パナソニックは、環境経営における長期ビジョン「環境ビジョン2050」を掲げている。

ここでは、製品の省エネ性能向上とモノづくりプロセスの革新により、パナソニックが使うエネルギーを削減。その一方で、創・蓄エネルギー事業の拡大と、クリーンなエネルギーの活用機会の増大により、パナソニックが使うエネルギーを超える量のエネルギーの創出および活用を進めることを目指している。

創業者の意思を引き継ぐ「環境重視」の姿勢

パナソニックの創業者である松下幸之助氏は、「企業は社会の公器。産業の発展が、自然を破壊し、人間の幸せを損なう事は本末転倒である」と語り、環境を重視する姿勢を堅持していた。そして同社では、1997年のCOP3(京都議定書)に対応して、環境本部を設立したのに続き、2007年にはエコアイディア戦略を発表。2008年には「エレクトロニクスNo.1の環境革新企業」を目指すことを標榜。2017年には、「環境ビジョン2050」を策定し、環境と事業の一体化を進め、日本政府が打ち出す「2050年カーボンニュートラル宣言」への貢献に取り組んでいる。

  • 企業の社会的責任とは何か? 環境重視は松下幸之助氏の思いであった

    企業の社会的責任とは何か? 環境重視は松下幸之助氏の思いであった

パナソニック 品質・環境本部 環境経営推進部 環境渉外室の下野隆二室長は、「パナソニックが目指しているのは、『使うエネルギー<創るエネルギー』である」とし、「事業活動に伴って排出されるエネルギーと、パナソニックの製品がお客様の手元で使われるときに消費するエネルギーを『使うエネルギー』とし、その一方で、太陽光発電や燃料電池、車載電池のほか、今後の水素の利用によるクリーンなエネルギーを『創るエネルギー』と呼んでいる。策定時は(使う・創るの比率が)10対1であったものが、2019年度実績では9対1である。これを2050年に逆転させることを目指している」とする。

  • パナソニック 品質・環境本部 環境経営推進部 環境渉外室の下野隆二室長(左)と、パナソニック ハウジングシステム事業部 建築システムBU VIG業推進部の木村猛部長

現在、「環境宣言」、「環境行動指針」、「環境行動計画=グリーンプラン」の3点から、環境基本方針を策定。3年ごとに策定している環境行動計画は、直近では2021年度を最終年度とする「グリーンプラン2021」を推進しており、2021年度には、使うと創るの比率は8.5対1を目標に掲げるなど、環境ビジョンの実現に向けて、「エネルギー」と「資源」を重点課題として、細かい目標を設定している。

  • 使うエネルギーと創るエネルギーの逆転を目指している

  • 「グリーンプラン2021」で定められた目標

使うエネルギーの削減では、照明、家庭用エアコン、業務用エアコンでの貢献が高く、一体型LEDベースライト「iDシリーズ」は累計出荷台数3,000万台を突破。家庭用エアコン「エオリアWXシリーズ」は省エネ大賞受賞の実績を持っている。また、CO2ゼロの工場づくりを推進。工場内の照明をLED化したり、クリーンなエネルギーの利用拡大などにより、現在、兵庫県加西市のパナソニックエコテクノロジーセンターをはじめ、ベルギー、ブラジル、コスタリカの工場でCO2ゼロを達成。草津工場や春日井工場では、水素エネルギーの導入も開始している。「パナソニックには、全世界に250の工場がある。その点では、CO2ゼロの工場づくりはまだ始まったばかりであるが、すべての工場においてこれを推進していく」という。

  • 世界中でCO2ゼロの工場づくりを進めている

さらに、東京・有明のパナソニックセンター東京では、2020年11月に、非製造拠点としては初となるCO2ゼロショールームを実現。LED照明や遮熱フィルムの導入による省エネ、バイオマス発電電力を導入した100%再生可能エネルギー由来電力への切り替え、在宅勤務推奨によるオフィス照明、空調の稼働率削減などが貢献。2021年1月からは、純水素型燃料電池の実証運転を開始するという。

一方で、従来からの「循環型モノづくりを進化」させながら、「サーキュラーエコノミー型事業の創出」にも取り組んでおり、資源の有効活用と顧客価値の最大化を実現しているという。樹脂使用量削減の取り組みとしては、植物由来のセルロースファイバーを添加した複合樹脂を開発。コードレススティック掃除機「パワーコードレス」のハンドル部分にセルロースファイバーを使用し、軽さと強度を両立させながら、樹脂の使用量も削減しているほか、アサヒビールと共同で環境配慮型リユースカップを開発。セルロースを55%以上の高濃度で配合している例を示した。

