR 15mm F4.5 Aspherical」(6万5,000円)を持って歩いたのが三ノ輪から浅草。東京に残る路面電車2路線のうちの1つである都電荒川線の起点である三ノ輪、江戸の遊郭だった吉原を経由して浅草に裏からアプローチする約5kmの散歩。途中、現在でも風俗街で知られる吉原ではさすがにカメラを首からぶら下げて歩くのは憚られるが、昭和の香り残る平坦で歩きやすい道である。なお、今回の風景写真にはジオタグを付加してあるので、地図への表示などを試してみて欲しい。

今回は、お馴染みのエプソンR-D1xGにフォクトレンダーのSUPER WIDE-HELIAR 15mm F4.5 Asphericalとビューファインダを取り付けて撮影

東京都内で2線のみ残る路面電車のうち都電荒川線は、ここ三ノ輪と早稲田を結ぶ。1両のみの車両は、普通に生活の足だ。祝日には日の丸を掲げて走るのも昔と同様である

停留所のすぐ横にある昔ながらの煎餅屋。はかり売りや一枚売りをするのが、いまのスーパーでパックされて売られている煎餅と違うところだ。古い町並みには煎餅屋が現役で残る

都電荒川線は当初、王子電気軌道として創立され、その後都電に組み込まれた。このレトロな梅沢写真館ビル(左)は、その旧「王子電気軌道」本社ビルといわれ、ビル1階の飲食店の並ぶ通路をくぐると起点である三ノ輪の停留所だ。吉原土手にある明治38年創業の桜鍋屋「中江」(中央)。この近辺は東京大空襲でほとんど焼失したため古い建物でも戦後の物が多いが、この中江は空襲に耐えた80年以上の建築。江戸時代の建物もほとんどが関東大震災で消失して残っていないため、都内東部では震災復興期の建物が一番古い建物となる。同じく吉原土手、中江の並びにある天婦羅「土手の伊勢屋」(右)。いまでこそ最寄りの三ノ輪から徒歩15分、浅草からなら30分近くかかる場所だが、以前なら花の吉原の大門のすぐ脇、交差点の筋向かいには「見返り柳」が立つ、にぎやかな場所だったと想像される。この建物も震災復興期の昭和初期のもので風情がある

日本堤にある銭湯「廿世紀浴場」(左)。昭和初期のアールデコ風銭湯でいまは営業していないが建物はまだ残されている。東京都内の銭湯といえば、右の「曙湯」のような立派な破風がついた寺社風の建物が多いが、廿世紀浴場はかなり特徴的でこれが80年前に建築された頃はかなりの異彩を放っただろう。ちなみに「廿」は「にじゅう」と読む

地蔵堂と提灯屋

SUPER WIDE-HELIAR 15mm F4.5 Asphericalは、シャープで歪みも少ない良いレンズだが、周辺減光はかなりのものがある。R-D1xGはAPS-Cサイズの撮影素子なので、35mmフィルムに比べれば周辺部は使用していないためにこの程度で済んでいる。デジタルカメラならば、ソフトの機能で周辺減光の補正も可能だが、これもレンズの味と考えるのであれば無理に補正する必要もない

仲見世と花屋敷裏

浅草寺裏には「はとばす」専用の駐車場がある。ちょうど浅草寺の本堂が屋根の修復に入っているため、まるでピラミッドのような覆い屋根がかかっており、それをバックに特徴ある黄色のバスが勢揃いしている風景はちょっと近未来的だった