さて、比留川研究部門長に続く2人目は、講演順とは異なるが、サービスロボットの普及のために行われている国家プロジェクト「NEDO生活支援ロボット実用化プロジェクト」について、知能システム研究部門の大場光太郎副研究部門長(画像1)による講演「生活支援ロボット実用化プロジェクト - 生活支援ロボット安全検証センターにおける国際標準化と認証 -」をお届けしたい。

画像1。大場副研究部門長

家庭内ロボットの最大の問題は「安全性」

同講演では、「NEDO生活支援ロボット実用化プロジェクト」、「生活支援ロボット安全検証センターの概要」、「安全なロボットを開発するために~リスクアセスメントと安全設計技術など~」、「認証、リスクとベネフィット」、「生活支援ロボット関連の安全理念」の5項目に触れていく。

まずは、「NEDO生活支援ロボット実用化プロジェクト」からだ。一部は総括でも触れているが、改めて紹介する。同プロジェクトは新エネルギー・産業技術総合開発機構によって、平成21(2009)年度から平成25年度まで行われている、比留川研究部門長がリーダーを努めるプロジェクトだ。予算規模は平成21年度が16億円、最終年の平成25年度が8億4200万円。また、生活支援ロボットとはサービスロボットのことである。

日本でロボット技術がなぜ求められているかというのは、今後ますます加速する「少子高齢化による人材不足」に対応するため、とされているのは多くの人が知るところだ。もともと国際的にもトップレベルのロボット技術を有しており、上記の問題点から、今後は介護・福祉、家事、安全・安心などの生活分野における社会的課題の解決がサービスロボットに求められているからである。

そこで市場が形成される可能性があるからということで、トヨタ自動車、本田技研工業(ホンダ)、パナソニックなどの大手メーカーもロボット開発事業に乗り出しているわけだが、その一方で、なかなか製品化に踏み出せない現状もある。

これらは決して技術的に製品化が難しいのではなく、安全性の問題だ。もしサービスロボットを販売して、事故を起こした場合、自分たちで責任を取るのは困難だというのが各社の偽らざる心情であり、結果として現在の技術でも製品化は決して不可能ではないのだが、2の足を踏む状態となっているというわけだ。そうした理由で、2005年の愛・地球博以来、「ロボットの時代が来る」といわれ続けて、あれから10年近く経つが、2013年現在、大手家電量販店に並ぶロボットといえば掃除ロボットのみ、というような状況になっているのである。

ではどうしたらメーカーが安心して製品化に踏み切れるのか。その大きな1つが、「公的な機関による安全性の保証」だ。そうした機関によって安全性の試験を行って認証し、さらにはそれを国際標準としても策定することで、海外にも日本のサービスロボットを販売できるような枠組みを作るというのが、「NEDO生活支援ロボット実用化プロジェクト」の狙いなのである。

「NEDO生活支援ロボット実用化プロジェクト」は、大きく分けて両輪ともいえる2つの仕組みでなり立つ。画像2にある通り、まずは前述した安全性の評価だ。左下に「生活支援ロボットの安全性検証手法の研究開発」とあるが、ここには産総研を含む7つの機関(再委託先を含めると8つ)が参加し、それを行っている。そしてそれを行うための施設として立てられたのが、後述する「生活支援ロボット安全検証センター」というわけだ。

そして画像2の右下側、「安全技術を導入した生活支援ロボットの開発」である。安全性をクリアできるようなロボットを作れる技術力や開発力を持ったメーカーが参加している。平成25年度が最終年度となるわけだが、この5年間に「NEDO生活支援ロボット実用化プロジェクト」ではこの両輪を稼働させ、安全性の検証手法の研究開発をすると同時に、それを採り入れたロボットを開発し、またそれらのロボットで安全性を追求していくという形で進められてきたというわけだ。

例えば、トヨタの立ち乗り型パーソナルモビリティの「Winglet」(画像3)は、生活支援ロボット安全検証センターで安全性の評価を行った後、それらをクリアしたことから、次のステップとしてつくばモビリティロボット特区において公道走行実験を開始したのである

画像2(左):「NEDO生活支援ロボット実用化プロジェクト」の概要。 画像3(右):先行してつくばモビリティロボット特区で公道走行実証実験を行っていたセグウェイや産総研製車いす型ロボットなどに続き、トヨタのWingletも公道走行実証実験を開始した

また、画像2の右上を拡大したのが画像4のピラミッドだが、これはロボットに関連するISOなどの各種規格の階層構造を表したもので、一番上のA規格がリスクアセスメントなどの基本安全規格、B規格がシステム安全規格や機能安全規格のグループ規格、そしてC規格が個別規格で、2013年末か2014年初頭に策定されるとされているサービスロボットの個別の規格であるISO13482が含まれているというわけだ。

なお、これらの規格は欧米主導で進められているのだが、サービスロボットに関しては日本主導でそれを実現し、先ほどの海外で日本製サービスロボットを販売しやすくするという狙いもあれば、生活支援ロボット安全検証センターでの安全認証をどの企業でも受けられる段階(今後予定されている)に海外のメーカーにも利用させる、という狙いがある。実は、結構国際的な駆け引きをしているというわけだ。

画像4。ロボット関連の安全規格の階層構造