今年もF1日本グランプリがいよいよ開幕する。日本GPは、鈴鹿サーキット(三重県鈴鹿市)を舞台に、すでに3月27日からフリー走行が開始され、3月28日には予選、3月29日には決勝が行われる。
2026年3月6日のオートトラリアGPからスタートしているF1 2026年シーズンは、「現代F1史上において、最も大きなレギュレーション変更」と言われるなかで、熱い戦いが繰り広げられており、各チームは、新たなハイブリッドパワーユニットを搭載し、これまでとは異なる環境での戦いに挑んでいるところだ。
2025年シーズンで、シーズン最多勝を達成したマックス・フェルスタッペン選手を擁するOracle Red Bull Racingでは、新たなパワーユニットである「Red Bull Ford Powertrains」の性能を最大限生かしたレース展開のために、オラクルのクラウドサービス「Oracle Cloud Infrastructure(OCI)」を活用。同チームの高度なレース戦略をサポートしているという。
また、2026年シーズンでは、AIの活用がさらに促進されており、その点でも注目される。日本GPのレース直前に、Oracle Red Bull RacingのCIOであるマット・カデュー(Matt Cadieux)氏が取材に応じ、同チームにおけるOCIの活用について話してくれた。
Oracle Red Bull Racingとオラクルは、2021年から連携し、レース戦略の立案やエンジン開発、ファンサービスの提供などに、「Oracle Cloud Infrastructure(OCI)」を活用してきた。その間、3度のドライバーズワールドチャンピオン、2度のコンストラクターズワールドチャンピオンを獲得し、高い成果をあげている。
2026年2月には、このパートナーシップを今後5年間に渡って延長および拡大することを発表。2026年シーズン以降も、両者のパートナーシップのもとに、世界22カ所でのレースを戦い、チャンピオンシップ獲得を目指すことになる。
Oracle Red Bull Racingの最高情報責任者(CIO)であるマット・カデュー(Matt Cadieux)氏は、「F1チームを勝利に導くためには、テクノロジーが重要になっている。Oracle Red Bull Racing にとってオラクルは、Oracle Cloud Infrastructure(OCI)とOracle AIによる製品ポートフォリオを通じて強力にサポートしてくれる技術パートナーであり、オラクルの優秀なコンサルタントによるサポートも受けている。OCIの活用範囲は年々拡大しており、それによって、有利にレース展開ができる環境が整っている」と語る。
2025年シーズンの実績では、OCI上で実施したシミュレーション回数が。レースごとに約60億回に達し、年間で2000億回以上のレース戦略シミュレーションを実行したという。また、レースごとに毎秒100万回のモンテカルロシミュレーションを行った実績も明らかにしている。さらに、2024年シーズン時点では、チーム内に蓄積しているデータ量は、20PBにものぼっていたが、チームでは、より多くのデータを活用。さらに、AIの活用を促進するために、車両などから収集したテレメトリデータのほか、各種のテキストデータ、画像データ、音声データを活用し、それらをAIに学習させているという。これらのデータを活用した分析と、それをもとにした明確な意思決定が、チームに優位性をもたらしていることを強調する。
Oracle Red Bull Racingでは、4つの主要施策において、OCIやOracle Fusion Cloud Applications、Oracle AIを活用している。
ひとつめは、新たなハイブリッドパワーユニットの開発におけるOCIの活用だ。数年をかけて新たに開発したRed Bull Ford Powertrainsは、OCIのハイパフォーマンスコンピューティング、ベアメタルインフラストラクチャー、大規模シミュレーション機能を活用して設計し、徹底的なテストを実施。「記録的なスピードでパワーユニットの設計、検証、改良を行った」と胸を張る。
さらに、OCIによる設計、開発の仕組みを活用して、シーズンを通じたアップデートを継続的に行うことになるという。
2つめは、AI駆動の戦略エージェントの採用である。
たとえば、戦略立案を行うレースストラジストは、レースの開始前に、戦略エージェントから助言をもらい、戦略立案に活用。レース中にもAIモデルを活用し、ベストアクションのレコメンドをもとに、意思決定を行っているという。
「レースエンジニアが意思決定を図り、車両への的確な対応を図ることができる。これにより、意思決定のあり方を、大きく前進させることになる」とする。
戦略AIエージェントは、オラクルが持つAIスタックで開発され、人間のエンジニアと協働するように設計されているという。戦略エージェントは、データ収集を自動化し、過去およびリアルタイムのレース情報を解釈。インサイトを提示することで、エンジニアが、より迅速に変化に判断し、レースの変化に対応できるになるという。
カデュー氏は、「戦略エージェントは、チームにおいて、重要な役割を担っている」と評価する。
また、AIの活用によって、「レギュレーションに適応する能力を劇的に向上できる」とも語る。
FIA(国際自動車連盟)が定めたスポーティングレギュレーションのほか、テクニカルレギュレーション、フィナンシャルレギュレーションにも対応し、これらを正しく理解するためにAIエージェントが支援を行うという。
AIエージェントは、過去のすべてのレギュレーションや、それに関する事象を学習し、レギュレーションについて質問をすると、リアルタイムで回答を生成し、対応することができる。チームがレギュレーションに則ってレースを展開していることを確認するとともに、他チームのレギュレーション違反なども確認ができる。
3つめは、高度なレースシミュレーションでの活用だ。
