東芝は、グループ内の研究開発成果を公開する「東芝 総合研究所 R&Dフェア」を、神奈川県川崎市の研究開発棟「イノベーション・パレット」で開催した。
「技術への挑戦。ともに描き、ともに創る未来。」をテーマに、エネルギー、デジタルインフラ、デバイス、AIデータ、セキュリティ、量子・革新の領域から、総合研究所が統括する19の技術を、報道関係者に公開した。
東芝 総合研究所の落合誠所長は、「2025年は東芝が設立して150年目にあたる。また、2025年4月には、機能や役割に応じて分かれていた研究組織を統合して、総合研究所を発足した。今回の技術公開は、東芝150年、総合研究所発足1年目の研究開発の成果を披露するものになる。『技術の東芝』らしい骨格をなす成果を紹介する」と位置づけた。
公開された東芝の最新技術を紹介しよう。
「技術の東芝」の最新技術
物流倉庫におけるピッキング作業を自動化する技術と、製造現場でスポット溶接の際に検査を行う技術を展示した。物流倉庫では、吸着パッドを複数使用し、商品などの形状を瞬時に判断して、使用する吸着パッドの数などを推定。最適なピッキングを高速に行うことができる。また、スポット溶接の検査は、熟練者に限定されていたが、超音波非破壊検査の画像を直接解析する技術をロボットのなかに組み込み、熟練者の技術の継承だけでなく、作業速度を10倍高速化できるという。透明のソフトシューを新たに開発し、液体を塗布することなく検査ができるようにした。
GPSなどを活用した従来方法による測位では外部環境の影響を受けやすいという課題があるが、東芝では、加速度センサとジャイロセンサを組み合わせて物体を捉える慣性センサ技術を開発。動きを正確に捉えることができる。精度を100倍に高めることができ、東京からニューヨークの飛行も、GPSがなくても到達できるという。また、MEMS技術を用いることで、加速度センサとジャイロセンサをひとつのチップに搭載。手のひらサイズのモジュールで実現するという。今後は5cm角に小型化し、ドローンなどにも搭載できるようにするという。会場では開発したモジュールを搭載し、地球の自転速度をリアルタイムで観測するデモンストレーションを行った。
目視ではわからない社会インフラ内部の損傷を、非破壊で可視化する技術だ。見えない劣化の兆候をいち早く検知できる。たとえば、橋梁内部の損傷をマッピングするために、微弱な弾性波(アコースティック・エミッション)を利用。床版内部損傷を可視化できるという。デモストレーションでは画面に赤い点で振動を表示した。2025年から高速道路の橋梁で適用しており、今後は産業機器やプラントへの応用を検討している。国交省の標準試験で的中率がナンバーワンであり、東芝主導で標準規格化を進めているという。また、これを実現するために乾電池で動作する無線センサーシステムを開発。独自の高精度時刻同期アルゴリズムを搭載しており、計測コストを低減することができる。
様々なアプリケーションに即応する高性能変換器を開発した。GaNと磁性デバイスの組み合わせで、低損失化と小型化を実現。さらにビルディングブロック構造によって、応用範囲を広げることできるという。展示では3種類のモジュールを展示。さらに、48Vモジュールを8台組み合わせたデータセンター向けサーバー電源を想定した電力変換器を展示した。情報化社会において電力需要が急増する一方、データセンターでの分散電源の普及が進展し、変換器に対するニーズが多様化していることも対応できるという。
MAMRやHAMRの2つの次世代アシスト記録方式により、高記録密度化を実現。さらに、メカ制御技術による低振動化も実現した。これにより、データセンター内のHDD同士の振動による干渉で、他のドライブが使えなくなるというトラブルを解決する。もともとモバイル機器向けHDDのために開発してきた静音化技術のノウハウを活用して、低振動化を達成したという。データセンターに蓄積しているデータの約6割がHDDであり、東芝では、大容量データ保存に対応した進化に取り組む考えを示す。2027年度には、40TBのニアラインHDDを製品化する予定だ。会場では12枚積層HDDを展示したほか、熱アシストHDDも展示した
鉱山トラックなどの大型電動モビリティを対象にした提案だ。リチウムイオン電池では劣化しやすいという特徴があり、急速充電性、安全性、耐久性の観点での課題が指摘されている。ニオプチタン酸化物負極電池技術は、ハイパワー、高エネルギー密度を実現するほか、急速充電運用における安全性や長寿命性も実現するのが特徴だ。試算では、リチウムイオン電池では10回の電池交換が必要だが、これが不要になり、TCO削減効果は20%に達するという。展示ではニオプチタン酸化物とともに、VDAサイズのラミネート型セルを展示した。2030年度には、セルの提供を開始する予定だという。TCOやCFP(Carbon Footprint of Products)の削減要求に対応できるとしている。
