東芝は、2022年3月1日付で、代表執行役社長CEOに、島田太郎執行役上席常務が就任するトップ人事を発表した。あわせて、東芝エレベータの柳瀬悟郎社長の代表執行役副社長COOへの任命も発表した。また、綱川智代表執行役社長CEOは取締役会議長となり、畠沢守代表執行役副社長は退任し、取締役として執行の監督を継続する。

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    東芝の島田太郎新社長

暫定での任命、社外人材の登用も検討

東芝では、2023年度下期に、東芝およびエネルギー・インフラサービス事業(インフラサービス Co.)を継続する一方、デバイス・ストレージ事業(デバイス Co.)をスピンオフし、2分割する再編計画を打ち出しており、島田新社長は、継続する東芝およびエネルギー・インフラサービス事業の経営を主導することを前提にして社長CEOに就任したことになる。また、スピンオフするデバイス Co.の社長 CEO への就任を予定した人事として、東芝デバイス&ストレージの佐藤裕之社長を、東芝の代表執行役専務に任命した。

なお、島田氏、柳瀬氏、佐藤氏は、暫定での任命としており、同社では、「暫定とは、就任者の業務執行状況やパフォーマンスを、取締役会がモニタリングし、その地位にふさわしい業績を上げていることを確認できるまでという意味であり、適切な社外人材の登用についても検討を継続する」としている。

指名委員会のレイモンド・ゼイジ委員長は、「外部専門家に社内、社外の候補者の経験、スキル、能力、誠実性、スピンオフをした際の専門性などについて、広く検討をしてもらった。だが、外部の候補者を採用した場合に、現在、株主の反対によって発生している再編プランの不確実性にマイナスの影響を及ぼすと考え、暫定的な解決策として、東芝の再編プランを率いていく候補者を社内から特定した。指名委員会では、取締役会に対して、社内からの候補者の指名を優先すべきであると提示し、今回の決議が行われた。株主との信頼関係を再構築すること、タイムリーな形で変更を実施していくこと、社外候補者だけでは短期的には遅延のリスクが存在することなどの理由から決定したものである。3月24日に予定している臨時株主総会を迎えるにあたり、株主が評価でき、投票の意思を決めることができるようなタイミングで、経営陣を変更し、新たな経営陣を示すことが大切だと考えた。また、素早く動く能力を示すことができたともいえる。実行再編プランの実施が加速することを期待している」などと述べた。

  • (左から)指名委員会委員の綿引万里子氏、取締役会議長の綱川智氏、代表執行役社長 CEOの島田太郎氏、代表執行役副社長COOの柳瀬悟郎氏、代表執行役専務の佐藤裕之氏

島田太郎新社長は、3月1日午後3時から行われた記者会見で、「伝統ある東芝の新CEOに指名されたことを大変名誉に感じている。同時に、重大な責任に身が引き締まる思いである」と語り、「東芝にきて、わずか3年であるが、私は東芝が大好きである。すでに30年間、東芝で働いてきたように感じている。『人と、地球の、明日のために。』という経営理念と、理念を大切にする東芝のみなさんが大好きだ。東芝の魅力は技術開発力であり、どこからどんなものが飛んでくるかわからないような面白いことを考える多くの技術者が在籍している点にある。それらのすべてが事業になるわけではないが、もとになって新たなものが生まれてくる場合もある。量子暗号技術はそのひとつであり、ビジネスになってきている。世の中にまったく存在しない技術を開発し、よりよい社会を作ることに、命を燃やす東芝の人たちが大好きである。どのような形になっても、東芝はその力をキープしなくてはならない。研究開発費の拡大、様々な企業との連携を行い、この文化を守り、新たな技術を生み出し続けたい。東芝が持つその輝きを再び、世界に示したいと強く思っている」と抱負を述べた。

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また、「新CEOとして最初にやることは、株主、お客様、社員を含む、すべてのステークホルダーとの強固な信頼関係を築くことである。株主とは目線をあわせて話すことが大切である。海外で仕事をしていたときに、Somebody else issueに落とし込めと言われ、相手の立場になって考えた場合には、それはどういうことなのかを考えてきた。お互いが同じ理解ができるレベルに持っていくことが大切である。すべてのステークホルダーの意見を真摯に受け止め、すべてのオプションを検討し、実行していく。これは東芝にとって重要な課題であり、同時に、ガバナンスの強化も行い、着実に経営計画を実行していく」と語った。

