リコーと東芝テックの合弁会社であるエトリア(ETRIA)が、2024年7月に設立してから約1年を経過した。2025年10月には、OKIも参画することになり、3社はエトリアが開発、生産する複合機向け共通エンジンを採用。各社独自のコントローラーやソフトウェアで差別化し、RICOHブランド、TOSHIBAブランド、OKIブランドの複合機をそれぞれ販売することになる。
今回の説明では、2027年度には新開発の複合機向けエンジンを前倒しで投入することや、2028年度には売上高5000億円を目指す新たな目標も発表した。
エトリアの中田克典社長は、「最初の1年は合格点。すごくいい点数である。9カ月間(2024年7月~2025年3月)の業績は、売上高、限界利益、営業利益は、すべて計画を達成した。15社の関連会社を傘下におき、全体で15万点の部品を管理し、1機種あたり1000点の部品によって組み立てる製品を、オーダーを受けてから、遅延なく出荷できている。社内ITシステムも問題なく稼働している。計画通りに進んだ1年だった」と総括。「2025年度(2025年4月~2026年3月)は、目標に掲げている営業利益率5%は十分にいける。2年目はOKIを含めて3社での新たな挑戦を進める年になる」と、成長戦略に自信を示した。
エトリアでは、設立当初から、ブランドオーナー(リコー、東芝テック)の成長を前提とし、同社自身の営業利益率は5%維持を目標にする計画を打ち出している。この方針には変わりがない一方で、売上計画は、新規エンジンによる競争力強化と供給先の拡大を軸にした大胆な成長戦略を打ち出している。
「2028年度の売上高は、軽く5000億円を超える形になると見ている。その上で営業利益率5%を維持する」と発言。「過去には、ハードディスクやメモリにおいて、世界一のメーカーだった企業が、あっという間に、その地位から陥落した例を見てきた。成熟した市場のなかでは、なかなか手が打ちにくくなる。変化する顧客ニーズに応えた優れた製品を開発するメーカーとなるだけでなく、複数のパートナーの技術を掛け合わせて、新しい事業領域にも挑戦をしていく。日本での協業による成功のロールモデルになりたいと考えている」とコメントした。
また、「国際情勢の緊張や不安定化によって、サプライチェーンの見直しや工場の集約化、部品在庫の拡大などの手を打っている。そのための資金も必要であり、資金的余力がないところは太刀打ちしにくい状況に陥っている。リードタイムを短くし、より簡単なモノづくりが必要になる。環境規制や情報セキュリティへの対応も必要である。複数の企業のノウハウを持ち寄ることで、こうした困難にも対応できる」とし、「厳しいプリンティング業界において、変化し続ける顧客ニーズに応えた製品を開発し続けられるメーカーとなり、同時に新たな事業を創出することにも取り組んでいく。既存業界に革命を起こし、未踏の領域にも挑戦する」との考えを改めて示した。
エトリア、設立1年の実績を振り返る
エトリアの実績についても振り返った。
この1年間では、リコーが、エトリア設立前から計画していた新製品2機種を計画通りに市場投入。2025年3月に発売したリコーのA3複合機の新製品では、エトリアの画像補正処理技術とともに、PFUのストレートパス搬送技術を採用することで、中小企業のデジタル化を支援する製品として投入。また、循環型社会の実現に貢献するサーキュラーモデルとして再生複合機も発売した。同製品は、部品リユース率が86%といった特徴を前面に打ち出している。
生産では米国相互関税への対策として、工場の相互活用を前倒しで実施。周辺機の生産については、マレーシア工場に集約することで効率化を追求し、2023年度比で1.5倍の売上規模になるという。購買ではスケールメリットを生かすほか、メカ部分の共通設計などによるコストダウンを推進しているという。また、出荷前の検査項目がリコーでは3つに分散していたものが、東芝テックでは1つの検査でカバーできるといった仕組みを適用することで、効率化や品質向上につなげるといった取り組みも進めているという。
開発投資については、「開発に関わるコストダウン計画は厳しいものを設定しているが、効率化はしっかりと進めている。1社単独ではできなかった開発投資ができている。開発とデザインを一緒にすることで、いいところ取りをしたモノづくりができる」として、新エンジンの前倒しでの市場投入があっても、当初の投資金額そのものには大きな変更がないことを示した。
注目される共通エンジンの開発については、「既存資産の相互活用」、「強いモジュールの組み合わせ」、「ゼロベースの新規エンジン開発」という3つのフェーズで取り組んでいることを示す。
ひとつめの「既存資産の相互活用」としては、東芝テックのエンジンを活用したリコーブランド向けMFPとして、A3低速モノクロMFP「RICOH M2510/M2310N/M2810N」を、2025年に発売。イントや中国、アジア諸国に展開し、今後、欧州にも展開していくことになるという。
2つめの「強いモジュールの組み合わせ」では、それぞれのプラットフォームの強い部分を生かし、そこに各社のコントローラーを搭載し、販売するという取り組みだ。それぞれが持つ強いエンジンを相互活用し、モジュールを活用したモノづくりを進めているという。2026年には製品化することになる。ただ、従来のエンジンのアーキテクチャーにあわせたコントローラーを作るといった課題があることも指摘した。
そして、3つめの「ゼロベースの新規エンジン開発」では、先にも触れたように、前倒しで開発を進めることを発表。新たにモジュール型の開発手法を採用することを明らかにした。「東芝テックのエンジニアと、リコーのエンジニアがそれぞれに得意とする部分をモジュール単位で開発し、それを組み合わせて製品化することになる。開発期間を短縮化でき、その結果、2027年度に新たなエンジンを市場投入することができる。新エンジンの投入時期はかなり早めた」とし、「低価格、省資源、省エネルギー、信頼性に加えて、3社が勝つために必要な機能を盛り込む。また、他社が使いたいと思う機能も盛り込む。あわせて、各社のコントローラーを活用しやすいような仕様を目指す」と、新エンジンの方向性について述べた。
