三菱電機は、2025年5月28日は、メディアや証券アナリスト、機関投資家を対象にした「IR Day 2025」を開催し、中期経営計画の進捗や、新たに掲げた「イノベーティブカンパニー」への取り組み、各BA(ビジネスエリア)における事業戦略について説明した。

三菱電機の漆間啓社長 CEOは、「2025年度からは、リスクを恐れず、新たな発想で価値を創出するイノベーティブカンパニーへの変革を進める」とし、「コンポーネントとデジタルの両輪による成長への集中投資、デジタル基盤のSerendieによるビジネスモデルの変革を通じた新たな価値の創出を追求する一方、間接費用の適正化などによる経営体質の強靭化、サステナビリティや風土改革の確実な推進を進め、リスクを取った挑戦ができる企業へと変革したい」と意欲をみせた。

  • 三菱電機 執行役社長 CEOの漆間啓氏

    三菱電機 執行役社長 CEOの漆間啓氏

ビジネスモデル、デジタル基盤、マインドセットを変える

三菱電機では、イノベーティブカンパニーへの変革を実現するために、顧客へのコンポーネント提供を起点に、そこから得られるデータを活用したサービスの創出や、価値提供先の拡大、さらにはコンポーネントの強化を実現する「ビジネスモデル変革」と、グローバルな視点で社外パートナーと連携し、クラウドや生成AIなどの最新技術を活用する「デジタル基盤強化」、課題を迅速に解決するアジャイル開発の加速に向けて、技術とマインドセットを備えたDX人財の獲得と育成を行う「マインドセット改革」の3点に取り組む考えも示した。

2025年度を最終年度とする中期経営計画は、売上高5兆円、営業利益率8.0%、ROE9.0%、キャッシュジェネレーションが5年間3兆3000億円を目標に掲げているが、2025年度の見通しは、売上高は5兆4000億円、営業利益率は8.0%としており、計画達成に意欲をみせる。営業利益率8%とは過去最高となる。だが、ROEおよびキャッシュジェネレーションは、FAシステム事業の停滞などが影響して計画を下回る見通しだ。

  • 2025年度を最終年度とする中期経営計画の進捗

  • ROEおよびキャッシュジェネレーションは、FAシステム事業の停滞などが影響して計画を下回る見通し

主要事業の取り組みについては、ビルシステム事業では昇降機の新設から保守、リニューアルまで一貫した事業運営体制を構築し、安定収益基盤を確立。防衛費の増額に伴い、防衛事業での受注が拡大しており、それに対応した増産体制を構築すべく、人員や土地のリソースシフトを進めているという。

さらに、課題事業の見極めや、パートナー戦略の推進、ノンコアアセットの圧縮を進めていることも示した。

一方で、自動車機器事業の構造改革では、分社化によるスピーディーな事業運営体制の構築を進めており、今後も、経営効率の向上と事業ポートフォリオ戦略を推進するという。「自動車機器事業では、収益改善に向けた取り組みを推進する一方で、あらゆるシナリオの検討を通じて、事業ポートフォリオ上の見極めも並行して進めていく」とした。

さらに、空調事業においては、成長が鈍化している欧州ATW(Air To Water)では生産増強に向けた投資時期の見直しを行いながらも、成長が著しいIT Cooling事業の強化を推進。FAシステム事業では、市況低迷や競争激化によって厳しい事業環境にあることから、筋肉質な経営体質への転換や事業ポートフォリオの変革など、構造改革を推進し、成長軌道への早期回復を目指す。

FAシステム事業の構造改革では、すでに固定費の削減や営業改革による課題解決型組織への転換、2025年4月に中国に設置した開発から販売までを行う新統括会社によって、中国での自律経営体制の構築などに取り組んでいる。

漆間社長CEOは、「これらの構造改革により筋肉質な経営体質に転換するとともに、デジタルソリューションや重点成長事業への経営資源の集中投下に加え、その他事業についてはパートナー連携や事業譲渡を含めた抜本的な対策を進める」と述べた。

