パナソニック ホールディングスの小川立夫グループCTOは、合同取材に応じ、2026年3月末までに、研究開発案件の見極めを行う考えを示した。パナソニックグループは、1万人の人員削減を含むグループ経営改革に取り組んでおり、そのなかに含まれる「本社本部改革」では、技術テーマの選択と集中を行うことを明らかにしている。

  • パナソニック ホールディングス 執行役員・グループCTOの小川立夫氏

    パナソニック ホールディングス 執行役員・グループCTOの小川立夫氏

小川グループCTOは、「シンプルに分類すれば、止めるもの、継続するが投資を減らすもの、現状維持のもの、逆に投資を強める案件もある。だが、現実には、いくつかの研究開発プロジェクトが組み合わさった技術分野が多い。研究ポートフォリオや投資の見直しは、毎年、行っていることではあるが、今回の場合は、全体の規模を縮小しながら見直すことになる。2026年度がスタートする2026年4月までには、案件の見極めが終わることになる。また、2026年1月からは、パナソニックグループ全体でバーチャル組織をスタートするが、そこに間に合うものについては、それまでに方向付けを行いたい」と述べた。

パナソニックホールディングス技術部門は、2024年7月に、「技術未来ビジョン」を策定し、「一人ひとりの選択が、自然に思いやりへとつながる社会」の実現に向けた未来構想と、関連する技術戦略を発表している。

「技術未来ビジョンで示した未来の姿そのものは変わらない。だが、そこへの道筋や登り方を変える必要がある」とし、「引き続き、パナソニックホールディングスでの技術開発を進めていくが、研究開発リソースは、できるだけビジョンに関係するところに寄せていきながら、今後は、どんなビジネス構造によって、これを実現していくのかといった部分での解像度を高めていくことになる」と語る。

  • パナソニックホールディングス技術部門が策定した「技術未来ビジョン」

本社部門では、「リーン」な運営を実現するために、一定規模に縮小する統一的な目標があり、そのなかで研究開発予算を確保していくことになるという。

「研究開発部門も聖域とは考えず、本社部門の削減目標と同じ水準で、予算を縮小することになる」とし、「研究開発テーマは、絶対にやらなくてはならないもの、マストではないがやっておいた方がいいもの、お役立ちを考えれば、できればやったほうがいいものなどがある。マストなものに対しては、意味のあるリソース量を投下しながら、継続していくことになる。また、これまでは、よかれと思ってやっていたが、あえて一度止めてみる、あるいは事業会社に渡すといったことも考えていく。一方で、技術未来ビジョンで目指していた主要プロジェクトに対しては、投資を強化することも考えている。大胆に見直しを行うなかで、やるべきことをしっかりとやっていく」と述べた。

強化すべき領域としては、AIを活用したビジネスへの変革を推進する企業成長イニシアティブと位置づける「Panasonic GO」や、環境コンセプトである「Panasonic GREEN IMPACT」への取り組みをあげた。

一方、2024年7月に打ち出した「技術未来ビジョン」の基本的な考え方や、実現したい未来像については、「共感する」といった声が多かったものの、どういうビジネスで、いつ実現するのかといったことが見えにくいといった指摘があったという。

技術未来ビジョンでは、「資源価値最大化(エネルギー・モノ・食)」を掲げ、「日々の生活の中にグリーンで安心安価なエネルギー・資源が“めぐる”」を実現するとともに、「有意義な時間創出」による「日々の時間の使い方の中に生きがいが“めぐる”」、「自分らしさと人との寛容な関係性」による「心地よい心身の状態でまわりの人との関係性の中に思いやりが“めぐる”」という世界の実現を目指すことを掲げ、機能性材料やエネルギーデバイス、AI、CPS、センシング、ロボティクス、通信・セキュリティ、バイオテクノロジー、ひとの理解といった各種テクノロジーを組み合わせていくことになるという。

  • 「技術未来ビジョン」の実現したいものと、その要素技術

「技術未来ビジョンを発信したことによって、他社から共創の提案があったり、議論する場が生まれたりといったことが起きている。ビジョンを発表した意義はあった」と述べた。

パナソニックホールディングス技術部門では、サステナビリティ領域とウェルビーイング領域において、技術開発を進めている。

サステナビリティ領域の成果としては、大阪・関西万博のパソナニックバピリオンにも展示している建材一体型ペロブスカイト太陽電池を、大阪・守口市の同社拠点において、試作ラインを稼働させており、ガラス建材として実用サイズとなる1.0×1.8mを実現している例をあげた。

  • 大阪・関西万博のパソナニックバピリオンにも展示している建材一体型ペロブスカイト太陽電池

「長年のノウハウを活用した産業用インクジェット装置により、ガラスに高機能の膜を均一に塗布することができる。建材一体型ペロブスカイト太陽電池をテストしたいというお客様も多く、今後は、設計事務所や不動産会社、ゼネコンとの連携、ガラスやサッシを扱うメーカーとの連携、サイズの拡大や施工性の改善などにも取り組んでいくことになる。進捗にあわせてどこに投資をしていくかといったことも考えていく」とした。