半導体レーザーでは実現できなかった中遠赤外波長を利用することで、遠隔でのガスセンシングやバイオ原料認証、高い高度での光無線通信の実現などに貢献するという。デバイスのなかに、フォトニクス結晶という光を制御するナノ構造を埋め込むことで、高いビーム品質と、ワット級の高出力を両立しているのが特徴。また、室温での動作を可能にしているほか、波長と角度を制限することで、環境ノイズを低減し、高いS/N比を実現できるという。デモンストレーションでは、ガスが入った袋を押し、CO2ガスを検知してみせた。2027年度には遠隔ガスセンシングのフィールドテストを開始する予定だ。
「知識ばらし」は東芝独自の技術で、生成AIを活用して、製造・社会インフラ業務の熟練者知識の継承を実現するAIエージェントだ。対象業務をプロセスへと展開し、暗黙知と紐づけて保存することができるのが特徴となる。AIエージェントは、熟練者にインタビューを行い、結果をリアルタイムで蓄積。暗黙知を効率よく抽出する。知識忘却が少ない手法を採用したり、規格化した画像説明文に変換することで、少量データでも様々な図表に展開したりといったことが可能で、低コストでの対応が可能だという。東芝のエネルギー事業部門において試行しており、この枠組みを活用することで、ひとつの業務での人的コストを4分の1削減できたという。
細かな違いを高精度に分析する画像認識AIと、現場要望を手間なく反映できる画像認識AIで構成。倉庫での検品作業や危険状態の点検、設備異変の点検に適用させることで、作業の効率化や省力化、現場の安全性向上、定期点検の効率化を実現する。展示では、菓子のパッケージをかざすだけで、バーコードなどを読み取ることなく、商品を認識できる様子をデモンストレーションしてみせた。また、安全性確保のために、防護メガネ着用を前提とした工場施設の入口にカメラを設置し、映像からメガネを装着していない人を検出するデモストレーションでは、簡単な質問だけで設定できる様子も示した。
人手の作業がなく、AIが膨大なデータのなかから、特殊な検査画像を分類することができるため、どのような不良が、どれぐらい起きているかを把握できるほか、見つかった不良に対して、生産データや検査データが紐づいており、関係性から根本原因を見つけることができる。AIを活用することで、人が想定していないような不良を見つけ出すこともできるという。2025年度から、東芝の半導体工場に導入しており、検査作業の効率化を実現しているという。今後、社外に向けた提供を開始するという。
東芝が「DNCWARE BlockChain+」として、すでに商品化しているブロックチェーン技術。記録の証明が可能であり、障害耐性が高く、さらに、Java Scriptによって簡単に記述できるスマートコントラクトを実行できるといったブロックチェーンの良い特徴を生かしながら、エンタープライズの要件に対応できるように進化させた。独自のアルコリズムにより、可用性とビザンチン障害耐性を実現。ICカード認証やパブリックブロックチェーンとの連携も可能であり、料金の支払いはこれらのエコシステムを活用するといった応用も可能だ。すでにカーボンクレジットの流通、トレーサビリティの証明、自治体DXにおける契約事務の電子化などに活用されているという。
発電所や浄水場などの社会インフラや、重要な製造システムにおけるサイバーレジリエンスの向上を実現する技術。東芝では、制御システムに対するサイバーセキュリティ対応では10年以上の実績を持ち、2027年には本格的な施行が見込まれる「能動的サイバー防御法」にも対応しているという。社内に在籍しているホワイトハッカーが模擬インフラ環境において防御効果を検証。顧客のシステム運用を想定した安全な製品の開発を行っているほか、東芝が持つセキュリティ監視センターを通じて得た脅威情報とシステム停止リスクを加味した影響を正確に判断し、顧客システムの運用を想定した対応策を提案するという。展示では、火力発電所のシステムを想定。セキュリティ監視端末が攻撃に使われている端末を特定して切り離し、サイバー攻撃によるタービンの停止を防ぐ。
東芝は2020年から光ファイバーを使用した量子暗号通信サービスを提供しているが、距離に限界があるという課題があった。衛星を介して量子鍵を配送することで、大陸間での安全な通信を実現することができる。金融、生体、医療、外交、安全保障など、様々な極秘情報を世界中に安全送信できる未来を実現するという。衛星に搭載することを前提に、20×10×10cm、1.6kgの小型、軽量、低消費電力の送信機を開発し、衛星が頭上を通過する3~5分間のみ通信を行うという。高繰り返し周波数(1GHz)と高速同期技術により、4Mbits超の大量鍵生成を実現できるという。また、地上に敷設された商用光ファイバーQKDと統合したグローバルQKD網を構築し、地球規模の安全なネットワーク構築が可能になる。2026年度には高度約100mのドローンを利用した自遊空間QKDの実証を行い、2027年度には高度約500kmの低軌道衛星と地上との通信実証を行う予定だ。