三菱電機では、重点成長事業、レジリエント事業、価値再獲得事業に分類し、それぞれに施策を打っている。

  • 各事業を重点成長事業、レジリエント事業、価値再獲得事業に分類し、それぞれに施策を打っている

重点成長事業は、空調冷熱システム、ビルシステム、パワーデバイス、FA制御システムが含まれており、2025年度の売上高は2兆5000億円、営業利益率は9.3%を見込んでいる。「重点投資を実行することで、着実に成長してきた領域である。だが、FA制御システムは、2025年度は落ち込んでおり、FA制御システムは構造改革を徹底していくことになる」とした。

レジリエント事業では、防衛事業へのリソースシフトを図ることで、2025年度の売上高は1兆2000億円、営業利益率は9.8%へと成長させる。「防衛事業を重点成長事業への位置づけの見直しを検討していく」とした。

価値再獲得事業では、自動車機器事業の電動化事業などを新たな位置づけたことで、2025年度の売上高が1兆9000億円へと増加。だが、営業利益率は事業の見極めや収益力の強化によって改善し、2025年度は3.3%を目指す。「価値再獲得事業のなかにある宇宙事業は収益改善が進んでおり、レジリエント事業並みの収益率に高めていくことを目指す」とも語った。

なお、三菱電機では、事業の見極めについては、2024年度までに5000億円規模の事業終息の意思決定を行っており、そのうち2000億円については終息や縮減を実行しているという。残りの3000億円は、原則として2027年度中に終息する計画だ。また、2025年度中には、新たに8000億円規模の事業の終息および継続を判断することになる。

漆間社長CEOは、「8000億円のなかには、自動車機器事業、FAシステム事業、インフラ関連事業が含まれる。三菱電機が持つ9つの事業をそれぞれに最適化していくという観点から判断し、撤退や売却、協業、継続を決めていく。『循環型デジタル・エンジニアリング企業』という三菱電機が目指す、あるべき姿に向けて発展する際に、必要な事業なのか、社会の趨勢にあわせて価値を増大させることができる事業なのか、最適なパートナーに渡した方が最適ではないのかといった観点からも見ていく。必要な事業に資源を集中していきたい。コア事業はなにかを把握しながらも、枠を大きく捉え、一層踏み込んだ形で、事業の見極めを進める」と述べた。

  • 三菱電機のセグメント別の業績見通し

今後の成長戦略として、新たなM&A投資枠を設定し、2027年度までの3年間で1兆円を計画。インダストリーおよびHVAC、防衛システムといった既存事業でのM&Aによる強化、エネルギーマネジメント分野などにおいて、デジタルを活用した事業間でのシナジー創出を実現するM&A、データ収集や分析、運用最適、予知保全といったAIおよびデジタル領域におけるM&Aも進める。

また、収益性改善では、2025年度に営業利益率で2ポイントの改善を見込む。内訳は、不採算事業の終息で1ポイント、間接費用の削減などで1ポイントを見込む。具体的には、不採算事業の終息の確実な推進、グローバルサプライチェーン強化や資材部品共通化、集中購買の推進による「事業体質の強化」に加えて、DXおよびAIの活用やスタッフ機能のCoE化による徹底的な業務の削減と効率向上、機能や地域を軸に関係会社を統廃合し、3分の1に削減する「間接費用の最適化」を進める。生まれたリソースは、配置転換を含めて高度な業務に集中させる。

さらに、資本適正化では、自己株式取得および配当により、総還元性向50%以上を継続。DEレシオ0.3倍を基準に財務レバレッジを活用し、M&A投資枠を確保する。

漆間社長CEOは、「三菱電機は、ありたい姿を描いており、それに向けた事業ポートフォリオをきちっと整理したい。組み換えも視野に入れながらやっていく。筋肉質な事業体質に変えていくことを目指す」としたほか、「三菱電機の強みであるコンポーネントに、Serendieによるデジタルを掛け合わせることで成長を進めたい。とくに既存事業において、Serendieをしっかりと活用していくという方向性に抜本的に転換していく。従来からの積み上げではなく、非連続な成長につながるM&Aも検討していく。ROICを活用したBS経営を推進し、ROE10%の早期達成を目指す」との方針を示した。また、営業利益率10%の達成に向けた意欲も示した。

今回の説明会のなかでは、デジタル基盤である「Serendie」について、時間を割くとともに、各BA(ビジネスエリア)の責任者からも、Serendieへの取り組みに関して言及があったのが印象的だった。