  • 開発したインクジェット装置のラインヘッドユニットs

また、植物成長刺激剤「ノビテク」では、住友化学との連携により、農業生産場での評価を開始。今後は販売活動につなげるほか、高濃度セルロールファイバー成形材料「Kinari」では、プラスチック材料からの代替を提案。海洋生分解性のセルロースファイバー成形材料を新たに開発し、2027年に海洋生分解性ペレットの販売を開始する見込みだ。

  • 植物成長刺激剤「ノビテク」

ウェルビーイング領域では、AIへの取り組みを加速。「工場の現場、オフィスの現場、お客様の現場に持ち込んで様々な取り組みを行っている」とし、庫内を確認することができるAIカメラ搭載冷蔵庫では、庫内食材の認識精度を向上。そのほか、日本語特化型LLMをストックマークとともに開発したり、認識技術の高度化にも着手したりといった取り組みを進めいる。また、「松下幸之助再現AI」を開発し、創業式典では社員に対して、松下幸之助氏の声でメッセージを出すといった活用も行っているという。

  • 庫内を確認することができるAIカメラ搭載冷蔵庫

  • 松下幸之助再現AI

さらに、「AI関連のトップカンファレンスにおいては、10件以上の研究成果の採択や受賞がある」との成果を示した。

また、京都大学iPS細胞研究所と連携して、iPS細胞の分化、培養を自動化する装置の開発を進めていることも示した。

「注力している研究開発案件については、CEATEC 2024、CES 2025、そして、大阪・関西万博といった機会を通じて、多くの人の目に触れることができたと考えている。露出することでコメントを得たり、協業のきっかけにつながったりしている。研究員のモチベーションも高まっている」と述べた。

2025年度の取り組みでは、環境貢献を推進。サーキュラーエコノミーの付加価値向上に向けて、分解を簡単にし、再利用することを前提としたデザインを行う「易分解設計(DfCE)」や、ブロッチクチェーン技術を用いたトレーサビリティ認証システムである「Tracephere」のほか、ネイチャーポジティブへの貢献として、自然共生サイトを活用した学術研究の推進、海藻養殖スタートアップであるシーベジタブルと連携したロボットおよびIoT技術の活用などを推進していくという。

  • 再利用することを前提としたデザインを行う易分解設計(DfCE)

  • 海藻養殖スタートアップであるシーベジタブルとの連携成果として、パナソニックホールディングスの社食では海藻メニューを提供した

また、AIに関しては、健康、安全、快適による「くらし」を支える技術基盤として、同社が取り組む「Responsible AI」と「Scalable AI」を拡充させ、全社AIソリューションへの適用を推進。「Panasonic GO」における技術の中核部分を開発しながら、ビジネスへの展開を図ることになるという。

  • 今年度、グループ技術部門として取り組むこと。「AI」が特に重要となりそうだs

パナソニックグループでは、2035年度までに、AIを活用したハードウェアやソフトウェア、ソリューションを、グループ売上高全体の約30%の規模にまで拡大することを目標に掲げている。

「これが速いのか、遅いのか、意欲的なのか、そうではないのか――。これからの勝負になる。時間軸や具体的なビジネスの構成は、これから考えていくことになる」と前置きし、「パナソニックグループは、くらしの領域において、多様なお客様と接点を持ち、様々なデバイスや家電、電材や建材などを提供している。そこに、パナソニックグループの存在意義がある。コングロマリットであることをプレミアムにしていくためのキーとなるのがデータの活用であり、AIの活用である。ばらばらでやっていた事業をデータでつなぎ、グループとしての価値を高め、だからこそパナソニックグループに頼みたいといってもらえるようにしていく必要がある。これでできなかったら、パナソニックグループが無くなってしまうという危機感がある」とコメント。さらに、「AIは、1丁目1番地の取り組みになる。Panasonic GOは、研究開発部門だけでなく、企画、商品開発、営業、製造を巻き込み、縦横でつなぐ取り組みであり、パナソニックグループが、新たな会社の形に生まれ変わっていくための象徴的なイニシアティブである」と位置づけた。

さらに、各種セキュリティ監視システムの高性能化を実現することで、実証や採用が広がっていることにも言及。「従来の生産設備は、工場内に留まったネットワーク接続であったが、最近では外とつながり、ネットワークで監視するといった用途が増えている。この製品はネットに接続しても大丈夫かといったところから検証を行っていたが、工場のセキュリティやオフィスのセキュリティ、ITシステムのセキュティを統括している組織と一緒になりながら、自らの実証を通じて、ビルの監視や自動車のセキュリティを対象にしたビジネスへと広げていく」と述べた。