• ダイアン

こういう原稿などを書く仕事をしていると、ふと思いついたことをメモする習慣がつく。何かを思いついても、あとで思い出せないことがあるからだ。仕事の内容などにもよるのだろうが、メモを取ることは重要な問題だ。といっても、筆者のメモの大半は、たいしたことがないものだ。商品の底値、買い物リスト、駄洒落のネタなどに混じって、人から聞いた電話番号、数値や型番、記事のタイトル候補、取材前に気がついた質問事項など、数文字の単語だけのことがほとんど。自分だけが分かればよく、忘れないためのメモで、入力にほとんど時間を掛けられない状況で使うものだ。

忘れないためのメモ(備忘録)と、アイディアなどをきちんと記録するためのテキストとは明確に区別することが必要だ。数行のテキスト入力の効率や情報整理などに気を取られすぎると数文字のテキスト入力の効率が犠牲になってしまう。思いついたことを思い出すことができれば、あとからちゃんとしたテキストを作ることは可能なので、メモを加工、処理するようなことは考えなくていい。

幸いなことに筆者の一日の大半は机の前。多くの時間を簡単にテキスト入力ができる環境で過ごす。メモが必要になるのは外出しているときだ。最悪のことを考えて、カバンには、常に筆記用具とA7版縦型リングノートを入れているが、基本的にはスマートフォンを使う。

問題は、何を使ってメモを記録するかだ。重視するのは、メモ入力の手軽さ。そして、テキスト以外にも画像などのメディア情報やURLといった雑多な形式の情報を扱えることだ。反面、一覧性や整理機能は重視していない。必要ならあとでちゃんとしたメモやファイルを作るからだ。メモ専用のアプリもあるが、他にもメモの入力保管場所として使えるものがある。たとえば、メールやチャット/メッセンジャーアプリなどだ(表01)。

筆者は、1990年台には、メモを自分宛にメールを送っていた。テキストだけでなく、添付ファイルとしてさまざまなファイルが記録でき、作成日時も自動で記録される。このため、雑多なメモを集積するのに向いていたのである。ただ、スパムや通知メールが多くなったなど、いくつかの理由でメールを利用するのは諦めた。

しかし、メールは、普及している汎用のプロトコルなので、メールクライアントならどんなプラットフォームからもアクセスが可能というメリットがある。これに対して、チャットサービスなど多くのサービスは、プロトコルによるアクセスを許可しておらず、専用アプリやWebブラウザでしかアクセスができないことが普通だ。

さまざまなデバイスで利用するとき、スマートフォンでの利用を考えると、Webブラウザからの利用ではなく、アプリからの利用のほうが効率的だ。最近のスマートフォンは高性能ではあるが、複雑なJavaScriptを使ったクラウドサービスのページを開くのは、効率的でない、あるいは画面の大きさが問題になることがある。とはいえ、Webブラウザからの利用は、対応デバイスを広げ、多くの環境でアプリのインストールが不要などの大きなメリットがあるので外せない機能だ。

クラウドサービスでかつ、スマートフォン用の専用アプリを提供しているとなると、意外に対象が絞られる。アンドロイドやWindowsのアプリ開発には、ある程度のコストがかかり、そうそう簡単ではないからだ。

メールの代用として使い始めたものにチャット/メッセンジャーサービスがある。自分しかいないチャットルームにメモを投稿する。こうしたアプリは手軽なコミュニケーションが可能なように、比較的簡単に投稿できることが多い。チャットとはいえ画像や文書ファイルの投稿も可能。メモを記録する十分な機能がある。また、設定も初回のアカウント登録を除けば、メールアドレスとパスワード入力程度で完了でき、メールアプリよりも設定は簡単だ。

チャット/メッセンジャー機能を含むアプリケーション/サービスは多数ある。たとえば、FacebookメッセンジャーやSlack、あるいはSkypeのチャットもある。SNSも利用可能で誰もフォローしていないTwitterのアカウントを作ってそこにメモを書き込むという手もある。ただ、メモという性質上、他人からは見えないことが望ましいし、できるだけ、簡単に起動、書き込みができ、使わないときには通知やポップアップなどの余計な動作を禁止できるものが望ましい。

もちろん、メモ専用のサービス/アプリもある。たとえば、GoogleのKeepだ。AndroidアプリとWebアクセスが可能で、音声や手書き入力に加え、カメラからの画像入力などメモアプリとして高い水準にある。また、登場しては終了を繰り返すGoogleのサービスとしては、比較的長寿のサービスである。逆にGoogleのチャットアプリはこれまで公開しては終了を繰り返しており、メモの記録に向いていない。

Windows系ではWindows 11に標準搭載された「チャット」こと、Teamsがある。Teamsは、MicrosoftアカウントとMicrosoft365アカウント(Officeアカウント)で機能の違いはあるが、無償で利用できるMicrosoftアカウント用のTeamsは、Windows 10でも利用可能でチャット機能がある。Android版がありChromebookでも動作するし、Web版もある。Android版では、音声を投稿することも可能だ(Windows、Web版はビデオクリップ投稿)。このチャット機能をメモ入力に利用する。Microsoftには、OneNoteというノート作成アプリもあるのだが、1件が数文字程度のメモを大量に扱うのは、不可能ではないものの最適とはいえない。

チャットアプリであっても、履歴などに容量制限があるものや、特定のデバイスでしか動かない、サービスの先行きが不明では安心して使えない。そういうわけでTeamを現在評価しているところ。現状はTeamsとKeepで「決勝戦」という感じだ(表02)。

今回のタイトルの元ネタは、1990年の米国テレビドラマシリーズの「Twin Peeks」。歩きスマホは危険なので、筆者は歩行中には音声入力を使うことにしている。そのとき思い出すのがこのドラマ。登場人物の一人、FBIのクーパー捜査官は、マイクロカセットを持ち歩きメモを録音、秘書にタイプしてもらっている。ダイアンとはその秘書の名前である。