パナソニック補聴器が、耳かけ型補聴器「R5シリーズ」を発売した。6年ぶりのモデルチェンジとなった新製品では、Bluetooth の新規格であるLE Audioに対応。テレビ放送やネット動画の音声を直接聞くことができたり、将来的には、外出先でも必要な音声を直接受信したりすることで、従来の補聴器とは異なる聞こえやすさを実現することができる。

  • パナソニック「補聴器」が6年ぶりモデルチェンジ、補聴器市場の変革まで見据える

    パナソニック補聴器の耳かけ型補聴器「R5シリーズ」

Bluetooth の新規格であるLE Audioは、大幅に低い電力消費で、高品質の音声を実現するとともに、マルチストリーム機能とブロードキャストオーディオ機能を備えているのが特徴だ。とくに、ブロードキャストオーディオでは、新機能であるAuracastにより、オーディオ体験や周囲の世界とのつながりを大きく変えることができる。

実は、この技術は、補聴器の世界を変革することにもつながると期待されている。

Bluetooth技術を管理する団体であるBluetooth Special Interest Group(Bluetooth SIG)では、Auracastによって実現される具体的な利用シーンをあげ、次のように説明する。 想定しているのは、LE Audioが普及した将来の空港での利用シーンだ。

空港に早めに到着し、バーで時間を過ごしていると、複数のテレビで様々なスポーツの試合を放映。だが、会話を楽しみたい来店客への配慮や、異なる番組のテレビ音声が重なり合ってしまうことから、それぞれのテレビの音声はすべてミュートされていることはよくある。こうした環境においてAuracastを活用することで、見たいテレビの音声をスマホで選択し、手元のイヤホンや補聴器で直接音声を聴くことができるようになる。スポーツジムやレストラン、待合室といった公共の場に設置された無音のテレビも、同様の操作で聞こえるようになる。補聴器の利用者も、店内の音を拾わず、テレビの音声を直接聞くことができるため、よりクリアな音質で楽しむことができる。

  • スマホで音声レベル調整できる

  • 補聴器の音だけでなく、テレビの音もスマホで調整

次のシーンは、搭乗ゲートだ。

Auracastを使用して、他の人のスマホやノートPCを通じて音楽を共有し、イヤホンや補聴器を使って楽しむことができたり、スマホで設定をしておけば、その場で放送されるゲートでのアナウンスを直接聞いたりできる。この仕組みを利用することで、駅のホームや車内、ショッピングモールでのアナウンスをはじめ、公共の場でのアンウンスも、周囲の雑音の影響を受けずに、イヤホンや補聴器で、直接聞くことができるようになるというわけだ。

そして、目的地では講演会場に到着。今度は、Auracastを通じて講演の音声を直接聞くことができる。聞きたい音をよりクリアに聞くことができるため、補聴器を使わない人にとっても便利な機能だと言える。この技術を活用すれば、博物館や美術館、観光地などのガイド音声のほか、映画館の上映音声、コンサート会場での音楽、教室での先生の声なども直接聞くことが可能になる。音が反響しやすかったり、会場が広いため、補聴器のマイクで音が拾いにくかったりするシーンでも聞きにくいという課題を解決できる。

このように、LE Audio対応となることで、Auracastによって提供される機能を様々なシーンで利用でき、あらゆる人々に対する、より良い聴こえを実現。生活の質を高めたり、移動や仕事を快適にしたりといったことが可能になる。補聴器ユーザーにとっても、大きなメリットが生まれることになる。

LE Audio対応は、従来の補聴器ではカバーしづらく、聞こえの不満となっていた様々な要素を解決できる。

一般社団法人日本補聴器工業会の調査「Japan Trak 2022」によると、補聴器の所有者が聞こえにくさで不満を持っているシーンとしては、「周りがうるさい環境下で会話するとき」が最も多く46%を占め、次いで、「多人数での会話」が37%となっているが、そのほかにも不満が高いシーンとして、「騒音下での聞こえ具合」が36%、「大きな講義室(劇場、コンサートホール、礼拝所等々)」が35%、「テレビ視聴」が26%、「映画館」が25%、「音楽鑑賞」が25%、「電話での会話」が25%となっている。

