Windows 10から一般向けプレビューの仕組みとして「Windows Insider Program」(WIPと略記する)が運営されている。これは、リリース前のWindowsを公開するもの。ユーザー側には、次のWindowsを正式リリース前に検証が可能になるというメリットがあり、マイクロソフト側は新機能のユーザー評価や、多様な環境に依存して発生するバグなどを事前に調べることができるというメリットがある。
この仕組みは、Windows 10の計画が発表された2014年9月から開始された。WIP開始当初は、テクニカルプレビューとしてWindows 10のインストールイメージが配布されたが、翌月から「Fast/Slow」の2つの「Ring」が開始された(図01)。
マイクロソフトの社内では、日々開発が進む。毎日(Daily)、その時点の最新のWindowsインストールイメージを作る。これを「ビルド」と呼ぶ。ビルドとは、ソースコード、リソース、作成手順、利用ツールのバージョンなどの過程を記録する情報と最終生成物をひとまとめにしたもの。異なるビルドは、ソースコードや作成手順などに違いがある。
これをテストするのが「Canary」と呼ばれるグループだ。Canaryは鳥類の「カナリア」を意味する単語で、かつて炭鉱で有毒ガスを検出するのにカナリアを使ったことにちなみ、毎日作られるWindowsの最新実行イメージを評価するグループをCanaryと呼ぶ。Canaryが行う作業や評価が行われる仮想的な領域をCanaryリングと呼ぶ。リングは、CPUのリングプロテクションなどからの類推で付けられた名称で、プレビュー版が一定の基準を満たさなければリングの外に出さないという意味があると思われる。
これをOSGリングで評価する。OSG(Operating Systems Group。OSG)は、当時のWindows開発部署の名称である。ここで評価したのち、一定の基準を満たしたビルドがMicrosoftリング(OSG以外のMicrosoft社内)で評価される。ビルドは毎日作られるが、各リングが次のリングに出すのはその一部である。というのも開発段階では、必ずしも安定して動作しないこともあるからだ。
社内での評価を行い、一定基準を満たしたと判断されたビルドのみがFastリングとしてリリースされる。このため、社外に公開されるビルドは、飛び飛びの値となり、リリース間隔が1週間から1月程度になる。Fastリングでのユーザーフィードバックを考慮し、安定していると思われるものをSlowリングにリリースする。リリースされるのはFastリングにリリースされたビルドのごく一部だった。
Windows 10は2015年7月にリリースされたが、7月15日の段階で完成(RTM。Release To Manufacturing。メディアやパッケージを作成していた頃の名残からソフトウェアの完成をこう呼ぶ )となり、一般向け配布(GA。General Availability。パッケージ販売には製造や流通させる時間が必要であるため、ソフトウェアの完成とは区別されたときの名残り)は、2015年7月29日だった。
2017年からは、年2回の配布となり、次の次のWindows 10のプレビューを行う「Skip Ahead」が導入された。春のアップデートがプレビュー段階にあるとき、秋のアップデートをプレビューするのが「Skip Ahead」である。
これが2020年には、Dev、Beta、Release Previewの3つのチャンネルを使う方式に切り替わる。Release Previewは、現行Windowsのアップデートのプレビュー(旧Slowリング相当)、Betaは次のWindowsのプレビュー(Fastリング相当)、Devチャンネルは将来的なWindowsのプレビュー(実際には「次の次のWindows」のプレビューだった。Skip Ahead相当)。同時にWindows 11が発表されWindows 10のリリースは年一回となる。
2021年にWindows 11がリリースされる。Windows 10とWindows 11は、見た目は違うものの、開発としては一続きになっており、開発の過程を示す「ツリー」が途中で枝別れしたものといえる(これをブランチなどという)。Windows 10の開発は主にバグフィックスと若干の新機能の追加となった。
さらに2023年からは、Canaryチャンネルが追加され、全部で4つのチャンネルとなった(表01)。Canaryチャンネルは、Devチャンネルと同じく、Windowsの特定のリリースとは直接関係なく、正式版では提供されない機能も含む。これらは、インサイダーごとに異なるものにしてA/Bテストなどが行われることや、一部のインサイダーのみに提供されることがある。要は、CanaryとDevは、マイクロソフトが今後のためにさまざまな試みをインサイダー向けに行うチャンネルだ。CanaryとDevチャンネルは、開発ブランチとして異なっている。WindowsのSDKは、DevチャンネルとCanaryチャンネルで異なるものが配布されている。つまり、CanaryとDevは実行環境そのものが異なる。
Devチャンネルは、Windows 11の今後のバージョンに近く、Canaryチャンネルは、次のWindows(Windows 12)に近いものと考えられる。Canaryビルドで作られたものの一部がCanaryチャンネルとなり、それをWindows 11用に変更したものがDevチャンネルなのだと考えられる。
Windows 11のときも、「Windows 10のDevチャンネル」で提供されていた機能や変更点などがWindows 11のプレビューに引き継がれた。ただし、デスクトップはWindows 11が発表されるまでWindows 10のままだった。デスクトップに関しては、ある程度、差し替えが可能と思われる。
来年の秋に登場するとされているWindows 12の「機能」のプレビューがCanaryチャンネルで行われている。怖い物見たさでWindows 12を試すならCanaryチャンネルである。ただ、Canaryチャンネルは、安定度ではDevチャンネルに劣るとされている。
今回のタイトルネタは、1966年のTVドラマシリーズ「ウルトラQ」の第12話「鳥を見た」である。この回は使い回しフィルムも多く完成度が高いとはいえず、話も粗いまとめ方。しかし、素朴な説得力があるいい話。もはや、このシリーズ、当時の状況を理解できないと見るのが難しいかも。