量子計算機の実用化に伴い、現在使われている暗号方式が破られてしまう可能性が指摘されているが、東芝では、量子計算機に強いQKDとPQCを、用途にあわせて組み合わせることで、長期的な安全性を確保することを目指している。量子暗号技術によって、量子時代のセキュアなネットワークを実現することができるとしている。QKDでは、長距離化技術と高速化技術により、安全な鍵を、早く遠くまで届けるための技術開発に注力。PQCでは、計算資源が乏しい機器でも実装が可能な小型化技術の開発を進めているという。
すでに利用が可能な量子応用技術についても展示した。シミュレーテッド分析マシンは、すでに実用化されており、東芝では唯一、組み込み向けを製品化していることも強調した。これは、一般的なPCでも利用が可能だ。量子インスパイアード最適化技術は、組み合わせ最適化問題を高速で求解。GPUやFPGAの環境において、創薬や金融、車載、ロボットなどの分野で活用されている。また、量子コンピュータの実機を使いこなすための応用要素技術の開発にも取り組んでおり、量子機械学習、回路最適化をテーマに、ノイズのある量子コンピュータの特性を考慮した技術開発を推進しているという。2028年度には次世代車載システム向けIPの開発を目指すという。展示では、量子インスパイアード最適化技術を紹介。FPGAボードを使用した多体物体追跡デモでは、複数の人にIDを付与して追跡することができる。人が重なって見えなくなった場合にも再追跡ができ、1秒間に50回以上、最適化問題を解き続けている様子がわかる。
現在の量子ゲートの精度は実用化という点では不十分だが、東芝では、約4年前から独自の超伝導素子であるDTCを開発し、高いゲート精度と量子ビットの拡張性を実現したという。量子ビットの間にカプラを配置し、結合のオンとオフを切り替えて動作させる。理化学研究所との共同研究では、世界トップクラスとなる99.90%の2量子ビットゲート忠実度を達成したという。また、量子ビット間の周波数差を大きく設定できるという特徴を生かして、クロストークの低減と周波数衝突の回避が可能になり、量子ビット数を増やしても精度を維持できるという。2028年度を目標に、2量子ビットゲートで99.99%のゲート忠実度の達成を目指すという。画面では丸い部分が量子ビットで、間をつないでいるのがダブルトランズモンカプラとなっている。
事故時に運転者の操作がなく、原子力プラントの安全を確保することができる取り組みであり、自然の力を利用した冷却システムによって実現するという。コアキャッチャにより、デプリを耐熱材で受け止め、水の事前循環冷却で保持。デプリから大量蒸気が発生し、格納容器内の圧力と温度が上昇した際には、静的格納容器冷却システム(PCCS)により、ポンプが不要な熱交換機で蒸気を凝縮することができるという。東芝では、複雑で多様な熱流動現象を独自の解析技術によって再現。膨大な熱量に対しても、冷却性能を予測して対応できるという。
山間部や洋上などにある発電プラントでは、点検を行う際のアクセスに時間がかかる一方、点検作業者の減少と、手作業での点検結果の整理作業が負担になるという課題があった。ドローンが無人で自動的に巡回を行い、照明がなく、GPSが使えない屋内でも自己位置を推定し、設定経路を自動的に飛行。レーザー距離系を組み合わせることで、衝突を防止したり、10cmのクリアランスで狭い通路を通過して、自動的に位置と映像を紐づけて、点検履歴を管理できたりする。作業者の移動と後作業をなくし、負担が少ない点検作業を実現。発電プラントの点検業務をデジタル化して、省力化することが可能だ。2026年度には陸上風車や水力発電所の日常点検に適用する予定だ。
データセンター需要の拡大などにより、送変電機器に対するニーズが高まる一方で、絶縁性能に優れたSF6の使用は、温室効果ガス規制への対応が求められている。自然由来ガスの絶縁性能はSF6の約3分の1だが、将来規制リスクがゼロという特徴があり、機器をコンパクト化できるというメリットがある。東芝では、性能を限界まで高めることができる高電圧絶縁技術を活用することで、送変電機器の更新への対応を図るという。




































