  • デジタル基盤「Serendie」によるビジネスモデル変革のイメージ

漆間社長CEOは、「三菱電機の強みであるコンポーネントに、Serendieによるデジタルを掛け合わせることで、成長戦略を推進することになる。とくに、既存事業に対しては、Serendieをしっかりと活用する方向へと抜本的に転換していく」と、Serendieを成長戦略の柱に据える姿勢を改めて強調した。

Serendieは、コンポーネントから集めたデータを活用して顧客の課題を見つけ、解決策を提供するデータ活用ソリューション事業と、収集したデータをもとにコンポーネントを進化させるデータ収集コンポーネント事業で構成しており、2030年度までに、売上高1兆1000億円、営業利益率23%を目標にしている。また、2025年度のSerendieの売上高として6800億円を見込み、そのうち、データ活用ソリューション事業で約3000億円、データ収集コンポーネント事業で約3800億円を見込んでいることも明らかにした。

三菱電機 専務執行役 CDOの武田聡氏は、「三菱電機の強みはコンポーネントにあり、コンポーネントから得られるデータを分析して、お客様とともに潜在的な課題を見つけ出し、、課題解決のためのソリューションやサービスを創出して提供するのがSerendieの特徴になる。また、この得られた知見をコンポーネントにフィードバックし、機能強化や新機能の追加を行うことができる」と述べた。

  • 三菱電機 専務執行役 CDOの武田聡氏

具体的な事例として、熱関連トータルソリューションでは、三菱電機が提供している空調機器や給湯機器などのコンポーネントと、他社が提供するコンポーネントから、エネルギーの運用データを収集するとともに分析を行い、三菱電機のエネルギーマネジメントシステムによる需要予測をもとに、設備全体を考慮した最適な省エネ運転を実現できるようになるという。また、鉄道事業に関わるエネルギーの最適化では、鉄道事業者に提供しているモーターやインバータなどの車上機器を活用。車両や変電所、駅設備のデータを活用して、鉄道に関わるエネルギーを最適に利用。ブレーキ時に発生する回生エネルギーを見える化し、有効活用することで、状況に則した設備導入や省エネ運用を支援することができるという。

  • 熱関連トータルソリューションの例

  • 鉄道事業に関わるエネルギーの最適化の例

さらに、各BA(ビジネスエリア)におけるSerendieへの取り組みでは、インフラBAが、2025年度からは、狭域自動運転などのモビリティサービスを実用化。E&F(Energy & Facility)サービスにおけるエネルギーマネジメントの提案を進めるという。

インダストリー・モビリティBAでは、新たな成長ドライバーとしてデジタルソリューションへの投資を拡大し、FAシステム事業を牽引する事業に位置づけることを標榜。ソフトウェアディファインド化したコントローラを軸に、データドリブンによる生産革新とサステナブルな工場の実現を目指すという。

ライフBAでは、Serendie関連事業で、2030年度の売上高で2500億円以上を目指す計画を公表。ビルシステム事業と空調・家電事業を連携させ、スマートビルをはじめとしたビル全体のマネジメントシステムを提供するという。

また、三菱電機では、2025年4月に、デジタルイノベーション事業本部を新設し、DXやAI領域における最新技術を活用して、事業や社内業務を変革させる部門と、情報システムサービス事業を担うグループ会社3社を統合した三菱電機デジタルイノベーションを同事業本部のなかに集約。分散していた4000人のDX人財を集約し、Serendie関連事業への対応力強化と、社内業務のプロセス改革に取り組んでいることも紹介した。なお、三菱電機では、Serendieの事業成長を支えるために、2030年度までにDX人財を2万人に増員する計画を発表しており、それに向けた採用や各種育成プログラムを通じて、リスキリングやスキル向上の取り組みを行っていることも示した。

  • デジタル基盤を強化。分散していた4000人のDX人財を集約し、Serendie関連事業への対応力強化と、社内業務のプロセス改革に取り組んでいる

さらに、2025年1月に、DXおよびオープンイノベーションの拠点として、Serendie Street Yokohamaを神奈川県横浜市に開設したのに続き、2025年5月には、米ボストンにSerendie Street Bostonを開設。武田CDOは、「共創を進める場として活用しており、スタートアップ企業や大学と連携しながら、最新技術の獲得や新たなサービス創出につなげる。VCファンドへの投資強化や現地体制の強化、インキュベーションプログラムを活用した新事業の創出にも取り組む」としている。