2026年シーズンは。新たなレギュレーションへの変更によって、動力の生成方法やエネルギーの運用方法、パフォーマンスの引き出し方を、根本から見直す必要に迫られた。そのため、これまで以上に高度なモデリングが求められており、そこにOCIが大きく貢献しているという。
新たな戦略環境に合わせて、より深く、より細かなシミュレーションを実行するための次世代モデルを用意。エネルギーの使用量、アクティブエアロの設定、デプロイメントのタイミング、タイヤへの影響、数1000にのぼるレースシナリオを織り込み、高度で多彩なレースシミュレーションを行っている。
このシミュレーション基盤の強化により、チームドライバーやストラテジストは、データドリブン型の指針を得ることができ、戦略決定を最適化できるという。
「OCI上での高度なモデリングとシミュレーションにより、迅速な検証、学習、対応が可能になる。Oracle Fusion Cloud Applicationsに組み込まれた最新のAI機能を最大限に活用して、効率化、意思決定の高度化、競争優位の維持を図ることができる」という。
そして、4つめが、財務、人事、マーケティング分野でのOCIの活用だ。
ここでも、「Oracle Fusion Cloud Applications」を活用し、計画策定と予算編成の最適化したり、給与計算の簡素化したり、従業員エクスペリエンスの向上を実現したりといった成果があるという。
「約1カ月後には、人事システムであるOracle Human Capital Management(HCM)に本格的に移行する予定である。採用の際には、多くの応募があるが、AIが履歴書や実績書類などをもとに、そのポストに最適な人材を候補として選択してくれることから、効率的な採用につながっている」とする。
さらに、ファンを対象としたサービスについても、OCI上で稼働するOracle Fusion Cloud Customer Experience (CX)を活用しており、パーソナライズされたコンテンツや会員限定特典、革新的なファンロイヤルティプログラムなどを通じて、ファンとのつながりを強化しているというる
OCIが、クラウド環境であることの強みも改めて強調した。
シーズンを通じて世界22都市でレースが開催されるなかで、本部がある英国のシステムと接続したハイブリッド環境での利用が可能であること、堅牢性、拡張性、セキュリティに優れ、データを瞬時に分析、処理し、信頼性をもとに、グローバルで協働することができること、時期によって使用するリソースが大きく変化する状況にも柔軟に対応し、使用した分だけを支払うという仕組みであるため、ITコストの削減効果にもつながることができているという。「活用するツールなどを標準化できる。結果として、運用を簡素化でき、コストダウンも実現できる」とする。
フィナンシャルレギュレーションにより、チームのIT投資には上限が設定されるなか、「投資から最大限のメリットが得られるようにするために、OCIが持つクラウドの強みを生かしたい」と述べる。
OCIでは、Oracle Enterprise Manager (EPM)により、クラウドまたはオンプレミスにデプロイされたOracle Databaseおよびエンジニアドシステムを対象とした包括的な監視および管理、予測を、インテリジェントに行える。ここにもOCIのメリットがあるとする。 また、Oracle Red Bull RacingへのOCIの導入に関しては、 Oracle Consulting が管理し、導入後は Oracle Customer Success Services (CSS)によってサポート。チームにとって、最大限の投資メリットが得られる環境の実現を支援している。
今回の説明で、カデュー氏が明らかにしたように、2026年シーズンにおいては、AIおよびAIエージェントの活用は一気に進展している。
Oracle Red Bull Racingは、OCI上に複数のAIモデルを構築しており、カデュー氏は、「AIは、車両設計、製造の効率性、パワートレインの設計への活用のほか、サーキットでの意思決定をいち早く行うためにも活用している。すでにAIは不可欠なものになっている」とする。そして、「AIを活用できる範囲は、まだまだ広がると考えている」とする。
これに伴い、IT部門のメンバー構成にも変化が生まれているという。「テクノロジーが変化すれば、当然、それにあわせた人材が必要になる。新たな領域で活躍してもらうためにスキルアップのためのトレーニングを実施したり、AIに関するスキルを持っている人材を採用したりといった取り組みを通じて、チームの知識を補完している。前シーズンに比べて、IT予算を増やすことで必要な人材の獲得につなげている」という。
また、IT部門以外のエンジニアに、AIに関するスキルセットを持つ人材を採用するといった動きも進めているという。チーム全体でのAIスキルの向上が鍵になっている。
カデュー氏に、「AIが、F1レースの勝敗を左右する時代が、すでにやってきているのか」と聞いてみた。
これに対して、カデュー氏は迷うことなく「ノー」と答え、次のように語った。
「人が持った経験や蓄積は膨大なものがあり、それはAIとは比べものにならないほど、はるかに大きな差がある。だが、人がよりよい意思決定を行うために、AIがエンジニアたちを補完する役割を果たしていることは間違いない」とする。
その一方で、「技術進化の速さ、テクノロジーへの投資が増加していることをみると、10年後、20年後には、人とAIの関係性や、レースへの影響度がどうなっているのかは予測がつかない。ただ、はっきりしているのは、AIを取り入れなかったり、AIに投資をしなかったりするチームは、置いていかれることである」とも述べて。
もはやF1チームにとって、AIは欠かせないものになっているのは明らかであることを示してみせた。
最後にカデュー氏は、「日本の熱烈なファンに、私たちの走りを見せられることを、ドライバ―、エンジニアは楽しみにしている。ぜひ、Oracle Red Bull Racingを応援して欲しい」と述べた。
OCIとともに戦うOracle Red Bull Racingの日本GPでの順位に注目しておきたい。



