今回は「Mavericks以降なくなるはずの技術/実装」について。メディアでは新機能にばかりスポットライトが当てられるが、ときには去りゆく機能にも目を向けてみよう。OS Xがどの方向に進みつつあるのか、はっきり見えてくるはずだ。

OSアップデートは「追加」のみにあらず

Appleにかぎらず、OSのメジャーアップデートというと新機能や改良点が話題になる。今回WWDCで発表された次期OS「Mavericks」でいえば、Finderのタブ化とタグのサポート、マルチディスプレイ対応の強化、エンジンの刷新により高速化されたSafari……といったところ。GUIを備えた"華のある"機能が優先されるのは、ビジネスである以上宿命なのかもしれない。

一方、機能が追加されるばかりではない。ハードウェアでは、初代iMacでフロッピーディスクドライブが廃止されたことがよく知られているが、OSの機能もレガシーと判定されれば速やかに取り除かれる。Bonjour(登場当初は「Rendezvous」)に取って代わられたAppleTalk然り、NEXTSTEP以来採用されてきたディレクトリサービスNetInfo然り、telnetdやftpdといったネットワークサービス然り。OSに収録するということはメンテナンスの継続を意味するため、コストを考えれば当然ともいえるが、迷いのないところがApple流だ。

この法則に従えば、Mavericksから姿を消す機能はある程度想像がつく。WWDCで発表されなかった機能を想像するのもいいが、去りゆく機能/アプリ/コマンドに思いを馳せるのもまた一興だろう。

ところで、登録開発者向けにはMavericksのデベロッパープレビュー版が公開されているそうだが、それをもって機能の削除/存続を判断するのは早計だ。具体的には書けないが、以前はベータ版にあった機能が正式リリース(GM)版で一転取り除かれたこともある。ギリギリまでウォッチし続けることが肝要だ。

Mountain Lionに至るまでの間に、多くの機能が消えている(画面はMac OS X 10.2)

SMBがメインのファイル共有サービスに?

Mavericksの"キャッチーな"新機能は、ひととおり基調講演で紹介されたが、それ以外にも新機能や変更点は存在する。それらは通常NDAに抵触するため記事に取りあげることは難しいが、Appleが一般公開している文書に書かれていれば話は別だ。たとえば、「OSX Mavericks Core Technology Overview」の21ページには、興味深い記述を確認できる。

それは、Mavericksでは「SMB2」がAFPに代わりメインのファイル共有プロトコルになる、ということ。OS Xでは、長らくAFP(Apple Filing Protocol)がその座にあったが、今後はWindows由来のSMB2 -- 仕様がオープンにされ多くのUNIX系OSでサポートされている -- がデフォルトになる。Time MachineやSpotlightなど密接な関係を持つ機能が多い現状を考えると、当面AFPのサポートは継続されるだろうが、AppleTalkと同じ運命を歩む可能性は否定できない。

前掲の資料によれば、SMB2はMavericks同士、あるいはWindowsマシンとの間で優先的に利用されるという。ただしAFPとSMBもメンテナンスサポートされるため、SMB2に対応しないクライアント(Mavericks以前のOSやVista以前のWindows)も利用できるとのこと。Mountain Lionではサポートされていなかったスキャナ機能の行方など気になる点も多く、今後出てくるはずの情報に注目したい。

Mountain Lionのシステム環境「共有」ペイン。SMB(SMB2)はオプション扱いされているが、Mavericks以降はこちらがデフォルトになる

QuickTimeは遠くになりにけり

もうひとつ注目したいのが、開発者向けページで紹介された「AV Kit」の存在だ。その短い紹介文によれば、AV Foundation(LionのときiOSから持ち込まれたオーディオ/ビデオ関連フレームワーク)およびQuickTimeベースのアプリケーションは、容易にAV Kitへ移行できるとのこと。

以前からAppleは開発者に対し、QuickTimeおよびQTKitを使用するアプリケーションのAV Foundationへの移行を推奨していた。iOSとOS XのAV Foundationはかなりの部分で統一されており、iOSとの融合を進めるうえでは開発コスト削減というメリットがある。AV Kitはそれを進化させたフレームワークと見るべきで、実際WWDC 2013ではAV Foundation/AV Kit関連のセッションが多数実施されたそうだ(リンク)。

ということは、技術としての「QuickTime」の存在感は今後ますます薄まっていくはず。ログインが必要な開発者ページ(NDA対象)でどのような説明がなされているかは知らないが、AV FoundationにくわえてAV Kitの投入が明らかになった現在、今後開発フレームワークとしてのQuickTimeおよびQTKitを積極的にメンテナンスしていくとは考えにくい。かつてのQuickTimeの存在感を思うと、時代の移り変わりに感じ入る次第だ。

Mavericksからは、ビデオ/オーディオ関連フレームワークとして「AV Kit」が投入される

Mountain Lionの「QuickTime Player」。今後もビデオ再生ソフトとして残るのだろうか……