クレジット決済端末やICカードリーダーなどを生産する、佐賀県鳥栖市のパナソニック コネクティッドソリューションズ社佐賀工場が、このほど報道関係者に公開された。

  • パナソニック コネクティッドソリューションズ社佐賀工場

パナソニック コネクティッドソリューションズ社佐賀工場は、1964年に、九州松下電器の佐賀事業部の工場として発足。6万1000平方メートルの敷地に4万3000平方メートルの建物面積を持ち、約230人が勤務。同じ敷地内にあるパナソニック補聴器社や品質革新本部などにいる人を含めて、グループの佐賀拠点全体では約400人が在勤している。

佐賀工場では、同社が取り扱う国内シェアナンバーワンのICカードライターや決済端末のほか、ネットワークカメラ、ネットワークディスクレコーダー、液体冷却機器などを生産。加えてマイクや受信機などの音響機器、スキャナーなどのドキュメント機器、非常放送設備、多言語翻訳用スピーカーマイクやメガホンヤク、光IDソリューション、さらには、パナソニック アプライアンス社が取り扱っているグローバルシェアナンバーワンのコードレス電話機の生産も、この佐賀工場が担う。

  • 佐賀工場で生産されている決算端末

  • 補聴器も佐賀工場で生産されている

  • POS接続型マルチ決済端末では、ユニット型のJT-R600CRシリーズを生産している

  • 各種クレジットカードの決済に利用

  • メガホンを兼ねた翻訳機のメガホンヤクも佐賀工場で生産

  • グローバルでトップシェアのコードレス電話

生産の実証実験を行う場にもなっている佐賀工場

パナソニック コネクティッドソリューションズ社佐賀工場の高橋俊也工場長は、「パナソニックには、事業部ごとに生産を行う商品特化の工場が多いなか、佐賀工場は2カンパニー、6事業、17カテゴリーに渡る商品を生産する特殊な工場である。そして事業部直轄工場ではなく、コネクティッドソリューションズ社直轄工場だ」と紹介する。この背景には、直近10年間で生産集約を繰り返し、様々なノウハウが入り交じった拠点として発展してきた経緯がある。事業部が持つ生産ノウハウを、別の事業部の商品に生かすといったことが頻繁に行われている。

  • パナソニック コネクティッドソリューションズ社佐賀工場の高橋俊也工場長

また、「老朽化した棟を、2012年に建て直したⅠ棟は、パナソニックの国内製造拠点としては最新のものになっている。1フロアでの一貫生産体制を取り、導線を短くしている。年間生産機種の半分は年3回以下の生産品目であり、100台以下の生産品目が70%を占める異品種少量生産に対応できる拠点でもある。10年前の商品を1台だけでも生産する『お久しぶり生産』と呼ぶ取り組みも行っている。顧客の要望にあわせたカスタマイズ対応、セキュアなモノづくりも実現した、BtoBの生産に最適化した生産拠点であり、日本生産ならではの品質にこだわり、そのノウハウを生かして、様々な商品を生産している」(高橋工場長)という特徴も説明する。

360度カメラで作業者の手元まで映し出すデジドン(デジタルアンドン)の採用などにより、生産活動での工程状態をリアルタイムに可視化。工程パソコンや作業者入力、梱包最終チェックでのデータを収集するなど、パナソニクッグループのなかではいち早くトレーサビリティの仕組みを採用したのも特徴だ。これらのデータを活用して、これまでに蓄積した6億3000万件のデータから、必要なレポートを簡単に作成し、生産活動に反映させているという。

さらに、ロボットの手前ともいえる、自動化を活用したローコストオペレーションにも取り組んでいる。高橋工場長は、「組立の自動化による工数削減や、検査設備のロボット化で省人化と確実な品質確認を実現している。また、音声による保守作業のアシストや、作業者の身体データの活用、深度カメラを利用した動作の定量化、設備の予兆管理など、様々な新規要素やソリューション案の実証実験を工場内で実施している」と説明する。

これらの現場カイゼンとテストベッドの組み合わせによって、体験の場を提供することも可能だ。顧客の困り事を解決できるコア商材をパッケージ化するとともに、パナソニックグループ以外の顧客とつながり、カイゼン活動などのコンサルティングを中心として提案、それを実現するデバイスの販売に貢献するショールーム工場でもある。「顧客の現場に近づき、お役立ちするインテグレーターを目指す」という。

  • 音声による保守作業のアシスト。チェックシートが不要でハンズフリーで点検ができる。時間短縮のほか、記入ミス、検査ミスをなくすことに成功

  • 天井に設置したモーションセンサーを活用して作業者の手順をチェックし、人的ミスの防止につなげる取り組み

  • USBカメラを利用した検査設備のロボット化で、省人化と品質を確保

  • HG-PLCを活用した電力線通信技術の検証も行っている

事業の垣根を越えノウハウ活用を始めたパナソニック

佐賀工場は、これまでの生い立ちから、様々な事業部の商品を生産するユニークな製造拠点であるが、こうした事業部やカンパニーをまたいだ形で、お互いのノウハウを活用する取り組みは、佐賀工場に限らずパナソニックグループ全体で始まっているという。

パナソニック コネクティッドソリューションズ社モノづくりイノベーション推進室の一力知一課長は、「パナソニックには、グローバルに327の生産拠点があり、これらの工場は1つの指標で管理される一方で、それぞれが持つ文化、テクノロジー、ノウハウという3つの要素を共有する取り組みを進めている」と話す。