  • 聴器の所有者が聞こえにくさで不満を持っているシーン

パナソニック補聴器 営業本部営業グループ営業推進チームの光野之雄氏は、「LE Audio対応によって、音声が直接届く環境が増え、周囲の雑音の影響を受けずに、聞きたい音をよりクリアに聞くことができる。将来的には、自宅だけでなく、街でも音源とつながる予定であり、これまでの補聴器ではカバーしづらかった様々な場面で、快適な聞こえの提供を実現できる」と語る。

  • パナソニック補聴器 営業本部営業グループ営業推進チームの光野之雄氏

パナソニック補聴器が新たに投入した耳かけ型補聴器「R5シリーズ」は、「聞こえの進化で人とつながる」をコンセプトに開発した製品としているが、これは、LE Audioという新たな技術を活用することによって、補聴器の「聞こえを進化」させたことを意味する。LE Audioの広がりが、補聴器の利用シーンの拡張に直結するというわけだ。

だが、LE Audio対応機器はまだ少ない。国内で販売されているスマホではソニーのXperiaシリーズの一部機種や、GoogleのPixelシリーズの一部機種で対応。今後、各社のAndroid搭載スマホや、アップルのiPhoneでの採用が注目されている。また、先に触れた空港のシーンのように、この技術を公共の場で利用したサービスの広がりはまだこれからだが、LE Audioの利用が広がることで、補聴器の利用が促進される環境が整うともいえる。

パナソニック補聴器では、補聴器のファームウェアのアップデートを通じて、LE Audioに対応した新たな機種との連携を図ることになるという。

パナソニック補聴器が発売した耳かけ型補聴器「R5シリーズ」は、補聴器ユーザーからの声をもとに進化を遂げた製品だ。それは、LE Audio対応以外の機能の進化からも理解できる。

たとえば、「Japan Trak 2022」での不満要素としてあがっていた「電話での会話」や「テレビ鑑賞」といったシーンの不満に対しても、通話時はスマホと直接つながることで、補聴したクリアな音声で会話できるようにしているほか、テレビ視聴時は、テレビアダプターを用いて接続。より高音質で楽しむことができる。家族と一緒にテレビを見ている場合も、家族は通常の音量で、補聴器利用者は自分の好みの音量で、補聴器から聞こえる直接音声を楽しむことができる。なお、テレビアダプターでは、複数の補聴器に同時接続できるため、介護施設などでも利用しやすい環境を実現している。

  • テレビアダプター。LE Audioに対応している

また、タブレットやスマホでYouTubeなどのネット動画の視聴する際も、補聴器を使って、直接高音質で聴くことができる。

パナソニック補聴器の光野氏は、「コロナ禍において、シニア層が新型ウイルスに関する情報を収集する際に、テレビに次いで多かったのがインターネットのニュースであり、約8割に達している。無料のネット動画を視聴したり、ビデオ通話で会話したりといった人も増加している」と指摘。補聴器により、タブレットやスマホの高音質を視聴したいというニーズも増えている。

また、シニアのスマホ所有率が上昇しており、60歳代では約9割、70歳代でも7割を超えていることにも着目。スマホアプリも提供し、画面の操作で音量を調整できるほか、補聴器を紛失した際には、補聴器との通信が途絶えた場所を地図上に表示。自宅で失くした場合にもスマホ上に補聴器がある方向を示すことで、探し出しやすくしている。シニア層が利用しているスマホを活用した提案も新たな特徴のひとつだ。

「コロナ禍を経た生活様式の変化にあわせて、補聴器に求められる要素が変化してきている。R5シリーズは、こうした変化にも対応している」とする。

  • 専用のリモコンを付属。スマホが使いにくいという人にも対応

さらに、コロナ禍では、補聴器全体の需要が落ち込んだものの、アフターコロナでは、「家族や友人とのつながり」、「健康維持」に対する意識が高まっていること、コロナ終息後には「国内旅行」や「友人との会合や外食」など、趣味をより楽しみたいというニーズがあることを捉え、それにあわせて補聴器のニーズが高まると想定している。

R5シリーズは、従来のモデルから高い評価を得ている聞きやすさを追求した3つの機能を踏襲している。これも、アフターコロナのニーズに合致した提案につながる。

3つの機能のひとつめは、「ピーピー」という不快なハウリング音をより強力に抑えるICA(Independent Component Analysis)方式のハウリング抑制機能だ。ハウリング音だけを独立させて抽出、抑制することで、素早く適確に検出して抑えることができる。

