パナソニックグループが発表した国内5000人、海外5000人の合計1万人の人員削減は大きな注目を集めている。2024年度連結業績は、営業利益が前年比18.2%増の4264億円、最終利益は前年比17.5%減の減益となったものの、3662億円の黒字を維持。それにも関わらず、大規模な人員削減に踏み出すことになる。パナソニックホールディングスの楠見雄規グループCEOは、「雇用に手をつけなくてはならないことは忸怩たる思い」としながらも、「パナソニックグループが、10年後、20年後も、お客様や社会へのお役立ちを果たし続けるためには、いまの段階で人員削減に踏み切らざるを得ない」と断言する。パナソニックホールディングスの楠見グループCEOに、1万人の人員削減を断行する意味、そして、注目を集めるテレビ事業の行方について聞いた。

  • パナソニックホールディングスの楠見雄規グループCEO

    パナソニックホールディングスの楠見雄規グループCEO

黒字であっても1万人の人員削減を断行する意味

パナソニックホールディングスの楠見雄規グループCEOは、2025年2月4日に行ったグループ経営改革の説明会で、2025年度中に、本社および間接部門の人員の徹底最適化を進め、雇用構造改革も推進することや、再建事業および事業立地見極め事業とした家電事業では事業構造および体制を抜本的に見直し、国内間接部門については、業務効率化やスリム化を実施することなどに言及していた。

それを具体的な形で示したのが、5月8日に発表した1万人の人員削減だ。

  • グローバルで1万人の人員削減を発表。規模の大きさや、黒字リストラであることでも、大きな衝撃が走った

この人員削減の狙いについて、楠見グループCEOは、「パナソニックグループが、10年後、20年後、さらにはその先の未来においても、より良いくらしと社会へのお役立ちを果たすために、自らを抜本的に変える経営改革が必要であると判断したため」と語る。

国内5000人、海外5000人の合計1万人という、あまりにもキリがいい数字に、数字ありきとの見方もあるが、「実際に積みあがった数字は1万人強である。必要な組織や人員数を、ゼロベースで再設計し、その結果、規模の人員削減が必要であると考えた」と語る。

収益改善が見通せない赤字事業の終息や拠点の統廃合、グループ各社の営業部門、間接部門を中心に、業務効率を徹底的に見直し、変化が激しい事業環境でも、耐性があるリーンな体質を再構築するために必要な人員規模が、1万人の削減だと説明する。

1万人の削減は、2026年度までの2年間で実施する計画だが、その多くは2025年度で推進する。

また、削減する1万人の部門別内訳は、明確にはしていないが、パナソニックホールディングスの和仁古 明グループCFOは、2025年度に計上する1300億円の構造改革費用の各セグメントの構成比と、人員削減規模はほぼ比例していると発言しており、単純計算では、くらし事業が約5割(構造改革費用内訳では620億円)、パナソニックホーディングスおよびパナソニックオペレーショナルエクセレンスを含むその他が約4割(同500億円)、インダストリーが約1割(同160億円)、コネクトが1%強(同20億円)、エナジーは対象外となる。

楠見グループCEOは、1万人の積み上げに向けた基本的な考え方を示す。

「それぞれの事業について、将来の競争力を担保し、加速するためにはどうするかといった検討を行った。そのために、どんな体制でやるのか、どこで開発や生産を行うのか、それに向けて、どうシフトするのかを検討してきた」とする。

具体的には、スマートライフ(家電)事業では、調整後営業利益率10%以上を目指すためにはなにをすべきかを検討。固定費の削減だけでなく、機能や品質を維持しながら、価格競争力を持った商品を投入するためにはどうするかといったことを視野に入れ、中国市場で学んだチャイナコストやチャイナスピードによるモノづくりを推進。効率的な販売体制の仕組みづくりにも乗り出す。

「台湾のスマートライフ事業の営業部門の1人あたりの売上高は、日本の約2倍である。言い換えれば、日本の営業部門の効率性が悪い。だからといって、単に効率性をあげることを追求するのではなく、お客様、量販店、専門店に対して、これまでと同様のサポート、支援、関係性を保ちながら効率化をあげるにはどうするかを考えなくてはならない。スマートライフ事業での人員削減は、そうした観点も踏まえながら、積み上げていったものである」とする。

また、デバイス事業では、「調整後営業利益率15%以上を目指す上で、収益性が低く、競争力の回復が難しい商材については、ベストオーナーの視点で考えるのか、終息するのか、家電と同様に中国で力をつけて、量産開発を中国にシフトするのかといったように、あらゆる角度から検討を進めている。デバイス事業全体で収益性を高めるために、課題事業をどう変革し、リカバリーするかといったことも考えていく」という。

  • スマートライフ(家電)事業では調整後営業利益率10%以上、デバイス事業では同15%以上を目指している

そして、本社部門であるパナソニックホールディングスは、各事業会社からの配賦で成り立っており、業績に対しての配賦比率が決まっている。そのため、全体の売上げが減少すると、パナソニックホールディングスの収入も減少することになる。

楠見グループCEOは、「パナソニック オートモーティブシステムズをカーブアウトしたことなども影響し、配賦費は約3割近く減少する。減少した分は、本社技術部門における技術テーマの絞り込みなどにつながる。これはテーマの選択と集中を行う機会になると考えている」とする。

テレビ事業の行方、「事業売却を決断した」という誤解

1万人は、事業会社単位という大括りでの積み上げではなく、さらに細かく事業を見た上での積み上げであることも示す。

パナソニックグループでは、5月に行ったグループ経営計画の進捗説明会において、これまでの「課題事業」や「再建事業(事業立地見極め事業)」という言葉に加えて、「赤字事業」という言葉を使った。

