現在筆者の手もとにあるアプリケーションの中でもっとも使用歴の長いものは、おそらく「LaTeX」だ。NEXTSTEPの頃から使い続けている「メール」や「プレビュー」も相当なものだが、LaTeXとの付き合いはそれ以上。文書フォーマットというよりは組版用の言語/システムで、フォーマットそのものはプレインテキストのため陳腐化することがないから、四半世紀以上前に作成した文書もいますぐ活用できる。請求書・見積書の類いや名刺、年賀状の宛名印刷にLaTeXを使い続けているのは、それが理由だ。
そのLaTeXが、Pages 6.1からサポートされている。blahtexというLaTeX→MathML変換ライブラリに依存するため、表現できるのは数式などLaTeXがカバーする範囲のごく一部だが、テキストボックスを組み合わせて記述したものと比べると、見映えの差は一目瞭然だ。最新版Keynote(v8.1)とNumbers(v5.1)でも利用できるようになり、iOS版でもまったく同等に使えるため、理系の方々は重宝するに違いない。
しかし、理系ではなくてもLaTeXを利用したiWorksの数式作成機能は使い手がある。LaTeXは体系的に学ぶべき言語/システムだが、iWorksというアプリケーションの位置付けを考慮すると、コピー&ペーストライクに使えるほうがいいはず。まずは体験することで、GUI指向のMacユーザにもLaTeXのよさを知ってほしいものだ。
生成されるオブジェクトはPDF
iWorksにおけるLaTeXサポートで特徴的なのは、生成されるオブジェクト(数式など方程式ダイアログで作成される一式)がPDFということだろう。スケーラブルフォントだけで構成されるPDFだから拡大/縮小は自由自在、文字や記号にジャギーは発生しない。コピーして「プレビュー」などのアプリへペーストすれば、回転などの加工も自由に行える。直接LaTeXで作成する場合、DVIファイルを生成してdvipdfmxでPDFに変換という手順を踏まねばならないが、iWorksの数式作成機能にそのような手間は必要ない。
文書に整然とした「ブレース」を
プレゼン用の資料を作成しているとき、「{」(中括弧/波括弧/ブレース)にいくつかの項目/選択肢を並べた経験はないだろうか? Keynoteの場合、「{」を手書きしてあまりの雑さに憤然とし、代わりに巨大な「{」のテキストボックスを作成して右に横長のテキストボックスを配置する……といったところだろうか。しかし、それでも満足行く仕上がりを得るのは難しい。
そんなとき利用したいのが、本来は数式の場合分けに使われる「cases環境」。まずは以下のリストをコピーし、iWorksの「この方程式を編集」ダイアログへペーストしてほしい。長さがまちまちな3つの数式がブレースに囲まれ、それぞれを指すアルファベットが同位置に並んでいることに気付いただろうか? これをテキストボックスで作るのはひと苦労だが、LaTeXならどうということはない。「\」で改行とか、数式以外の文字列は「\text{...}」で囲まなければならないなど覚えるルールはあるが、文書のクオリティは格段に上がるはずだ。
\text{この場合、}
\begin{cases}
3x + 2y = 20 & \text{(a)} \\
x + y = 9 & \text{(b)} \\
\text{これはダミーです} & \text{(c)}
\end{cases}
表組み風に表現する
iWorksで使えるLaTeXのコマンド/環境は、AppleのWEBサイトに詳しい(リンク)。MathMLのサポート情報も併せて記載されているため、必要な情報を探し出すには苦労するが、必ずチェックしておくべき一次情報だ。
そこで非理系ユーザが使えそうな命令/環境を探してみると、「align」と「matrix」環境が使えそうだ。本来は行列を表現するときに利用されるものだが、罫線なしの表組み風アイテムをがかんたんに作成できる。テキスト部分は「\text{...}」で囲むしかないが、文字列の長さに応じてタブを適当に空けてくれるため、インデントや行下げのような外観に係わるルールを気にする必要がなくなる。
たとえば、以下のリストでは、2つの列に適度なタブを空けつつ、それぞれのアイテムを中央揃えにしている。右揃えにする場合は、環境名を「align」(\begin{align} ~ \end{align})に変更すればOKだ。もちろん、PDFオブジェクトとして生成されるので自由な方向に回転できる。既存の表組機能では足りない場合に、活用してはいかがだろうか。
\begin{matrix}
\text{外形寸法} && \text{約74.8mm x 約117.1mm x 約8.7mm} \\
\text{最大外形寸法} && \text{約75.9mm x 約117.5mm x 約8.9mm} \\
\text{重量} && \text{118g} \\
\text{最大記録曲数} && \text{約15,000曲}
\end{matrix}