2つめは、騒音下での聞き心地を改善するISS(Impulsive Sound Suppression)方式の突発音抑制機能である。食器が当たるカチャカチャという音や、ドアを閉めた時に発生する不快な衝撃音を抑えることができる。言葉の聞こえはそのままに、耳障りな衝撃音だけを的確に抑えることが可能だ。

3つめが、はっきりしない単語をより聞き取りやすくするパナソニック独自のダイコティック補聴技術である。両耳に補聴器を着けた場合に、左右の耳で母音と子音を分担して聞き分けることで、「音は聞こえるが、言葉がはっきりしないという人にお勧めの機能」だという。

  • パナソニック独自のダイコティック補聴技術

さらに、新たな機能として、マスク越しでも相手の声を聞き取りやすくするマスクモードを搭載。周囲の音にあわせて騒音を抑え、聞こえを自動調整する「おまかせシーンセレクト機能」も継承した。

R5シリーズの進化のひとつに、電池の持続時間の長寿命化がある。

従来のR4シリーズでは、約24時間だった補聴時間は、約36時間に拡大。テレビ視聴時では約8時間だったものを、約12時間にまで伸ばした。

「高齢者の平均的なテレビ視聴時間をもとに、テレビを視聴し、補聴しても、朝から夜まで、継ぎ足し充電なしに稼働すること、また、補聴だけであれば、一泊旅行でも充電せずに使えること、1日中ずっとテレビを見て過ごしても充電せずに利用できる環境を目指した」という。その結果、辿り着いたのが、このスペックだったという。

R5シリーズでは大容量電池を採用。それに伴い、補聴器のレイアウトを変更。ほぼ一から作り直したという。大容量電池を採用したことで、電池サイズは大きくなったが、基本デザインを踏襲し、サイズはひとつの方向に若干広げるだけに留め、厚みにも変更はない。

また、スマホアプリで電池残量が一目でわかるようにしたほか、本体装着時に音声ガイドで電池残量を通知。ちょっと外出する際にも、電池残量があることを確認できる安心感がある。

さらに、非接触充電式のため補聴器から小さな電池を出し入れする必要がなく、補聴器を充電ケースに置くだけで、約4時間で満充電にできる手軽さも踏襲した。

  • 補聴器はケースに置くだけで充電できる

デザイン性にも配慮している。従来モデル同様に、プロダクトデザイナーの柴田文江氏がデザイン。「人間の心に寄り添うデザインを目指して、メカニカルで金属的な印象ではない、やさしい曲面を使いながら先進性をカタチに表現した」という。

  • ツートン仕様のカラーバリエーションを用意。サンドベージュ(右から3番目)が一番人気。また、リッチボルドー(一番左)は指名買いする人が少なくない人気カラーだ

JapanTrak 2022の調査では、国内の補聴器の普及率は15.2%に留まり、欧米に比べて普及率が低いことが浮き彫りになっている。日本人が、補聴器を使用しない理由のなかには、「恥ずかしい」が25%、「形やデザインがよくない」が16%という結果が出ている。そこで、デザイン性にも配慮。新たにツートンカラーを採用し、奥行きと深みのある質感を実現。カラーバリエーションは、髪色や肌に合う4色のほか、ファッショナブルでアクティブな2色も用意。「耳かけ型は、本体が耳の後ろに隠れて目立ちにくいが、R5シリーズでは、美しいデザインと快適な装着感、高い耐久性を兼ね備え、ファッションアイテムとしても楽しんでもらえる」と自信をみせる。

  • 国内の補聴器の普及率は15.2%に留まり、欧米に比べて普及率が低い

スイッチやボタンを本体表面からなくした密閉構造にすることで、IP68の防塵、防水機能を実現。汗や水、ホコリに強く、故障しにくさを実現している。

R5シリーズの希望小売価格は、最上位の20ch対応のWH-R57が両耳で89万8,000円、片耳で49万8,000円。16chのWH-R55が両耳で69万8,000円、片耳で39万8,000円。テレビアダプターが附属しない12chのWH-R53が両耳で49万8,000円、片耳が32万8,000円。いずれもフィティッングサービスが付属。また非課税となっている。

聴力は40歳前後から弱まると言われ、聞こえの変化はだれにでも起こる。補聴器を使用しないことで不便な生活を強いられている人も多いという。

今回のR5シリーズは、変化するニーズに対応するために、新たな技術を採用することで進化を遂げた。R5シリーズの進化が、補聴器の普及率向上にどう貢献するのかも注目される。