OpenStackは半年ごとに新たなバージョンがリリースされるが、2015年4月、11番目のバージョンとなる最新版「Kilo」がリリースされた。そこで今回は予定を変更し、「Kilo」の主要な追加点や変更点を紹介することにしたい。

Kiloでは、各コンポーネントに新機能が追加されるとともに、ベアメタルサービスを提供する「Ironic」 が正式に主要コンポーネントとして追加された点が大きな変更と言える。

OpenStack Kiloの概要画面

物理マシンをプロビジョニングできるよう追加された「Ironic」

「Ironic」は、高いパフォーマンスへの要件にこたえるために、物理マシンをプロビジョニングするコンポーネントだ。すでに米Rackspaceでは、ベアメタル環境のホスティングサービスに、このIronicをベースとしたシステムが使用されている。

Ironicでは、ベアメタルのリソースを使いやすくするため、ベアメタルのリソースを再利用するためのディスク削除機能/ファームウェア再適用/BIOS設定リセットなどのクリーニング処理や、ベアメタルを簡単に登録するための検査処理が追加されている。また、以前はカーネル、RAMディスク、インスタンスイメージを取得する際はイメージサービス「Glance」を使用する必要があったが、Ironic単体でも行えるように機能が強化されている。

ハードウェアの計測機能が強化された「Ceilometer」

メータリングのコンポーネント「Ceilometer」では、ハードウェアの計測機能について強化が行われた。具体的には、IPMI(Intelligent Platform Management Interface)から情報を取得できるように機能が追加されたことで、電源や温度関連の情報が取得可能になっている。そのほか、Hyper-V用のメモリとディスクのメーター、仮想化ライブラリであるLibvirt用のディスクメーター、分散ストレージCeph用のメーターなどが追加されている。

スケーラビリティが強化された「Heat」

オーケストレーション・サービス「Heat」では、スタックのネスト使用時のスケーラビリティを向上させることで、より大規模で複雑なスタックを構成できるように強化されている。これによって、Ceilometerとの連携によるオートスケール機能への活用が今後さらに期待できる。

また、Heatは強力な自動化ツールである一方で、以前はトラブルシューティングが困難だった。この課題に対し、今回のKiloから、実行中のスタックを意図的に一時停止できるブレークポイントが設けられるように改良されており、スタックが大規模で複雑になる場合に有用な機能となる。

ベンダーとの連携が強化された「Neutron」

ネットワークサービス「Neutron」では、あらかじめ定義したアドレスプールから自動的にサブネットを割り当てる機能が追加された。これにより、管理者が明示的にアドレスを指定する必要がなくなり、運用負荷の軽減が期待できる。

また、分散仮想ルーティング機能であるDVR(Distributed Virtual Router)では、VXLANやGREに加えてVLANのサポートが追加された。

さらに、ネットワーク・ベンダーとの連携も強化されている。例えば、A10 Networksやブロケードの製品向けの「LBaaS(負荷分散機能)」、シスコシステムズのクラウド サービス ルータ やstrongSwan向けの「VPNaaS(VPN機能)」、フリースケールやマカフィーの製品向けのFWaaS(ファイアウォール機能<試験的>)などのプラグインが提供された。

そのほか、IPv6ルータを使用する際にテナント内のインスタンスがグローバルIPv6アドレスを取得できるようになり、NATを使用することなくインターネットとの通信が可能になった。

仮想マシン作成・管理が強化された「Nova」

コンピュートサービス「Nova」では、仮想マシンの作成・管理機能が強化された。KVMハイパーバイザでは、NUMA (Non-Uniform Memory Access)ベースのスケジューリング機能やゲストOSの仮想CPUの固定機能など、NFV関連機能が強化されている。

Hyper-VやVMwareの仮想マシンについても強化されている。Hyper-Vに関しては、既存のiSCSIボリューム対応に加えてSMBベースのボリュームにも対応する。VMwareに関しては、インスタンス停止でデータが消去されるエフェメラルディスク対応やvSAN対応、OVAイメージテンプレート対応などが行われており、親和性が向上している。

これら以外には、IronicにCPUアーキテクチャなどのフレーバのextra-spec情報を渡せるようになり、ベアメタルプロビジョニング対応も強化されている。

以上、最新バージョン「Kilo」の主要な変更点を紹介した。なお、OpenStackの次期バージョンは10月リリース予定の「Liberty」となる。

知念 紀昭
ネットワンシステムズ株式会社 ビジネス推進本部 第2応用技術部 クラウドソフトウェアチーム
仮想化ハードウェア・ソフトウェアの評価・検証業務を経て、現在クラウドソフトウェアを担当している。