たとえば、家電製品は誰もが使えることを前提に開発されるが、そうしたノウハウを工場の生産設備にも応用するといった考え方は、家電メーカーであるパナソニックならではのものだ。

  • パナソニック コネクティッドソリューションズ社モノづくりイノベーション推進室の一力知一課長

また、製造現場では、通常作業者と熟練者とでは設備の稼働率に差があることをデータから導きだし、その動線の特徴を可視化することで、ノウハウを共有化している。梱包材の設計の際も、シミュレーションデータを元にして、人に負荷がかからないように箱の上半分に手をかけられるようにデザインし、腰部への負担を軽減するといった工夫が凝らされ、これが共有されている。

「基板製造ラインにおいては、検査画像やカメラ映像、設備データを含めて約3TBのデータが発生しているが、このうち記録できているデータは100分の1となる26GB程度。しかも、それから活用されているデータは、300分の1となる0.8GB程度に留まる。こうした多くのデータを活用して、意味があるものや、価値があるものに、どう変えるかを考えていかなくてはならない」とデータ活用の現状を説明する。

こうした生産現場で蓄積したノウハウは、今後、パナソニッグループでの活用だけでなく、パナソニックグループ以外にも提供していくことになるという。

「約60年に渡るパナソニックのカイゼンノウハウと、社内で培った豊富な経営効果実績に基づき、経営課題の抽出や課題解決に貢献したい」と展望を語った。

国内で圧倒的シェアだがガラパゴス事業にしたくない

佐賀工場で生産しているパナソニックの決済端末は、国内シェア7割という高い実績を持つ。

パナソニックでは、1974年に磁気式カードリーダーの生産を開始。小売店などで利用するクレジット決済端末は、1986年の発売以来、188万台を出荷。SuiCaやおサイフケータイなどに対応した非接触型ICカードリーダーは、2003年の発売から累計で155万台の出荷実績を持つという。

パナソニック コネクティッドソリューションズ社モバイルソリューションズ事業部マーケティングセンター法人営業3部総括の田中康仁氏は、「パナソニックはこの分野では老舗企業の1つであり、30年以上の歴史を持つ。自販機、外食、流通、物流のほか、鉄道やタクシーなどの交通、ガソリンスタンドなどのエネルギー分野などにも幅広く導入されており、キャッシュレュ社会の実現に向けて、クレジット決済端末、非接触ICカードリーダー/ライターを提供している」と話す。

  • コネクティッドソリューションズ社モバイルソリューションズ事業部マーケティングセンター法人営業3部総括の田中康仁氏

歴史があるというだけではなく、市場の変化やグローバルの流れを捉え、Apple Payなどの新たなサービスにもいち早く対応しているという。「国内市場が中心のビジネスであるが、技術面では、決して、ガラパゴスの事業ではない」と技術の対応力の高さを説明する。

  • Apple Watchを使って、交通系カードやApple Payでも利用できる

決済システムは、セキュリティの強化とともに、オムニチャネルにおける連携、セルフチェックアウト、無人店舗といったように利用現場の変化や進化に対応する必要がある。

パナソニックでは、そうした新たなニーズに対応するために、国際ブランドの非接触IC決済に対応した「決済端末のICカード対応」や、国際基準であるPCI PTSのセキュリティ要件「SRED」に対応した「POS接続型マルチ決済端末」の提案に力を注ぐ姿勢を示し、具体的な製品として、POS接続型マルチ決済端末では、ユニット型の「JT-R600CRシリーズ」を投入した。さらに、組み込み型の「JT-R610CRシリーズ」を戦略製品として、力を注ぐという。

また、「多様な決済ニーズへの対応とともに、スマホ設計で培った技術や、組み込み技術、アナログ技術などの特徴を生かすこともできる。スキャンする距離を長く取って、確実に読みとれるようにしたり、スピーカーを大きな音で鳴らしたりといったことも、家電で培ったノウハウなどを活用している」と強みを語る。

「佐賀工場では、PCI P2PEで求められる高度なセキュリティ要件に対応した専用設備、運用が可能になっている。この設備を持っていることも差別化になる」と付け加えた。

キャッシュレス社会の早期実現に積極関与へ

現在、国内のキャッシュレス決済の比率は約20%。今後、これは40%にまで引き上げられるとの見通しもある。政府の方針や外国人観光客の増加とともに、キャッショレス化の進展は加速していくだろう。

田中氏は、「多彩な決済手段に対応した次世代プラットフォームを採用した商品、サービスを順次展開することで、キャッシュレス社会の早期実現を支援する」と話す。

パナソニックでは、クレジット決済端末で2020年度に累計出荷200万台、非接触型ICカードリーダー/ライターも同様に2020年度に累計出荷200万台を目標にしているというが、「今後はこれら製品の融合も進んでいくことになる」と田中氏が展望を語る。

決済端末やICカードリーダーは、組み込み型で提供されたり、POSの横に設置されたりすることが多いため、パナソニックブランドの強い勢力が目立ちにくい製品だ。しかし、パナソニックは現状で国内シェア7割という圧倒的シェアを持ち、その上に、これから新たな決済方式への対応などを背景に、市場は2桁成長が見込まれている。

目には見えにくいが注目しておくべき、パナソニックの隠れた有力事業の1つだといえる。