  • Serendie Street Yokohamaを神奈川県横浜市に開設したのに続き、2025年5月には、米ボストンにSerendie Street Bostonを開設

一方、各BA(ビジネスエリア)における各事業への取り組みについても、それぞれのBAオーナーが説明した。

インフラBAの取り組み

社会システム事業、エネルギーシステム事業、防衛・宇宙システム事業で構成するインフラBAにおいては、防衛システム事業やSerendieによるソリューション事業、データセンター事業、脱炭素コンポーネント事業への投資を集中させる考えをした。

三菱電機 常務執行役 インフラBAオーナーの根来秀人氏は、「インフラBAは、事業拡大の局面にあるが、需要増加に対して、単純に体格を大きくするのではなく、アセットライト化やDXおよびAIの適用などによって、生産性や収益性向上を同時に追求していく」との姿勢を示した。

  • 三菱電機 常務執行役 インフラBAオーナーの根来秀人氏

インフラBAは、2025年度の売上高が1兆3100億円、営業利益率8.2%を計画。「2025年度に対応した受注はおおむね充足している。納期変動のリスクはあるものの、達成可能な目標である」と自信をみせ、「2030年度に向けて、事業本部を横断したソリューション事業や、データセンター事業においては、インフラBAが主体となって推進し、全社シナジーを発揮し、事業を成長させることになる。また、自社生産志向を転換し、協業やM&Aを進めながら、生産体制の最適化を推進する」とした。

  • インフラBAの業績見通し

  • インフラBAの事業概要

また、防衛・宇宙システム事業では、「防衛予算の増加に対応するとともに、技術や実績を生かしたグローバル展開を進めていく。センサーから迎撃ミサイルまでの防空ミサイル防衛能力に貢献できる国内唯一の企業である。この強みを生かして、日本の安全保障や、防衛産業基盤の強化に貢献したい。防衛システムのグローバル展開強化に向けた国際共同開発や、グローバルサプライチェーンの参画も進めている。画像サービスの提供などのサービス事業の展開や、情報戦や心理戦を含む認知領域戦支援システムといった新領域にも挑戦していく」と述べた。

  • 防衛・宇宙システム事業の成長戦略

そのほか、ファシリティ、モビリティ、エネルギーによる基幹事業では、生産能力を増強。保守ビジネスにおけるさらなる収益力向上に加えて、ソリューション事業と連動したコンポーネント強化にも注力するという。

投資戦略については、これまでの国内市場や既存市場を中心とした投資が中心になっていたが、成長性や効率を重視した投資を進め、協業やM&Aも活用しながら、三菱電機のケイパビリティを補完および強化し、成長を加速するという。

インダストリー・モビリティBAの取り組み

インダストリー・モビリティBAでは、2025年度の売上高が1兆5700億円、営業利益率6.3%を見込んでいる。そのうち、モビリティ事業(自動車機器事業)は売上高が8500億円、営業利益率は5.1%、インダストリー事業(FAシステム事業)は売上高が7200億円、営業利益率で7.8%を計画している。

  • インダストリー・モビリティBAの業績見通し

  • インダストリー・モビリティBAの事業概要

モビリティ事業では、徹底した経営効率の向上により、稼ぐ力を最大化する一方で、あらゆるシナリオの検討を通じて、自動車機器事業の三菱電機における事業ポートフォリオ上の位置づけを見極める考えを示した。

三菱電機 専務執行役 インダストリー・モビリティBAオーナーの加賀邦彦氏は、「徹底した経営効率の向上と、事業ポートフォリオ戦略の推進により、質の高い成長を実現する。パワートレイン領域は、足元でのEV需要の鈍化など、電動化市場の不確実性に対してリスク分散を図るべく、電動化事業とICE事業とのバランス運営で対応していく。また、SDV領域では、2024年12月に資本業務提携を発表したSeeing Machinesとのシナジーを最大化し、DMS(ドライバーマネジメントシステム)における事業拡大と業界標準に向けた取り組みを進める。EPS(電動パワーステアリング製品)では、ソフトウェアによる付加価値創造を追求し、新たに求められる機能安全、サイバーセキュリティ、ステアバイワイヤなどの製品要件を、標準化したソフトウェアによって実現する」と語った。

