東京ドームが、過去最大規模のリニューアルを行い、その様子を報道関係者に公開した。これまでに比べて約4.4倍の面積となる国内最大級のメインビジョンの新設のほか、一般来場者を対象とした新たな入場サービスや決済サービスに、パナソニックの顔認証技術を採用。「facethru(フェイスルー)」サービスとして、顔パスでの入場、手ぶらでの物品購入、完全キャッシュレス化を図ることになる。

東京ドームは、プロ野球の読売ジャイアンツの本拠地であり、今回のリニューアルに関わる読売新聞グループ本社、読売巨人軍、東京ドーム、三井不動産の4社は、「それぞれの知見を集結し、ジャイアンツの世界を五感で、存分に楽しんでもらえる新たな観戦体験を実現する」と語る。

新たな東京ドームの様子を見てみよう。

今回の東京ドームのリニューアルの目玉は、なんといってもメインビジョンである。

バックスクリーンから左右方向に延びたフルカラーLEDビジョンは、横幅が約125.6メートル、高さは約7.5メートルの上段部分と、横幅20メートル、高さ4.5メートルのバックスクリーン中央下段部分の2つのスクリーンで構成され、面積は約1050平方メートルとなる。従来の東京ドームのメインビジョンの238平方メートルであり、それに比べて、約4.4倍に拡大。メインビジョン単体の面積としては、国内スタジアムでは最大規模だという。

ライトからレフトに至る上段横長部分は1万2560×750pxi、中央下段部分は2000×540pixの解像度となり、新たに導入した送出制御システムにより、音楽や照明と連動した映像や静止画の演出、アニメーションなどの動きを交えた特殊効果などによって、スタジアム全体を盛り上げることができる。14chの音響システムに送出することが可能で、スタジアムだけでなく、コンコースやVIPルームとも連動し、会場全体が一体感を持った形で顧客体験を創出できるという。

この制御には、ソニーマーケティングが開発したスタジアム専用アプリケーションを活用。スイッチャーには新開発のXVS-G1を採用し、映像は最大16K×2Kに対応。単体の映像素材は4Kでの入稿にも対応しているという。

また、ライト側とレフト側のフェンスにはリボンビジョンを設置。ライトとレフトの2面合計で107メートルの長さを持つ。外野フェンスは約4メートルの高さがあるが、そのうちの上部約3分の1を占める1メートル28センチにリボンビジョンが組み込まれており、メインビジョンと連動した形で様々な映像演出が行われることになる。

さらに、天井部分を含めて場内に設置された約650台のLED照明器具を、512チャンネルのデジタル信号を送受信できる「DMX512」と連動。照明器具を1台ずつ制御できるため、様々なパターンでの点灯や調光が可能になる。

  • 最新のデジタル活用で生まれ変わった東京ドームを見てきた

    バックスクリーンから左右方向に延びたフルカラーLEDビジョン

  • フルカラーLEDビジョンには広告も表示できる

  • フルカラーLEDビジョンを見上げてみる

  • 天井などのLED照明とも連動した演出も行われる

  • フェンス上部にはリボンビジョンを設置している

東京ドームでは、今回のリニューアルにおいて、「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という言葉を用いている。それを象徴する取り組みのひとつが、顔認証技術の本格導入である。

東京ドームでは、2022年シーズンから、プロ野球のオープン戦、公式戦で事前登録した顔画像により、入場や決済ができる「facethru(フェイスルー)」サービスを導入。専用レーンで「顔パス」で入場ができるほか、球団直営グッズショップである「G-STORE」や、場内の4つの飲食店では顔認証とPIN入力による手ぶらでの買い物が可能だ。Suicaの番号を登録すれば、Suicaをかざすだけでも入場ができる。また、顔決済では事前にクレジットカード情報を登録する必要がある。

マスクをしたままでも顔認証が可能であり、スムーズな認証による待ち時間の減少、接触機会の低減による安心安全な入場の実現、チケット紛失やなりすましなどのリスク低減、スタッフの業務効率化、サービス向上などのメリットがあるという。

顔認証には、パナソニック システムソリューションズ ジャパンの技術を採用している。

すでに、2021年3月から、東京ドームの関係者を対象とした顔認証入場や、一般来場者を対象とした顔認証決済の実証実験を行ってきた経緯がある。実証実験では、マスク着用時でも99%以上の認証率を実現することができ、来場時にマスク着用をお願いしている東京ドームにおいても、同技術の本格導入が可能と判断した。

