シャープは、AIoT対応のエアコンおよび空気清浄機と、介護施設および病院向けのナースコールシステムと連携させた新たなソリューション提案を開始する。シャープでは、健康や医療、介護といったHealth(ヘルス)事業の拡大を進める一方、家庭を対象に展開してきたAIoT家電の業務利用提案にも力を注ぐ姿勢をみせており、今回の取り組みは、そうした観点からも注目されるものになる。4月以降、介護施設での実証実験を開始し、成果を反映しながら、介護施設向けの提案活動を本格化させることになる。
AIoT家電が連携するのは、介護施設向けナースコールシステムとして、800施設以上に導入実績を持つ「Yuiコール」。ナースコールや電話機能、ハンディー端末との連携といった基本機能の提供だけにとどまらず、見守りセンサーやセキュリティ、各種センサーのほか、介護記録や電子カルテなどとの連携が可能な「Yuiコールプラットフォーム」により、介護施設や医療施設が必要とする機能を自由に追加できるのが特徴だ。接続された機器の状況は、管理コンソールを通じて一元管理が可能であり、部屋ごとの状況を見える化したり、入居者の呼び出しなどにも対応できる。
人手不足で現場ひっ迫、介護現場でAIoTができること
今回の連携では、「Yuiコール」と、シャープのAIoT対応のエアコンや空気清浄機を、シャープクラウドで連携。施設の管理室にある「Yuiコール」の画面上で、各部屋や施設内に設置された機器の運転状況を確認したり、温度設定の変更などの遠隔操作を可能にする。
今回のAIoT家電と、ナースコールシステムとの連携は、介護施設における業務の効率化や、安全な環境の実現に貢献するものになる。
周知のように、日本の少子高齢化は社会的課題となっており、2025年には、65歳以上の高齢者は、全人口の30%を占めると予測されている。それにあわせて、要介護者の増加も見込まれている。その一方で、介護施設の数や、勤務する職員の不足状態が続いており、調査によると、2010年には介護職員の不足は約40%だったものが、2019年には約70%に上昇。年を追うごとに、現場がひっ迫していることがわかる。
介護施設の職員は、勤務時間中は、定期的な巡回などを行っており、その際に、各部屋の空調、空気の質の制御といった点にも配慮している。
シャープSmart Appliances&Solutions事業本部BtoBソリューション事業統轄部PCI企画開発部 参事の西田高史氏は、「巡回では、数10室をまわることになり、日光が当たる部屋は温度が上がりやすく、北側の寒い部屋では寒くなるといったように部屋の特性にあわせた温度管理を行っている。また、暑がりや寒がりといった入居者の個性にあわせた室内温度の維持も必要である。さらには、リモコン操作が苦手な人や、リモコン操作が困難な人もいる。巡回の際に、職員はこうした点にも配慮をして、温度や湿度、空気の質などを制御している。AIoT家電を導入し、Yuiコールと連携することで、管理室から、各部屋の冷暖房の遠隔操作や、温度などの状況を確認でき、巡回時の作業を減らすことができる」とする。
AIoT対応のエアコンや空気清浄機に搭載している温度センサーや湿度センサーを活用して、最適な温度や湿度にできるほか、ホコリセンサーやニオイセンサーなどを活用して、部屋の空気環境の見える化も可能になり、それにあわせて機器を稼働させることもできる。
「センサーを通じて、各部屋の状況を常時確認できるため、入居者が夏場であるにも関わらず、エアコンの暖房運転をしてしまったというような誤操作を管理室から確認できたり、部屋の温度があがりすぎ、熱中症の危険がある室温に達する可能性があると事前に判断して、管理室のアラートを鳴らすといったことも可能になる」とする。
また、入居者から、ナースコールを使って、エアコンの温度設定変更などの要望があった場合も、スタッフが居室まで向かい、個別に対応することなく、管理室から遠隔操作ができる。これも、職員の作業の省力化につながることになる。
「コロナ禍においては、職員が入居者となるべく接触しないようにしながら、対応品質を高める必要がある。そうした点でも、AIoT家電と、Yuiコールとの連携が効果を発揮する」としている。
2021年3月17日~19日に、東京ビッグサイトで開催された介護事業者向け展示会「CareTEX東京」では、平和テクノシステムのブースで、YuiコールとシャープのAIoT家電との連携を展示。「巡回時に、各部屋の空調の制御作業がなくなることにメリットを感じる介護施設関係者が多かった」とする。
管理室からエアコンや空気清浄機の運転状況や、居室の空気環境の確認、遠隔操作が可能になることで、介護施設の職員の巡回業務の負担軽減や施設運営の効率化を実現できる手応えを感じたようだ。
今後は、エアコンや空気清浄機以外のAIoT対応機器と、Yuiコールとの連携拡大が見込まれるほか、Yuiコールと連携している各種センサーやソフトウェアなどとの組み合わせ利用も想定される。
たとえば、ベッドセンサーで寝返りを検知すれば、寝苦しいと判断し、それにあわせて、エアコンや空気清浄機の稼働を制御することもできる。AIoT対応液晶テレビとの連携によって、入居者がビデオ通話に利用したり、生活に関する様々な情報を表示したり、内蔵カメラを利用した遠隔医療での活用なども可能になるだろう。
健康・医療・介護は新たなシャープの重点事業
シャープでは、8重点事業分野のひとつとして、Health事業(健康・医療・介護)を掲げ、高齢化などの社会課題の解決に貢献する姿勢をみせている。
戴正呉会長兼CEOは、「足元のコロナ禍や、高齢化などの社会課題の解決に寄与すべく、シャープは、健康や医療、介護の分野における取り組みを、より重点的に展開していく考えである」と、Health事業を重要な柱のひとつに掲げる。
また、シャープの津末陽一専務執行役員も、「シャープが得意とする一般のお客様向けの健康機器やサービスなどの提供だけでなく、医療の高度化や医療、介護従事者の安全、効率化をサポートする機器やサービス、ソリューションを手がけていく」と語る。
今回の取り組みも、介護市場や医療市場に向けた事業強化の足掛かりのひとつになるといえる。そして、今後、AIoT家電を介護分野や医療分野に展開していくきっかけにもなりそうだ。