実は、パナソニックグループの事業構造改革の取り組みを理解する上で、これらの言葉の意味や違いを正しく知っておく必要がある。

最大の違いは、事業が指す粒度である。

パナソニックグループでは、成長が見通せず、ROIC(投資資本利益率)がWACC(加重平均資本コスト)を下回る事業を「課題事業」と定義しており、現時点では、産業デバイス事業、メカトロニクス事業、キッチンアプライアンス事業、テレビ事業の4つの事業が、それに該当している。また、「再建事業(事業立地見極め事業)」では、空質空調事業、家電事業、ハウジングソリューションズ事業が対象となる。

  • 4つの課題事業と3つの再建事業

4つの課題事業と3つの再建事業は、2025年度中に方向づけを行い、2026年度までに整理を完了することになる。楠見グループCEOは、「課題事業に対して、どういう方針で、どう変えるかということはほぼ決まっている。実行するのはこれからである」とする。

一方、赤字事業とは、課題事業や再建事業とは異なり、商品や地域など、より細分化した事業単位での赤字事業を指す。具体的には、北米テレビ事業といった単位や、車載電池工場といった単位で捉えたものだ。

パナソニックグループでは、商品ごと、地域ごと、工場ごとといった事業部未満の粒度で収支を見ることが可能だ。

その粒度で見た場合、課題事業のなかにだけに赤字事業があるのではなく、高収益事業のなかにも赤字事業が存在することがわかるという。

楠見グループCEOは、「事業部の括りのなかでは、ROICがWACCを上回ることが事業継続の前提となるが、商品単位、工場単位といったさらに細かい単位では、赤字事業を無くすことが重要になる。高収益事業においても、そのなかに赤字事業があれば、それを無くす取り組みを行っていく」とする。

高収益事業のなかに隠れた赤字事業にもメスを入れるというわけだ。

ただし、赤字事業でも例外がある。

「投資段階であり、数年後に収益化するものは、対象から外れることになる。たとえば、車載用蓄電池の生産を行なう米カンザス工場は、稼働前であり、いまは大赤字だが、稼働したら利益が出る。こうしたものは除いて考えていくことになる」としている。

では、この基本姿勢に則って、テレビ事業を見たときに、楠見グループCEOは、これをどう判断するのだろうか。

テレビ事業については、2025年2月の会見で、楠見グループCEOが「テレビ事業を売却する覚悟はある」と発言したことで、この言葉が一人歩きし、混乱を招く事態に陥った経緯がある。

この発言は、テレビ事業を含む課題事業全体として、商品や地域からの撤退や、ベストオーナーへの事業承継を含む抜本的な対策を講じ、2026年度末までには課題事業を一掃するとコメントした際に、「テレビ事業は売却を決めたわけではない」としていたものの、「売却する覚悟はある」という発言がクローズアップ。さらに、「私自身、テレビ事業に携わってきた経緯があり、センチメンタルなところもある」と発言したことで、楠見グループCEOがテレビ事業売却を決断したという誤解が生まれた。

楠見グループCEOは、テレビ事業を売却する覚悟を持つほど、強い姿勢で改革に取り組んでいるという姿勢を示したかったようだが、その趣旨はその時点では伝わりにくかった。

スマートライフ領域でテレビは重要、事業継続への意思

そこで、今回、改めて、テレビ事業に対する基本姿勢について聞いてみた。

楠見グループCEOは、「スマートライフ領域において、テレビという商材は重要であり、パナソニックらしい商品を届けながら、サービスを継続する必要性があると認識している」とし、「テレビ事業の明確な方針は、ライトアセット化することであり、そのためには、自分だけではできず、誰かに頼らなくてはならない。パートナーとの協業を一層深化させるなど、様々な可能性を検討している」と語り、「パナソニックのテレビを使っている方々は、パナソニックからの継続的なサポートを期待している。そうした信頼のもとで家電を購入してもらっている。私は、スマートライフ領域において、パナソニックらしい商品を届けながら、サービスを継続する必要性があると認識している」と、テレビ事業継続に向けた意思があることを強調した。

その上で、「仮に、日本でも、台湾でも、パナソニックの専門店からパナソニックのテレビが無くなるということになれば、大きな打撃となる。専門店にとって必要なものは残していかなくてはならない。これは、聖域に見えるかもしれないが、家電全体としての強みを維持するためのツールとしてのテレビは必要である。だが、ツールとしてのテレビが大赤字ではいけない。だからこそ、ライトアセットを行い、できることはすべてやっていく。続けなればならない地域では、ライトアセットの形にして続ける。そのためには、いままで通りのやり方ではいけないと考えている」とする。

  • テレビ事業、そして「パナソニックの家電」は今後どうなる?

パナソニックグループでは、白物家電などによるスマートライフ領域において、2028年度に調整後営業利益率で10%以上を目指す方針を打ち出している。

楠見グループCEOは、「テレビ込みで10%をやっていくにはどうするかといったことを考えている」と語る。

こうしたコメントを総合すると、テレビ事業に関しては、課題事業からの脱却に向けて、改善に取り組むなかで、日本や台湾、香港などはライトアセット化により、ビジネスを継続する一方、海外の特定地域においては、赤字事業であったり、今後の成長性が見込めなかったりということが判断されれば、そこからは撤退するといったこともありそうだ。

「適正化するべきものを適正化した上で、注力すべきところに注力する」というのが、楠見グループCEOが掲げる構造改革の基本姿勢だ。

課題事業と赤字事業という粒度の違いを捉えながら、テレビ事業を俯瞰してみると、地域ごと、商品ごとに細分化し、判断するといった動きが、これから見られることになりそうだ。