  • 三菱電機 専務執行役 インダストリー・モビリティBAオーナーの加賀邦彦氏

また、インダストリー事業では、人員の最適化とコスト削減、間接業務削減により、リーンな経営体質を構築。販売および開発体制の刷新により、コアコンポーネントの事業競争力を強化し、売上再拡大と収益性を改善するほか、新たな成長ドライバーとしてデジタルソリューションへの投資を拡大する考えを示した。これにより、FAシステム事業を再成長させるという。

「FAシステム事業は、2022年度に過去最高の業績を達成したが、その後、大きく悪化している。原因は、競合他社の台頭によるシェアダウンや、中国ローカルメーカーの急成長、EVやバッテリーなどの成長業種の需要減少である。事業としての価値を再び取り戻すために、リーンな経営体質構築、販売および開発体制の刷新、事業ポートフォリオ変革による3つの柱による構造改革に取り組む」とした。

  • コアコンポーネントの事業競争力を強化し、売上再拡大と収益性を改善するほか、新たな成長ドライバーとしてデジタルソリューションへの投資を拡大する考え

グローバルでの拠点および組織のスリム化による人員最適化、機種系列削減による開発コスト削減、ERPの刷新と同期した間接業務の削減などにより、現在の事業体格に見合わないコスト構造の抜本的見直しを図る。また、営業改革による課題解決型組織への転換、中国での現地開発力強化による事業競争力強化、デジタルソリューションとコアコンポーネントを成長ドライバーとした経営資源の集中や、撤退や売却による成長領域へのリソースシフトおよびベストオーナーの探索を図る。

「痛みを伴う改革になるが、今後の再成長に向けて、これらの構造改革を成し遂げる」と、改革に強い意思をみせた。

また、FAシステム事業においては、デジタルソリューションの強化を図り、2030年度には、FAシステム事業を牽引する位置づけにする考えを示した。まずは、ソフトウェアディファインド化したコントローラから収集したデータを見える化および分析するツールをSaaSとして提供し、システムを柔軟に拡張するとともに、AIを活用して生産現場の自律最適制御を実現することを目指すという。

ライフBAの取り組み

ライフBAでは、ビルシステム事業と空調・家電事業で構成。2025年度の業績見通しは、売上高が2兆1600億円、営業利益率が8.5%を計画。三菱電機 常務執行役 ライフBAオーナーの尋木保行氏は、「あらゆる生活空間において、快適で、安全安心な環境を創造するソリューションプロバイダとなることを目指し、ビルシステム事業と空調・家電事業のシナジーを追求する」と述べた。

  • ライフBAの業績見通し

  • ライフBAの事業概要

ビルシステム事業では、昇降機を中心とした更なるストックビジネスの拡大に向け、オーガニックおよびM&Aの双方での成長投資を継続。グローバルトップクラスのプレーヤーを目指す方針を示した。

三菱電機 常務執行役 ライフBAオーナーの尋木保行氏は、「先進国を中心とした保守のマルチブランド対応、新興国を中心としたボリュームゾーンの展開による新設事業の拡大を進める。2030年度にはグローバルで150万台の昇降機の保守獲得を目指す。この事業の強化ではM&Aも活用していく」と述べた。

  • 三菱電機 常務執行役 ライフBAオーナーの尋木保行氏

また、空調・家電事業では、HVAC&R(暖房/給湯、換気送風、空調、冷凍冷蔵機器)分野でのグローバルトップブランドの地位獲得に向けて、海外市場における事業構造の強化に注力。事業拡大とともに、カーボンニュートラルとウェルビーイングの実現に貢献するための施策を展開する。将来に向けて、欧米市場だけでなく、インド市場への取り組みも強化するという。

「グローバルでの冷媒規制対応や、データセンター向けを中心とした水冷方式空調の拡大にも対応する。とくに冷媒規制に対応したモノづくりは着実に進めており、三菱電機の強みである直膨式空調のさらなる強化を図り、新たな成長の柱として、データセンター向けのIT Coolingなどのアプライド製品の強化を図る。アプライド事業は2030年度には売上高で2500億円以上を目指す」と述べた。