本格導入においては、パナソニック システムソリューションズ ジャパンの顔認証クラウドサービス「KPASクラウド」を活用。各種IDを連携する独自の仕組みも開発したという。さらに、新たにデザインした稼働式顔認証入場ゲートを導入。場所や時間、気象、季節によって変わる設置条件に対応できるようにしたほか、運用面を考慮して移動、設置が容易な設計を採用。また、ユニバーサルデザインへの配慮などにより、利用者が使いやすいデザインにしているという。

また、ゲート本体およびチケッティングについては、イープラスと連携。Suicaについては JR東日本メカトロニクスが提供するクラウド型ID認証システム「ID-PORT 」と連携 させているという。これにより、ジャイアンツファンなどが無償で登録できる「GIANTS ID」を介した顔認証による入場と、Suica認証による入場を、1台の入場ゲートで実現したという。

パナソニック システムソリューションズ ジャパンでは、「KPASクラウドでチケッティング連携を活用した常設型システムの納入は、今回が初めてになる」としている。

パナソニックの顔認証技術は、ディープラーニングを応用し、世界最高水準の精度が認定されており、顔の向きや年齢の変化、メガネやマスクなどにも影響を受けにくいのが特徴だ。すでに、空港の出入国における厳格な本人確認や、アミューズメントパークでのチケットレス入退場、店舗でのキャッシュレス決済、オフィスでのICカードレス入退室などで導入実績があり、1日10万回以上の固有の顔認証を達成しているという。

  • ユニバーサルデザインへの配慮した顔認証ゲート

  • 近づくだけで顔認証ができる

  • 顔認証を行っているところ

  • OKのサインがでると通過できる

  • Suicaでの認証でも入場ができる

  • Suicaをかざす部分

  • 顔認証決済が可能な店舗は場内に4店舗ある

  • 顔認証で決済を行っている様子

  • PINコードを入力して決済は終了する

  • KPASを活用したfacethruの仕組み

さらに、東京ドームでは、今回のリニューアルで、完全キャッシュレス化を実現。ドーム場内のすべての売店、客席販売、場内チケットカウンター、自動販売機、コインロッカーなどでは、各種クレジットカードによる決済、交通系ICやnanaco、iD、waonなどの電子マネーでの決済、Paypayやd払い、楽天ペイ、LINE Payなどの電子マネーのコード決済が可能になる。完全キャッシュレス化は、ジャイアンツ主催試合のほか、他のスポーツの開催や、音楽などの催し物にも適用するという。

現金の受け渡しなどで生じる接触機会を減らし、感染防止の強化につなげるほか、売店などでの待ち時間の短縮、スムーズな購入やスタジアム観戦を楽しむことにつながるとしている。

野球観戦などの際には、座席の中央部に座ると、売り子に支払う現金や購入した商品を、隣の人たちが協力して、送り届けるシーンがよくみられるが、その際に、クレジットカードや電子マネーカードを他人に手渡して決済してもらうというのは、これまでに慣れないやりとりだけにちょっと気になる部分だといえる。

なお、場内には初めてキャッシュレスを利用する来場者のために「DXサポートデスク」を設置して支援。キャッシュレス化やデジタルサービス全体に関する問い合わせに対応する。また、電子マネーの販売窓口を4カ所に設置する。さらに、セブン・カードサービスとの協力により、小学生の来場者を対象にジャイアンツオリジナルの「キッズnanaco」をプレゼントする。「小学生に初めてのキャッシュレスで、買い物を体験してもらいたい」としている。

  • 場内に設置されたDXサポートデスク

  • 場内で電子マネーのチャージが可能になっている

  • コインロッカーもすべてキャッシュレスで行う

  • 来場者情報登録システムによって感染者が発生した場合には連絡する

東京ドームにとって、過去最大のリニューアルというように、様々な変更があちこちで見られる。

内野席の正面入口となる22番ゲートと、ライトスタンドにつながる25番ゲートでは、大型LEDディスプレイが設置され、迫力ある映像で来場者を迎える。また、場内のコンコース上には約260台のデジタルサイネージを導入。座席から離れていても、多くのエリアで試合映像や演出映像を見ることができる。

なかでもメインゲートとなる22番ゲートでは、横幅6メートル、高さ3メートルの大型LEDディスプレイが1面、横5メートル、高さ3メートルの大型LEDディスプレイが2面、さらに16本の天井LEDディスプレイを設置し、圧巻の演出が行われる。

