日本IBMは、2024年1月30日、東京・虎ノ門の虎ノ門ヒルズステーションタワーに、本社を移転した。また、最新テクノロジーを体感できる「IBM Innovation Studio」も箱崎から移転した。
虎ノ門新本社は、東京メトロ日比谷線の虎ノ門ヒルズ駅に直結している虎ノ門ヒルズステーションタワーの31階および32階の2フロアを使用。本社機能と共創の場としての役割を担うことになる。
日本IBMの山口明夫社長は、「日本の企業のイノベーションの推進が真に求められており、そのためには、テクノロジーを活用する必要がある。日本IBMは、その変革に役立ちたいと考えている。お客様やパートナー、社員が、輝いて議論できる場所が重要であり、そのための場所を用意した」と、虎ノ門新本社を開設した狙いを語る。
議論やイノベーションが起き、アイデアが生まれる拠点に
これまでの箱崎本社は、箱崎事業所と呼び、25フロアのうち15フロアを返却し、今後は上層階の10フロアを利用することになる。また、丸の内の永楽ビルディングのオフィスも継続的に利用。虎ノ門新本社を含めた3カ所を都内の主要拠点に位置づける。
日本IBMの山口社長は、「日本中から人が集まりやすいところに拠点を配置し、物理的に集まったり、バーチャルで結んで仕事ができたりする拠点になる。議論やイノベーションが起き、アイデアが生まれるような拠点にしていきたい」と語る一方、「社内の縦の階層が関係なく利用でき、研究開発部門やコンサルティング部門、テクノロジー部門といった横のつながりにも壁がなく、議論ができる環境を作りたいという思いが、虎ノ門新本社には込められている」とも述べた。
箱崎旧本社には社長室があったが、虎ノ門新本社では、日本IBMの歴史のなかで初めて社長室を廃止することになる。それも縦横の壁を排除したいと考える山口社長が掲げる虎ノ門新本社の目的に沿ったものだといえる。
また、都内の主要3拠点に加えて、静岡県伊豆市の天城ホームステッドも、顧客との体験および共創を行うイノベーションゾーンに位置づける。また、都内では、主要3拠点とは別に、新宿、渋谷、品川などにサテライトオフィスを設置し、柔軟に働く場所を選択して業務ができるようにするほか、それ以外にも、時間貸しオフィス(リモートワークスペース)と契約し、社員が働ける環境を幅広く整備する。加えて、自宅からの勤務も継続的に可能にする。
主要3拠点とサテライトオフィス、リモートワークスペース、在宅勤務の4つのカテゴリーから仕事ができる環境を選択。「最も働きやすく、結果が出しやすい場所を選び、時間の使い方も考えながら働くことができる。仕事によっては3週間連続で出社した方がいい場合もあるし、2週間自宅に籠った方が、パフォーマンスが上がる場合もある。仕事の内容や仕事のフェーズによって、働く場所を自由に選択し、最大限のパフォーマンスをあげてもらうことになる。その選択肢のひとつの場所が虎ノ門本社になる」とした。
一方、日本IBM 執行役員トランスフォーメーション&オペレーションズ担当の小野健二氏は、日本IBMの本社機能の考え方について説明する。
「経理、財務、人事、総務、営業本部、経営企画などの本社機能は、オンデマンドワークスタイルの浸透やデジタル変革の推進によって、すでに、1カ所に集まって仕事をすることが必要ないバーチャルな組織として、オペレーションができるようになっている。誰もが最も生産性が高く、自分の価値が発揮できる場所を、自ら選んで働くことが可能になっている」と前置きし、「日本IBMでは、本社の意味合いを企業の枠を超えた共創やイノベーションの促進、社員のより柔軟な働き方など、日本IBMが目指す姿を実現する場と捉えている。虎ノ門本社は、それらを実現するための最新の設備を備えている場所になる」とする。
つまり、本社といえども、本社機能に関連する部門の社員が出社する場所ではなく、柔軟性が高い働き方を選択できる環境を維持しながら、本社機能を果たすのに最適な機能を備えた拠点と位置づけているのだ。
「顧客やパートナー、社員にとって、アクセスのしやすさなどから虎ノ門が最適と考えた。虎ノ門本社は2フロアであり、大きくはないが、数多くの共創が行われ、無限の価値が広がる場所になる」と虎ノ門新本社の役割を示した。
IBMでは、オフィスの存在を「IBMグループが目指す姿を実現するための手段のひとつ」と定義している。それは、長年に渡るオフィスづくりの試行錯誤の結果、構築されてきた考え方ともいえる。
実際、日本IBMでは、1987年に、ビジネスリーダーを対象に、自宅に「ホーム・ターミナル」と呼ぶ専用端末を整備し、テレワークを開始した経緯がある。いまから37年前のことだ。2000年には「e-ワーク制度」として全社員にテレワークを展開。オフィス以外の場所で勤務しながら、電話会議やWeb会議を日常的に活用する環境を整えた。
日本IBMの小野執行役員は、「日本IBMでは、グローバルのオフィス戦略とも連携しながら、その時代ごとに求められるオフィスへとトランスフォーメーションしてきた。70年代や80年代には個室型や教室型、90年代にはモバイル併用型オフィスを取り入れ、2000年代にはワークスタイルの変革にあわせて、アジャイル型に進化してきた。いまは働き方改革やデジタル変革を背景にしたオフィスづくりを進めており、虎ノ門新本社は、フレキシブルワークプレイスを実現するオフィスとして開設した」と位置づける。
