3本目のレンズは逆輸入品でゲット

コシナのフォクトレンダー「ULTRON 28mm F2.0」、「COLOR SKOPAR 21mm F4.0」に続き、3本目のレンズとなる「NOKTON 50mm F1.5 Aspherical」をゲットしました。財力はもちろん、レンズを探す体力も続きませんので、これでレンズ漁りは一旦お休み。それにしても、交換レンズに夢が膨らむのはカメラ道の宿命ですね。

ところで、少し不思議なのですが、レンジファインダカメラの中古レンズは意外と安くありません。値段は新品に比べて確かに安く設定されているのですが、そういったレンズにはカビやキズなどの問題を持っているものも少なくないのです。かといって、ライカのレンズにはさすがに手が出せず……。そこで、新品でもかなり安く販売されているフォクトレンダーとなる訳です。私が今まで購入したレンズがすべて新品なのは、実はこだわりではなく、こういった理由からでした。さらに、逆輸入品で見つかれば、程度のよい中古品よりも安く新品が買えることもあります。今回の3本目のレンズも、こうして手に入れました。もっとも逆輸入品がそう簡単に見つからないので、苦労したのは確かですが。

R-D1xGとフォクトレンダー「NOKTON 50mm F1.5 Aspherical」。オリジナルフードは実用性が薄いので、手持ちのNikon HS-9を装着してみました。フィルタ径が52mmなのでサイズはバッチリです。50mmについてはロシア製レンズなども含めるとリーズナブルな価格のものが多いのですが、開放F値の小さい明るいレンズに絞ったため、このレンズに落ち着きました。個人的には、一番持ちやすく撮影しやすいレンズです

私は新しいレンズ交換式カメラを手に入れた際、レンズは35mmを中心に24mm、80mmで揃えることを基準として考えています。R-D1シリーズのレンズ画角は1.53倍なので、計算上は18mm、23mm、52mmとなります。いろいろと悩んだ末、距離計にもギリギリで連動しているレンズ画角ということで、21mm、28mm、50mmとしました。つまり、これで当初の予定どおりのレンズ構成となったわけです。次は15mmが気になるところですが、懐の体力を付けてからにしたいと思います。それに15mmとなると完全にビューファインダが必要で、これまでとは撮影方法が大きく変わってしまいます。しばらくは21mmでビューファインダ撮影に慣れておくことが必要だと感じたわけです。

3本揃ったコシナレンズ。向かって左から「COLOR SKOPAR 21mm F4.0」、「ULTRON 28mm F2.0」、「NOKTON 50mm F1.5 Aspherical」。28mm以外は全てLタイプなので、マウントアダプタを装着しています。レンズをゆっくりと付け替え、ピントをまったりと合わせて撮影するこの感覚を覚えてしまうと癖になります

さて、50mmもR-D1xGに装着すると1.53倍の77mmになり、人物撮影に理想的な中望遠レンズとなります。ということで被写体を何にするかで随分と悩んでしまいました。

そんな矢先、いつも多摩美術大学 造形表現学部の校内でガヤカヤと騒いでいる学生達の作品制作中の表情がとてもいいことを思い出し、そんな学生達をアップで撮影してみたくなりました。みんな本当にいい顔をしているのです。ただし、顔出しとなると許可を取るのが大仕事。しかし、よく知った学生の多い造形学科のアトリエで事情を話してみると、いきなり3名の大学院生からあっさりと許可が出てしまいました。あとはそれが引き金となり、造形学科から2名、デザイン学科から3名の許可を得ることができました。映像演劇学科の学生は今回登場していませんが、可能であれば第2弾の時にチャレンジしてみたいと思います。

さて、無事に許可は取れましたが、撮影はそう簡単ではありません。事前に教室を何度もリサーチした結果、教室の雰囲気をできるだけ伝えたいのでカラーバランスをあえてオートとし、RAW現像で色被りを若干修正する程度に処理することにしました。次の問題はピントです。ポートレートなので絞りは開放のF1.5とし、単体露出計で測光した値のシャッタースピードとしました。おおよそ1/30~1/60相当となるため、ピント合わせにはかなり苦労します。また、造形学科の教室は画材などが所狭しと点在しているため、それらを踏まないよう不自然な体勢での撮影となり、体力も要求されるのです。

ところで、レンジファインダカメラはシャッター巻くが手巻きのためモータがなく、純粋にシャッター幕の切れる音しか出ないという利点があります。そのため、神経を集中しているような状態を撮影するには好都合かもしれません。ただし、10枚、20枚といった連続撮影ができないので、3~5枚を撮影するごとにワンクッション空けるというリズムを掴むのに随分と時間が掛かってしまいました。以下、実際に撮影した順番で学生の写真を紹介してみます。