2025年度までの5年間の成長投資は、その前の5年間に比べて75%増となる7000億円に達しており、それにあわせて、営業利益率も確実に改善しているという。今後も、顧客基盤の拡大やミッシングパーツの獲得に向けてM&Aを継続的に推進する考えを示している。

  • 2025年度までの5年間の成長投資は、その前の5年間に比べて75%増となる7000億円に

半導体・デバイス事業本部の取り組み

半導体・デバイス事業本部では、2025年度の業績見通しとして、売上高が2900億円、営業利益率10.7%を計画。今回の説明では、市況変化を踏まえて、キャピタルアロケーションの一部見直しを発表した。具体的には、パワーデバイス事業への投資を抑制、延伸する一方で、データセンター向けなどが好調な光デバイス事業へのシフトを図り、安定した収益基盤を維持する考えを示した。

  • 半導体・デバイス事業の業績見通し

  • 半導体・デバイス事業の事業概要

パワーデバイス事業では、2025年度までの5年間で約2600億円の成長投資を計画していたが、これを2500億円に100億円減額しし、2026年度以降に延伸するが、8インチウェハーに対応したSiCの新工場棟は計画通りに立ち上げる。また、2030年度までの5年間の成長投資では従来は3000億円規模を計画していたが、能力増強に伴う設備投資を延伸し、市況に応じて投資時期を見極めるという。

三菱電機 上席執行役員 半導体・デバイス事業本部長の竹見政義氏は、「2024年度は2年連続で過去最高益を達成したが、2025年度は償却負担の増加や、為替想定の見直しにより、営業利益率とROICは低下する。だが、EBITDAマージンは20%台前半を維持しており、改善基調を持続しており、収益力強化と事業成長を目指す」とし、「熊本県泗水地区の工場の拡張を延伸する一方、好調な光デバイスの能力増強に向けた投資を追加し、事業の拡大を図っていく」とした。

  • 三菱電機 上席執行役員 半導体・デバイス事業本部長の竹見政義氏

  • 熊本県泗水地区の工場の拡張を延伸する一方、好調な光デバイスの能力増強に向けた投資を追加し、事業の拡大を図っていく

半導体・デバイス事業本部は、カーボンニュートラルの実現に貢献するパワーデバイス事業と、安心安全、快適な暮らしを支える高周波・光デバイス事業で構成。GXおよびDXに不可欠なキーデバイスと位置づけている。

半導体・デバイス事業本部のなかで、8割の構成比を占めるパワーデバイス事業は、超長期的には脱炭素化に向けて市場が拡大すると予測しており、世界2位のシェアを持つパワーモジュール市場の拡大や、三菱電機の強みであるSiCパワーモジュールの応用分野の拡大が期待されている。だが、直近ではバッテリーEVへのシフトの鈍化、民生および産業用機器の需要停滞が影響し、市況を踏まえた収益性改善が求められている。三菱電機では、急成長するHVDC市場向けには、同社が得意な大容量帯を強化し、パワーデバイス事業の収益力を強化する考えを示した。また、低損失、高耐圧、大電流のIGBTを先行開発し、2026年度には生産能力を2023年度比で1.5倍に増強する考えも示した。

  • HVDC市場向けの事業拡大を加速する

一方で、2割の事業構成比となる高周波・光デバイス事業では、生成AI普及に伴うデータセンター需要が急拡大しており、三菱電機がトップシェアを持つデータセンター向け光デバイスの事業拡大が見込まれている。

  • データセンター向け光デバイス事業の拡大を見込む

「データセンター内では、多数のサーバーやネットワーク機器が光ファイバーケーブルで接続されており、光デバイスによって、高速、大容量処理が実現できる。三菱電機は、超高速動作に優れるEMLデバイスを提供しており、技術トレンドをリードしている。業界トップ企業と連携し、ニーズに最適化した先進的なEMLデバイスを開発し、生産能力の増強にも取り組む」と述べた。また、パワーデバイス事業におけるCoherentとの連携成果の刈り取りにも取り組むとした。