  • 製品にも環境重視の素材を開発・採用するなど取り組みを続けている

製品から排出する廃棄物を活用する取り組みも加速。デザイン性を生かしながら、アイロンのベース部分をブックエンドに再利用したり、炊飯釜を利用したランプ、システムキッチンの天板をテーブルに活用するといった提案も行っているという。

プラズマパネル技術を転用した真空断熱ガラス「Glavenir」

そして、「環境ビジョン2050」の達成に向けた具体的な事例のひとつとして、同社があげたのが、独自開発の真空断熱ガラス「Glavenir」である。

  • 真空断熱ガラス「Glavenir」

Glavenirは、プラズマディスプレイパネルの製造技術の転用によって、2017年に開発したガラスで、独自の真空断熱技術により、熱貫流率(U値))で0.58W/㎡・Kを実現。高性能なトリプルガラスと同等以上の断熱性能を達成しながら、4分の1となる6.1mmの薄さ(非強化仕様)と、25kg(720×1800mm、強化仕様)という3分の2の重量を実現。業界最高クラスの断熱性能を有し、環境負荷低減に貢献するデバイスとして、用途の拡大が期待されている。

  • Glavenirの概要

  • 参考に、こちらは従来の断熱ガラス

パナソニック ハウジングシステム事業部 建築システムBU VIG業推進部の木村猛部長は、「プラズマディスプレイは製造過程で2枚のガラスの間を高真空にしている。真空封着した部分に発光素子を用い、画像を映し出していたのがプラズマディスプレイである。Glavenirも同じ技術を利用し、2枚のガラスの間を真空にし、発光体の部分を取り除き、そこにピラーを配置して真空層を維持している。ピラーの形状や配置は断熱性能を大きく左右しており、そこにも工夫を凝らしている。また、製造時に必要となる真空排気孔には、美観や輸送効率に配慮した独自のフラット封止技術を採用している」としたほか、「真空は、熱を伝えないという特性があり、しかも0.1mmというわずかな隙間で高い断熱性を実現できる。パナソニックは、真空断熱ガラス分野には新規参入となるが、プラズマディスプレイでは、数1,000万枚の真空パネル生産の実績があり、これを生かしたものになる」と自信をみせる。

  • 「Glavenir」は、パナソニックの持つプラズマディスプレイ技術を転用することで、薄さと断熱性能の両立に成功した

表面圧縮応力変化が少ない独自の超低温封着プロセスと、新開発の超低温封着材により、ガラス強度の低下しない低温での真空封着を可能にしたことで、国内で初めて強化ガラス仕様にも対応。耐風圧強度は、フロートガラスの約3.5倍となり、既存ショーケースのガラスからの置き換えでは、消費電力を大幅に削減できるという。

「ガラスをGlavenirに置き換えるだけで、消費電力が17%改善するといった結果が出ており、強化仕様は、非強化仕様に比べて、2倍の断熱性能を持つ。従来の断熱ガラスは2枚、あるいは3枚のガラスの間に、空気やガスを入れて張り合わせており、ガラス同士の間を10mm程度開けないと性能が出なかったが、そうした課題を解決できる」という。

同社の試算によると、スーパーの店舗などに導入されいるトリプルガラスと結露防止用ヒータを使用した一般的なリーチイン冷凍ショーケースでは、年間で約560kWh/扉の電力消費が必要な場合、ガラスをGlavenirに変更すると、ヒーターレス化により、1扉あたり年間約15,120円の電気代を削減。「大型スーパーマーケット1店舗あたりでは、年間30万円以上の費用削減効果と、年間5.1t以上のCO2削減効果が期待される」という。

  • コンビニなどでよく見る卓上ショーケースで比較した効果検証

  • こちらはリーチイン冷凍ショーケースでの電気代削減効果の試算

また、独自材料の採用によりリサイクル性能も大幅に向上していることも強調した。

「世界中のガラスがGlavenirに変われば、窓から出るエネルギーロスを8分の1に減らすことができ、CO2削減にも大いに貢献できる。冷蔵・冷凍ショーケースや、冷蔵家電、建築分野などへの展開のほか、国や市場のニーズにあわせた提案が可能になる。自動車や鉄道といった非建築分野などにも利用できるだろう。取り扱いがしやすい真空断熱ガラスを広く普及させたい。各業界のパートナーと連携し、断熱ガラスソリューションで『くらしアップデート』を図っていく」としている。

なお、Glavenirの名称は、「Glass」と、フランス語で未来を表す「Avenir」を掛け合わせたという。

パナソニックは環境の観点からも、製品競争力を発揮し、事業成長との両立を目指している。