藤田弥子さん 多摩美術大学大学院美術研究科博士前期課程絵画専攻2年
撮影時は作品中の人物描写が気に入らず、友人をモデルとして問題部分を描き直している最中でした。私を入れると3人が至近距離で動いていたので、撮影場所の確保は大変でしたが、真剣な表情の合間に見せるやさしい表情をなんとか撮ることができました。普段の彼女のキャラクターを知らないとこの表情を待つことは絶対にできません

砂川啓介さん 多摩美術大学大学院美術研究科博士前期課程絵画専攻2年
制作中の砂川さんは何かに取り憑かれたような集中力で描き込むため、撮影中は話しかけるような状況は作り出せませんでしたが、いい表情を撮ることができました。今回、一番撮影に緊張したシーンでした。もっとも制作中ではないときの彼はとても気さくで楽しい学生です

大上倫太朗さん 多摩美術大学造形表現学部デザイン学科1年
立体構成作品を試行錯誤している最中だった関係で、ほとんど下を向いている状況でした。しかし、許可がでているからと言って、どんな角度から撮影してもいいという訳にはいきません。再撮影を覚悟していましたが、ふと黒板を見上げた瞬間のいい表情を撮ることができました

伊東明日菜さん 多摩美術大学大学造形表現学部造形学科日本画専攻2年
油画と異なり日本画制作中の空気は一種独特の雰囲気があり、初めは緊張しましたが、写真とは裏腹に軽い冗談を言いながらリラックスして撮影することができました。ただし、どうしても下を向いての制作となるため、下から見上げるようにして撮影しなければならなかったのが少し大変でした

小林麻衣子さん 多摩美術大学大学造形表現学部造形学科日本画専攻4年
よく質問に来てくれる学生でしたが、撮影の許可が出るまで名前を知りませんでした。今回もっとも撮影条件の良いアトリエでしたが、お互いに少し緊張気味でもあったので、彼女の硬さが取れた優しい表情を撮影するまでには、少々時間が掛かってしまいました

鈴木泰人さん 多摩美術大学大学大学院美術研究科博士前期課程絵画専攻2年
大学院の前から都合6年間校内で騒いでいた学生なのでついつい雑談に花が咲いてしまいます。この写真はふとキャンパスを見上げた瞬間を撮影しましたが、実は雑談で2人とも笑い転げているような状態でした。説明しないとこのあたりの裏事情は解らないですね

杉田健一郎さん 多摩美術大学大学造形表現学部デザイン学科1年
ノリのいい学生でいつも面白い突っ込みをもらうのですが、いざ撮影となるとかなり緊張してしまったようで、今回撮影した8名の中で唯一、別の日に改めて再撮影を行うことになりました。しかも、別の先生の授業が行われている教室で、休憩時間にゲリラ的な撮影というアクロバット技を行っています

鈴木恵利香さん 多摩美術大学大学造形表現学部デザイン学科1年
コンピュータルームでの撮影のため露出には苦労しました。室内は意外と暗く、モニタの光を顔面にもろに受けてしまうのでコントラストが高くなりすぎてしまうからです。幸い、小さい予備光源がモニタの50cmほど上にあったので、それを使う事でコントラストを押さえることができました

何かに集中しているときの人間の表情は、本当に綺麗で研ぎ澄まされていると感じます。しかし、それを撮影するのはやはり難しく、私はあえて捨てカットを思いきり撮影することにしています。数枚程度を撮影し、その中からよい写真を探すというのはあり得ません。雑談できる仲であっても、コチラが空気の中に入り込むまで時間が掛かるからです。

とにかく、ポーズを求めて撮影しているわけではないため、ふとした仕草を切り取るのは至難の技。被写体が気に入ったら、1回で決めようとせずに何度も通い詰めないとダメだと思いました。ただし、今回は本当にラッキーで、1名を除きほとんどの学生は10分程度の撮影時間でいい表情を撮ることができました。事前にそれぞれ学生の一番いい表情はどのあたりからの撮影なのかをシミュレーションしておいたので、それが功を奏したのかもしれません。しかし、それでも捨てカットはたくさん撮影しています。やはり、やはり、いきなり自然なポーズの写真などは撮れないですから。

失敗談
制作中の学生を邪魔しないように撮影するのは本当に大変でした。時には他の先生の授業の休み時間に教室に入って撮影するという暴挙も行っています。ただし、今回登場した学生は全て私の授業を履修したことのある学生達で、顔見知りでもあったので雰囲気を壊さずに撮影をすることができました。コミュニケーショって大切ですね。あとは、とにかくピントです。ピント調整には本当に苦労しました。開放で撮影しているので仕方がありません。しかし、写真の面白さは単にピントが合っていればいいというものでもないので、雰囲気優先で撮影に没頭してみました。また、この企画の第2弾を計画したくなりました。年に1度ぐらいはあってもいいかもしれませんね。それと、広角レンズでレンジファインダの利便性を生かしたスナップも視野に入れておきたいと思います。