また、「コロナ禍を前後し、デジタル変革が飛躍的に進展したことで、価値観の変化や、イノベーションの在り方も変化し、働き方や行動様式の変化にもつながっている」と指摘し、「過去からの慣習を前提としていた働き方から、自分やチームが主体となって最適解を求める働き方へと変化した。また、働く場所はコロナ禍では在宅勤務中心の分散型となっていたが、いまは在宅勤務の利便性を生かしながら、分散と集合によるハイブリッドな働き方に変化している。コミュニケーションのスタイルも、平準化された会議から、突発的でフランク、カジュアルな対話を通じたコミュニケーションが中心となっている。いまの時代に求められる共創の在り方、新たな行動様式にあわせて、どのようにオフィスを展開し、レイアウトを変革するか。慎重かつ大胆な検討し、実現した結果が虎ノ門オフィスである」と述べた。
今回の虎ノ門新本社の開設により、それぞれの拠点を、顧客との体験や共創を行う「イノベーションゾーン」、社員との協業や共創の場となる「コラボレーションゾーン」、個人で集中して仕事を行う「パーソナルゾーン」で構成。これらを、社員が選択しながら働ける環境が整うことになった。
本社機能に加えて「IBM Innovation Studio」を設置
虎ノ門新本社では、本社機能に加えて、IBM Innovation Studioを設置したのも特徴だ。
IBM Innovation Studioは、企業の変革に向けて、共創を促進する施設であり、ニューヨークやロンドン、パリ、中国など、世界19カ所に設置。日本では東京と大阪に開設している。
東京の施設は、2010年5月に、箱崎本社に、IBM Solution Centerとしてオープンし、2022年1月には、業務の内容を広げて、IBM Innovation Studioに改称。2023年実績で、年間利用者は700社、3000人強となっており、年間1000セッションを実施したという。
この施設を拡張しながら、虎ノ門本社に移設。研究開発部門の専門家によるセミナー、ショーケースのデモストレーション、没入型体験の施設、デザイン思考型ワークショップの開催、プロトタイプの迅速な構築やロードマップの作成などの共創ワークショップの実行、フォーラムやイベントを通じた知見の共有や交流などを行う。
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日本IBM IBMイノベーションスタジオジャパン部長の武井総氏は、「watsonxなどの旬なソリューションを中心に、体感型デモや展示物を通じて、テクノロジーの有用性を理解してもらうことができる。また、日本IBMのスペシャリストなどが同席して議論を深めるための会議室やセミナールームも完備している。グローバル全体で蓄積した知見も共有できる。新たな場所に移転したことで、より良い施設へと進化させ、共創のレベルを一歩高めたい」としたほか、「日本IBMのシンボルとしても、多様な訪問者の受け入れを促進したい。学生や内定者、海外からの訪問者、経済団体、各種コミュニティーの人たちにも見てもらう拠点にしたい」と述べた。
虎ノ門新本社が入居する虎ノ門ヒルズステーションタワーには、共創型拠点であるTOKYO NODE LABがあり、「虎ノ門を、新しい体験が創出され、展開され、共創によってイノベーションが起きるエリアにしたいという構想がある。このエリアから得られる知恵や知見、感性をお客様の変革に役立てたい」とする。
TOKYO NODE LABには、日本IBMとキヤノン、バスキュール、森ビルによるポリュメトリックビデオスタジオが開設されており、企業やクリエイターとのコラボレーションによるXRコンテンツの企画、制作、配信を行い、映像体験の価値向上を図ることができるという。
日本IBM 虎ノ門新本社の内部を見てみる
では、日本IBMの虎ノ門新本社の様子を写真で見てみよう。
2024年1月30日に、虎ノ門新本社で開催されたオープニングセレモニーで、日本IBMの山口社長は、「本当は一棟借りをしたかったが、謙虚なので2フロアに限定した」と語って会場を沸かせながら、「やっとこの日が迎えられた。新本社づくりを担当した社員からは、日本IBMグループの社員たちが、このオフィスに入れてよかったと本気で思ってもらえるものにしたいという声を聞いた。同じ思いである。新たなイノベーションをつなげることができる拠点にしたい。ビジネスの成果にもしっかりとつなげたい」と述べた。
また、森ビル 取締役副社長 執行役員 北林幹生氏は、「日本IBMと初めてコンタクトしたのは2008年であり、その後、森ビルは多くのビルを都内に建てて、提案をしてきたが、『箱崎への残留が決まった』というやりとりを何度か繰り返した。森ビルはあきらめない会社である。成功するまでやる会社である。2022年春から夏にかけて、山が動き、本社移転が決まった。日本IBMの社員が引っ越してよかったと思える職場になるように、全力をあげて街づくりに取り組み、サポートをしていく」と述べた。
新たな拠点である虎ノ門新本社で、今後、どんなイノベーションや共創が起きるのかが注目される。