  • 正面となる22番ゲートの様子

  • 22ゲートを入ったところにある大型LEDディスプレイと天井LEDディスプレイ

  • 16本の天井LEDディスプレイ

  • ライトスタンドにつながる25番ゲートもリニューアルした

  • 25番ゲートにある大型LEDサイネージ

  • 場内のコンコース上には約260台のデジタルサイネージを導入している

また、入場ゲートのデザインを一新。場内の15カ所にはグラフィックデザイナーである河村康輔氏によるグラフィックデザインが施され、過去の写真素材を使用して、後楽園球場時代から東京ドームに至るまでの歴史を見ることができる。

新たな観戦席も用意している。1階席三塁側には白を基調としたL字型ソファを用いた「THE 3rd PLATINUM BOX」を配置。座席には、飲食物を置けるテーブルや試合中継用モニター、スマートフォンの充電ができる電源も用意している。2階席前方ブロックには、クッション性の座面がついたベンチソファタイプの「SKY TERRACE」を新設。グループでの観戦に適している。

また、2階のコンコースから入れる半個室のグループ席として「MASU CABANA」を用意。前方にソファセット、後方にカウンター席を配置しており、ビーチサイドのプライベートスペース「カバナ」のようにリラックスした気分で観戦できることをコンセプトにしている。

2階コンコースの外野寄りには、ペア観戦用の「CRAFT COUNTER」を設置。座席がある席と立見席を用意している。

バックネット裏に設置している最高ランクのシートとなる「ダイヤモンドボックス」を、従来の160席から、290席に増やしたほか、座席に付属する専用タブレットも刷新。これを利用したフードデリバリーの対象店舗も増やす。2022年からは、専属のアテンダントが迎えるサービスを用意。ここでは、ANAビジネスソリューションの協力により、アテンダントに研修を実施。さらに、航空機の客室乗務員の経験者も一部配置する予定だという。

バックスクリーンの下には、「JCBバックスクリーンクラブ専用ラウンジ」を設置しているが、今回のリニューアルでは、レフト側からも試合が見られるように拡張。ビュッフェエリアも拡張したという。

  • コンコースは従来の青を基調にしたものからブラックやグレーを基調にしたものに変更している

  • グラフィックデザイナーである河村康輔氏によるグラフィックデザイン

  • L字型ソファを用いた「THE 3rd PLATINUM BOX」

  • スマートフォンの充電ができる電源も用意している

  • ベンチソファタイプの「SKY TERRACE」

  • 半個室のグループ席として「MASU CABANA」

  • ペア観戦用の「CRAFT COUNTER」

  • こちらは立見用の「CRAFT COUNTER」

  • 「ダイヤモンドボックス」は升席下

  • 報道関係者向けの記者席の様子

  • ゴミ箱も各所に設置されている

  • JCBバックスクリーンクラブの入口

  • JCBバックスクリーンクラブの様子

  • JCBバックスクリーンクラブ専用の外野席にはクッションがついている

  • 車いすの来場者の観戦エリアも用意されている

  • バリアフリートイレもあちこちに用意されている

さらに、3階エリアでは、専用ゲートから入場するスイートエリアを「THE SUITE TOKYO 」としてフルリニューアル。法人を対象にした年間契約となる28室のスイートルームを用意。エントランスや通路には、読売新聞社、読売巨人軍、野球殿堂博物館の協力により、ユニフォームや優勝トロフィー、バット、写真などを展示。ジャイアンツの歴史を感じることができる。また、3階のバルコニー席の「プレミアムラウンジ」も一新。長嶋茂雄終身名誉監督が考案した後楽園飯店の「ふかひれ入り汁そば」も新たにメニューに追加された。

このように、東京ドームのリニューアルは、フィジカル空間の刷新とともに、デジタルの活用を組み合わせ、新たな観戦体験ができる場へと進化している。ジャイアンツの優勝に向けた後押しになることも期待される。

  • スイートエリアを「THE SUITE TOKYO 」としてフルリニューアル

  • 「THE SUITE TOKYO 」のエントランスの様子

  • 長嶋茂雄終身名誉監督のユニフォームなどが飾られている

  • ジャイアンツが獲得した数々のトロフィーも展示している

  • ジャイアンツの歴史を知ることができる写真などが飾られている

  • スイートルームの様子

  • 食事をしながら観戦することも可能だ

  • 3階のバルコニー席の様子

  • 3階のバルコニー席の「プレミアムラウンジ」も一新