Yosemiteの次、「El Capitan」の足音が迫りつつある今日この頃。開発者版/Public Beta版に手を出すのもいいが、趣味でOS Xを使うのならば、正式リリースまで他ジャンルを見て見聞を拡げてもいいのでは……というわけで、趣向を変え「OS XとRaspberry Pi」というテーマで迫ってみたい。

いろいろ遊べる「ラズパイ」はTerminal好きに超おすすめ

このご時世、発売から数カ月で100万台以上を売り上げたコンピュータがある。Macの456万台(2015年4月期)と比べれば大したことはない数字に思えるかもしれないが、2012年に誕生したばかりのプラットフォームであること、販売は基板のみというスパルタンな外見であることを踏まえれば、大健闘であることがわかるはず。ご明察、カードサイズのワンボード・コンピュータ「Raspberry Pi(通称:ラズパイ)」だ。

Raspberry Piの基板。こちらはクアッドコアのCortex-A7 900MHzを搭載した第2世代(Raspberry Pi 2 Model B)

Raspberry Piは、そもそも学習用として開発されたが、その小ささとLinuxなどPC-UNIXが動作する汎用性の高さ、圧倒的な低価格(5,000円前後)も手伝い、監視カメラや各種計測など実務レベルでも利用されている。7月29日の公開が予定されているWindows 10もサポートされており、プラットフォームとしての認知度は今後さらに高まることだろう。

かたやOS Xは、ポジティブな意味でもネガティブな意味でも「熟成期」に達している。アップデートが毎年恒例となり無償化されたことはありがたい限りだが、本音をいえば対価を払ってでも"あっと驚くような新機軸"を見てみたい。特に当コラムがターゲットとしてきたUNIX/BSDレイヤーは、ここ数年際だった変化がなく -- 「mDNSResponder」が廃止され一時的に「discoveryd」が代替技術として採用されるという事件はあったが -- 、話題性という点では燃料追加が必要な状況だ。

だからといって、Raspberry Piに乗り換えろという話ではない。日頃の作業は使い慣れたMacでこなしつつ、趣味の部分を他に移せばいいだけのこと。その趣味とは、筆者の場合……オーディオ&ビジュアルだ(仕事にもしているが)。こんな電子書籍を執筆・編集からCSSのコーディングまで独力で、レギュラーの仕事をこなしつつも3週間で制作してしまったところに、筆者のテンションを察していただければ幸いだ。

テンションの上がった筆者が独力で制作したRaspberry Piの本。オーディオ目的で使いたい人にお勧めだ

Macでラズパイするなら「ext4」の読み書きを

ラズパイをどのように使おうと自由だが、OS Xを根城にする者としては、Terminalからイジり回したいところ。HDMI経由のディスプレイ出力は使わず、4基しかないUSBポートを消費するキーボードもマウスも不要、LANに接続していればSSHでリモートログインできる。筆者の場合、Ethernetポートを無効化しWi-Fiのみで運用している。

安定動作しているかぎり、この使い方でまったく問題はないが、ネットワーク設定に誤りがあるまま起動すると困ったことに。SSHという入口が閉ざされるので、ローカルで(キーボードとマウスを使い)作業しなければ修正できないのだ。ふだん使わないHDMIケーブルやキーボード、マウスをセットアップせねばならないため、できれば避けたい作業といえる。

そこで思いついたのが、ラズパイの起動ディスク(microSDカード)をMacで直接読み書きするという方法。システムは現在Linuxでメインのファイルシステム「ext4」に記録されているため、microSDカードをOS Xにマウントしても/etcなどシステム領域にはアクセスできないが、OS Xにext4を読み書きできる機能を追加すれば一件落着。困ったときには、OS Xのテキストエディタで修正すればいいのだ。

Raspberry Piの裏側。microSDカードを起動ディスクとして使用する

Linuxディストリビューションによっては、複数にスライスしたパーティションのうちVFATなど素のOS Xでもマウント可能な領域もあるが、/etcなどを含むシステムボリュームは別に存在する

「Paragon ExtFS for Mac OS X 9.0」を使う

OS Xで標準対応していないファイルシステムをマウントする手段のひとつに「FUSE」がある。概要は当コラム第113回を参照いただくとして、結論からいうと、FUSEのext4サポートでは目的を果たせない。HomeBrewなどのパッケージングツールを使えば、導入はそれほど難しくないものの、FUSEプラグインのext4はリードオンリーのマウントであり、書き込みできないのだ。設定ファイルを表示できても誤りを修正できないようでは、ラズパイで使うには足りない。

そこで探してきたのが「Paragon ExtFS for Mac OS X 9.0」。ext2/ext3にくわえext4にも対応、リード/ライト両方をサポートという点でラズパイで使うための条件はクリア。もちろんOS X Yosemiteをサポートしている。そのうえ、OS Xネイティブのドライバーと同等のパフォーマンスを達成するというのだから、ストレスなく利用できそうだ。製品は有償(オンラインストア価格は税込4,536円)だが、10日間機能制限なしで使える試用版が用意されているので、まずはそちらを利用するといいだろう。

「Paragon ExtFS for Mac OS X 9.0」のパッケージには、インストーラとアンインストーラ両方が収録されている

インストール完了後は、このようにmicroSDカードをカードリーダにセットするのみ

インストールが完了し、ふだんラズパイで利用しているmicroSDをカードリーダに差し込んだところ……あっけないほど簡単にマウント完了、ext4と覚しき領域が現れた。

Finderでデスクトップからファイルコピーを試みてみたところ、問題なし。パーミッションを無視しているのか、/etcにコピーしても警告を受けなかった。OS Xのセオリーどおり/Volumes以下にマウントされるので、Terminalで「cd /Volumes/○○○/etc」とすれば、そこをカレントディレクトリにすることもできる。

さらにviを使い、/etc/network/interfaces(ネットワークの設定ファイル)に変更をくわえ上書きしても問題なし。これで、ネットワークのトラブルでリモートログインできないときの復旧作業が格段にラクになる。もちろん、デスクトップにコピーしてGUIのテキストエディタで書き換えても構わない(設定次第では文字コードや改行コードが変わりそうでお勧めできないが)。

Paragon ExtFS for Mac OS X 9.0は、ファイルコピーも高速だ。こちらについては、他の「OS Xとラズパイ」ネタを交えつつ、また次回。

システム環境設定に追加された「ExtFS for Mac OS X」パネルを開いたところ。microSDカードに存在するext4パーティションが表示されている

ディスクユーティリティでext4パーティションを表示したところ。ext3と表示されているが、特に支障なく読み書きできている

Terminalでext4パーティションに直接アクセス、まさにこれからviで編集を試みようとしているところ。問題なく上書きできることを確認している