iPhone 5の予約も完了、あとは21日当日を待つのみ……ですが、日本時間の20日にはiOS 6がリリースされます。ハードとソフトで2度楽しめるのがApple製品の醍醐味、もちろんiOS 6もイジり倒します。本誌でもレビューを掲載しますので、ご期待ください。

さて、今回は「GIMP」について。長年OS Xユーザに存在を知られていながら普及しなかったのは、X11が必要だったからにほかならない。それがいよいよOS XネイティブなGIMPが出回り始め、かなり実用的な仕上がりとなったことを確認できたため、登場までの歴史的経緯と利用時の注意点をお伝えしたい。

GIMPがOS Xと疎遠だった理由

レイヤーをサポート、多数のフィルタや描画/編集ツールを備えるなど、本格的な画像編集機能で知られるグラフィックソフト「GIMP」。2人の大学生がLinux向けに開発をスタート、オープンソースのため世界中のデベロッパーが開発プロジェクトに参加し、Windowsなど他プラットフォームへの移植も進められた。

開発プロジェクトとしてのGIMPにはいくつかの副産物があり、なかでも重要なのは「GTK+」の存在だろう。GTK+はGUIライブラリの一種であり、ボタンやチェックボックス、テキストフィールドやメニューといったGUIに必要な部品群を提供する。このGTK+は拡張が重ねられ、やがてGIMPと切り離されて開発が進められ、統合デスクトップ環境「Gnome」の基本APIとして採用された。画像編集ソフトのGUI部品ライブラリとしてスタートし、いまやOS XにおけるCocoa的な役割をLinux/Gnome環境で担っている。

GIMPは以前からOS Xでも動作するが、動作環境はX Window System(X11.app)に事実上限定されてきた。それは、前述したGTK+など必須ライブラリの移植がなかなか進まなかったためだ(関連記事)。Linuxで誕生したGIMPおよびGTK+は、Linuxの描画に利用されるX Window System向けに開発されたため、OS Xのネイティブ環境(Aqua)で動作させるには大規模な移植作業が必要になる。X11.app上でとりあえず動作してしまうこと、GTK+の移植に積極的なOS Xの開発者が少なかったこともあり、"GTK+ on Aqua"が実用レベルに達したのはつい最近だ。

とはいえ、現在のOS Xネイティブ移植版GTKには未実装の機能がいくつかある。たとえば、OS Xの文字入力API(IMKit)にブリッジする機構が未実装のため、ことえりなどを利用して日本語入力することはできない(日本語テキストのペーストは可)。それでもGTK+プロジェクトによるサポートが開始され、"GTK+ on Aqua"を利用したOS X向けGIMPも公式に配布されるようになった。「GTK+ immodule for Mac OS X」のような試みがあるので、今後に期待してもいいだろう。

"GTK+ on Aqua"なOS Xネイティブ版GIMP 2.8

otoolコマンドで、GIMP 2.8が依存するライブラリを調べたところ。バンドル内部にGTK+および関連ライブラリが多数収録されていることがわかる

現在OS Xで動作するGTK+(GTK+2)は、OS Xネイティブのインプットメソッド(IMKit)に対応していないため、直接日本語を入力できない

バイナリパッケージを選んでインストール

OS Xネイティブ環境向けのGIMPを利用するには、コンパイル済のバイナリパッケージを利用することが近道だ。ただし、オープンソースプロジェクトなだけに、バイナリパッケージにいくつかの種類がある点には注意しよう。

9月18日現在、GIMPの公式サイトからダウンロードできるOS Xネイティブのパッケージには、Clayton Walker氏が作成したものとSimone Karin Lehmann氏が作成したものの2種類あるが、後者のパッケージを選んだほうがいい。多数のプラグインにくわえ日本語リソースも収録されているため、メニューなどが日本語で表示できるからだ。前者は英語リソースしか収録していないうえ、日本語環境で起動すると異常終了するため、現時点では除外したほうがいい。

インストールは、GIMPのバンドルをアプリケーションフォルダへドラッグ&ドロップするだけでOK

ツールチップ類まで日本語化されているため、操作の助けになるはず

豊富なスクリプトを使おう

メニュー類が日本語で表示されるうえ、描画ツール類の説明もツールチップで表示されるため、GIMPの使い方をここで詳細に説明する必要はないだろう。絵心のある人が存分に使い倒せば、某定番レタッチソフトに比肩する機能を発揮してくれるはずだ。

注意点があるとすれば、機能拡張書類のインストール方法だろう。GIMPには拡張性があり、フィルタなど各種機能を追加できるが、それにはいくつかの種類があるのだ。

OS X版GIMPで動作する機能拡張書類は、独自のインタープリタ言語「Script-Fu」で記述されたスクリプト(*.scm)、またはPythonで記述されたスクリプト(*.py)のどちらかと考えていい。それ以外にも、実行形式のプラグインが存在するが、OS Xネイティブ環境で動作するものはないに等しいからだ。

それらスクリプトのインストール先は、設定画面で「フォルダー」→「スクリプト」の順に選択すれば確認できる。標準では「~ / Library / GIMP / 2.8 / scripts」がセットされているので、ここへファイルをコピーし、GIMPを再起動(またはメニューからスクリプトを再読込)すれば、「フィルター」メニューに現れるはずだ。

スクリプトやプラグインのインストール先は、設定画面で確認できる

モノクロ写真にざらざらとした質感(フィルムグレイン)を加えるスクリプト「Add Film Grain」を実行したところ。このようなスクリプトは多数公開されている