さらに、「新COOの柳瀬氏をとても信用している。2人の違った経歴がよりよい東芝を作れると思っている。私と柳瀬は、いずれも高い専門性を持っている。経営の俊敏性を持った経営ができると考えている。ただ、企業は、社長が交代したから激変するというものではない。信頼感を得られる継続的な経営は難しい。受け取ったものを常に進化させ、すべてのオプションを検討しながら、それを深めて、発展させることが私の役割である。考えていることはいろいろとある。これを取締役会で議論をして、合意を得た上で、発表していくのが正しい形であると考えている。東芝を信じている。そのために全身全霊で職務にあたるつもりである」などと語った。

デジタルがわかる初めての社長

島田新社長は、1966年10月22日生まれ、1990年4月に新明和工業に入社。航空機の設計に携わり、ボーイングやマクダネル・ダグラスとも仕事をし、日本の救難飛行艇「US-2」の開発にも携わったという。1999年9月にStructural Dynamics Researchに入社。同社をシーメンスが買収し、2010年4月にはシーメンス PLM ソフトウェア日本法人社長兼米本社副社長に就任。2015年9月には、シーメンス日本法人の専務執行役員に就任し、デジタルファクトリー事業本部長およびプロセス&ドライブ事業本部長を兼務していた。

2018年10月に東芝に入社し、コーポレートデジタル事業責任者に就いた。2019年4月には執行役常務に就任。2019年10月に東芝デジタルソリューションズの取締役常務、2020年4月に東芝の執行役常務兼東芝デジタルソリューションズ取締役社長に就任していた。

会見の発言のなかで印象的だったのは、「東芝という伝統的な会社で、デジタルがわかる初めての社長である」と自らを位置づけたことだ。

「東芝に入ってからは、CDO(最高デジタル責任者)を務め、東芝デジタルソリューションズの社長、東芝データのCEOも務め、東芝グループのDXを推進してきた。東芝が持つ素晴らしいポテンシャルを、ソフトウェアデファインドで再定義し、成長と高収益を実現し、それをもとに優れた技術開発に傾注したい。いまは個々の技術の強みや、ひとつの飛びぬけた技術だけでなにかが完成するという時代ではなく、次のレベルのサービスが求められる時代になっている。量子技術であったとしても、すでに存在する技術とのハイブリッドによって初めて価値が生まれ、それを使うためのユーザー体験や、サービスレベルまで考えていくことが重要である。東芝には宝物のようにたくさんの技術や優れた人が存在している。また、様々な場所に技術やインフラを埋め込んでおり、お客様との接点もある。ソフトウェアデファインドで見直した際に、巨大なポテンシャルが存在していることがわかる。今日やれば、明日には成果が出るというものではないが、東芝が持つこれらのポテンシャルを生かし、個々の技術だけではない、いままでにないサービスを提供できる会社に変貌させたい。東芝にはそれができる力が存在し、全体を見ながら、トップダウンで、東芝の力を発揮できる事業展開を進めたい」と語ったほか、「今後、エネルギーにおいても、デジタルは極めて重要な技術になる。カーボンニュートラルが進むなかでは、どこにエネルギーが足りていなくて、どこにエネルギーが余っているのかということが見えていない現状があり、それを変えなくてはならない。さらに、電力を最適に運用したり、省エネを行っていく際にも、デジタル技術が用いられる。これまでとは違うレベルでインテグレートし、分散化したカーボンニュートラルの世界を構築する上で、デジタルは欠かせないものである」と述べた。

島田新社長がデジタルに強みを持つ点については、綱川前社長CEOも言及。「産官学が連携したQ-STAR(量子技術による新産業創出協議会)の実行委員長として実行力を発揮している。また、社内のデジタル化においても、『みんなのDX』を推進し、東芝グループの12万人がデジタルを理解できるようにしている。現場を重視した実行力、行動力があるのが特徴であり、期待しているのは今後の成長戦略における実行力である」と述べた。

新たに代表執行役副社長COOに就任した柳瀬悟郎氏は、「1990年に東芝に入社して以来、エネルギー事業に30年近く携わってきた。2020年からは東芝エレベータの社長としてグローバル人材の強化、ガバナンスの強化、顧客対応力の強化により、世界と戦えるチームを目指して改革に取り組んできた」と経歴を紹介。「改革の推進にあたっては、あるべき姿ではなく、自らの強い思いを込めて、ありたい姿を追求することを大事にしてきた。副社長COOとしての役割は、島田が持つ強い思いがこもったビジョンと、ありたい姿を従業員と共有し、情熱と強い意思を持って、成長と高収益を達成できる基礎を短期間で作ることである。そのために社内改革を実行し、スピーディーに経営変革を実行し、デジタルの技術と、東芝が培ってきたインフラの技術の相乗効果を発揮する体制構築を目指したい。東芝の企業価値を最大化し、すべてのステークホルダーとの強固な信頼関係の構築を目指す」とした。