新規領域と位置づけているのが、Auto-IDである。
Auto-IDは、東芝テックが小売を中心に注力してきた事業で、バーコードやICタグなどのデータを自動的に取り込み、内容を識別して管理するソリューションを提供。電子商取引(EC)や物流、製造業におけるデジタル化や自動化の進展によって、今後の成長が期待されている分野だ。同社によると、市場規模は約2兆円、年平均成長率は5~8%を想定しており、消耗品などを含めると4兆7000億円の市場規模が見込まれるという。
「バーコードやRFIDを活用することで、製造業でのパーツの管理や、小売業における生鮮食料品の管理ができるようになる。ESPR(エコデザイン規則)で追加されたDPP(Digital Product Passport)への対応など、各国の環境規制に対応した管理にも活用できる。プリンティング技術と親和性の高いバーコードプリンターを起点に、Auto-ID事業の拡大を目指す」とした。
リーダーやプリンタといった機器に加えて、シールやラベル、リボンといった消耗品などでAuto-ID事業を展開。流通、製造、小売、ヘルスケア、商業サービスなどの領域をターゲットにするという。
東芝テックの技術を活用したバーコードプリンターを新たに開発し、エトリアの特徴を持たせた製品として東芝テックに供給。東芝テックは、これを通じて業界トップシェアを目指すほか、将来的には、エトリアから他のブランド向けにも製品を供給することになる。 また、リコーが持つサーマルペーパーや熱転写リボン、東芝テックが持つRFIDリーダーなどの製品や関連技術、サプライを組み合わせて、製品やチャネルを拡大する。
「バーコードは認識精度が高まっているため、印刷精度が悪くても読み取ることができる。だが、今後、バーコードを小さくして、そこに様々な情報を入れるようになると、プリンタも紙も高い品質が要求されるようになる。そこに、紙やインク、ライター/リーダーの技術を持つエトリアの強みが発揮でき、あらゆるメーカーにソリューションを提供できる」とした。
エトリアでは、東芝テックが開発した複合機の技術を活用し、リアルタイムOSと組込OSの両方を搭載した新システム構成「A-BRID」を有しており、これも差別化につながるとしている。
新たに加わったOKI、統合の新体制
今後のOKIとの統合についても説明した。
新たな体制におけるエトリアへの出資比率は、リコーが80.74%、東芝テックが14.25%、OKIが5.01%となり、開発したエンジンは、3社のほか、他社にもOEM供給する考えを示している。
中田社長は、「統合前であるため、現時点では機微な情報については連携ができないが、短い期間で結果を出し、ロケットスタートを切りたいと考えている」と述べた。
リコーとOKIは、2019年から、A3モノクロプリンターの共同開発を進めており、エンジニア間の相互理解が進んでいる関係を持つ。「機微な情報に触れなくても、次期製品の加発に向けた共同歩調が取りやすい。また、OKIが持つLED技術を活用したカラーラベルプリンターなどにより、東芝テックを通じたAuto-ID領域においてシナジー創出を期待できる」という。
一方、この1年間、中田社長が重視してきたのが、リコーと東芝テックの両社の文化の統合だ。
中田社長は、「2社の文化的なつながり、精神的なつながりは、この1年で深くなった。すべての世代の社員が、この会社を未来につなげたいという思いで取り組んでおり、エトリアという新たな文化が醸成されてきた」とする。
2024年7月の設立前から、社内全体のコミュニケーション、技術者同士のコミュニケーションなどに関するプロジェクトチームを、若手社員を中心に構成して活動を進め、一体感の醸成につなげている。新たに社外への認知度を高めるための施策を検討するチームを発足したところだ。
「一緒になってわかったのは、リコーと東芝テックの社風が似ているという点。OKIについても、OKIデータを出自としたチームであり、民需を担当してきた。似た文化があると感じている」と述べた。
複合機市場は、ペーパーレス化の流れなどを背景に出荷台数が減少しているが、それ以上に深刻なのが、プリントボリュームの減少である。複合機のビジネスモデルは、カウンター料金によるプリント枚数や、消耗品の販売をベースにした収益モデルであり、ここで得られた収益を、ハードウェア本体の開発などに投資するという仕組みだ。つまり、プリントボリュームの減少は、ハードウェア本体の減少よりも、メーカーの収益性を悪化させる影響度が大きく、その局面にあるのが、いまの複合機市場だといえる。実際、調査会社の予測では、本体台数の減少よりも、1台あたりのプリントボリュームの減少の方が大きいとされている。
プリントボリュームの減少は、主軸となるアフターサービスによる収益縮小につながり、ハードウェアの開発投資の抑制に直結することになる。
開発投資の抑制に向けては、新製品投入ライフサイクルの長期化などによる対応もあるが、その一方で、情報セキュリティ対応や環境対応の強化などもあり、1社による新製品開発の加速や、これまで以上に開発投資を拡大するといったことが難しくなっているのが現状だ。
エトリアの取り組みは、メーカー同士が相互に資本を入れながら、共通エンジンを開発するという新たな取り組みであり、中田社長は、「複合機のビジネスを継続したい、お客様との関係を維持したいというメーカーに対する新たな提案である。業界を存続させることを目指したものになる。そのためにエトリアが行うのは、開発および生産を担い、共通エンジンを提供することであり、販売までを一緒に行うものではない」と、エトリアの立ち位置を改めて強調した。