  • 柳瀬悟郎氏

また、代表執行役専務に昇格した佐藤裕之氏は、「東芝に入社以来、ハードディスク装置をはじめとするコンピュータの周辺装置のBtoBの営業を、日本および米国で経験し、その後、事業責任者を務めた。また、東芝の経営企画部長として、不正会計以降の経営再建にあってきた。この約2年間に渡り、東芝デバイス&ストレージの社長として、半導体、ハードディスク装置、半導体製造装置などを担当している」と、これまでの経歴を説明。「半導体、ハードディスク装置、半導体製造装置は、いずれも大きな成長が期待される領域であるが、国内外のリーディング企業との競合が激しい領域でもある。スピンオフを好機として、事業のさらなる成長に向けて、従業員の力を結集して邁進する。今後は、スピンオフに向けて、上場の準備を加速する。同時に、加賀東芝エレクトロニクスの300mmウェハー生産ラインへの投資や、新製品の開発などの成長戦略を着実に実行し、産業界のサプライチェーンの維持にも対応したい。この分野は、市場変化や技術進化が目まぐるしい分野である。俊敏な経営を実現し、各事業とも製造、販売、技術が一体となって、グローバルな競争に打ち勝てるように全力を尽くす」としたほか、「私は素直な心で、本質を見極めることを、常に心がけてきた。先入観にとらわれず、いまなにをすべきかを考え、行動をしてきた。お客様と率直に意見交換をし、従業員の声に真摯に向き合うことを重視し、お客様から『この会社と一緒にやっていこう』と思っていただくとともに、従業員から『この会社でがんばろう』と思ってもらえるように努めてきた。デバイス Co.として上場し、独立した企業として、さらなる成長と企業価値向上を追求していくが、いままで以上に、お客様や従業員との対話を継続することはもちろん、株主、投資家への説明責任も果たしていく」と述べた。

  • 佐藤裕之氏

一方、取締役会議長に就任した綱川智氏は、「2021年4月にCEOに就任した際には、課せられたミッションを早期に果たし、次の世代へと引き継ぐことを約束した。期待ができる若い世代の経営陣にバトンタッチができたことはうれしく思っている。新たな体制のもとで経営変革を進めることが決定し、東芝グループの未来の進化に向けて、自信を持って引き継ぐことができた。新経営陣のリーダーシップに期待している。それぞれの中核事業で専門的な経営陣が、俊敏な経営をすることが、今後のあるべき姿と考え、戦略的再編を行うことにした。利益ある成長によって、企業価値を向上させ続けるためには、ポートフォリオを変えず、会社の形を変えず、現状維持しつづけるという選択肢はない。戦略的再編が、株主だけでなく、従業員にとっても、お客様にとっても、社会にとっても最善の方法であると信じている。東芝、築いてきた技術とお客様からの信頼をベースに社会課題の解決に貢献してきた。蓄積した技術とお客様からの信頼、その源泉である従業員を守るために、変革を外部の手に委ねるのではなく、自らの手で行っていくことが必要である」と語った。その上で、「これが、東芝が変わるための最後のチャンスであるという危機感を持って臨んできた。取締役会議長として、CEOとして、やるべきこと、やれることをやりきり、提案したものである。株主の支持を得られると考えている。東芝の未来への変革を後押しして欲しい」と述べた。

  • 綱川氏は取締役会議長に

そして、「経営の危機に立たされていた時にも、東芝が持つ技術力や品質を信頼し、支えてくれたお客様のおかげで、いまの東芝がある。心から感謝する。今後は取締役および取締役会議長の立場で、支援、監督していく」と語った。

当初は3分割案だったものを2分割案に変更。株主からは、こうした取り組みに反対意見が出るなど、東芝が置かれた立場では、まだ不確実性が高い状況にある。

だが、3月24日の臨時株主総会の開催前に、新たな経営陣の顔ぶれを示すことができたのは大きな一歩だといえる。東芝の再編に向けた動きがいよいよ動きだす。