シスコシステムズは、東京オリンピック/パラリンピック(東京2020大会)におけるネットワークソリューションの提供をはじめとした取り組みについて説明した。

シスコシステムズの鈴木和洋会長は、「東京2020大会は、史上初の1年延期、コロナ禍による無観客と、異例づくめの開催となったが、大会中の重大なセキュリティインシデントはひとつもなく、100%のネットワークアベイラビリティを維持できた。一度もネットワークのダウンはなかった。これは誇れるものである」と述べ、「東京2020大会をひとことでいえば、デジタルのテクノロジーを、高度に利活用した新しいオリンピックモデルを示した大会であった」と位置づけた。

  • シスコシステムズ 代表執行役員会長の鈴木和洋氏

    シスコシステムズ 代表執行役員会長の鈴木和洋氏

また、シスコでは、卓球日本代表の石川佳純選手と張本智和選手、パラリンピック陸上競技の実業団グロップサンセリテ ワールドアスリートクラブ所属の松永仁志選手兼監督、生馬知季選手と、「アスリートアンバサダー契約」を結んでおり、同社のテクノロジーを活用した支援を行ってきた。会見では、石川選手が「試合前でも映像をタブレットで確認でき、対戦相手の得意、不得意を見分けることができる」とコメント。張本選手は「対戦相手の動画を見て、その選手にあわせた練習に変更するなど、練習のモチベーションがあがった」と語り、練習、試合を通じて支援し、両選手のメダル獲得をサポートした。

  • 卓球 日本代表の石川佳純選手

  • 卓球 日本代表の張本智和選手

ロンドンからリオ、そして東京へ、過去最大のネットワーク構築

シスコシステムズは、ネットワーク機器のオフィシャルパートナーとして、2012年のロンドンオリンピック、2016年のリオオリンピックに続いて、3大会連続で、オリンピック大会のネットワーク構築を支援してきた。

「ロンドンオリンピックでは、初めて大規模なWi-Fiネットワークが敷設された大会であり、リオオリンピックは10億回以上のサイバー攻撃に対して、それをブロックした大会になった」と前置きし、「東京2020大会では、オリンピック史上最多拠点をカバーするネットワークの構築、運用を支援し、国内最大規模のIoTネットワークの構築、運用を支援した」とする。

  • 東京2020大会でシスコが担った役割

東京2020大会は、ベイエリア、ヘリテイジエリア、東北地区など、43カ所の会場で競技が行われたほか、テクノロジーオペレーションセンター(TOC)、IBC(国際放送センター)/ MPC(メインプレスセンター)、選手村という3つの大規模施設が分散。スタッフ関係者や選手などが接続する大会ネットワークには18万6,000台のデバイスが接続された。

新型コロナウイルスの感染防止の観点から大会関係者の数は絞り込んで開催されたが、監視カメラをはじめとして接続されるデバイスの数は増え、前回大会並みの接続数になったそうだ。

シスコでは、これらのデバイスや拠点をカバーするネットワークや、6,000台を超える監視カメラや1万台以上のWi-Fi機器、3,000以上のセンサーを配置した大規模ネットワークの構築、運用を支援。シスコの製品は、過去最多の2万2,000台が導入されたという。「リオで使われたシスコ製品は約8,000台であり、2.5倍に増加しているという。会場が分散していたこと、選手村でのWi-Fi環境についてもシスコが支援を行った。国立競技場の周りを含めて多くの監視カメラを設置したり、人感センサーを設置し、これらから収集されるデータを、監視センターでモニタリングした。これまでのオリンピックではつながっていないような機器までがつながった国内最大規模IoTネットワークを実現した」とする。

また、シスコのネットワークエンジニアは、50人以上の体制で24時間の運用、監視を支援。「シスコと一緒に仕事をしたNTTの社員などを含めると数1,000人規模で運用したことになる」とされた。

「オリンピック大会の記録は、歴史上、ずっと保管されることになる。このデータがうまく送信されなかったり、サイバー攻撃により改ざんされてしまったりといったことがあってはならない。ミッションクリティカル性の高いネットワークの構築が必要だった。トータルでのインターネットトラフィックは、過去最大の1.6PBを記録。だが、大会期間中、ネットワーク障害を発生させることはなかった」と述べた。

また、東京2020大会の公式ウェブサイトへの訪問者数は累計約1億9,570万人と達したという。

  • トータルでのインターネットトラフィックは、過去最大の1.6PBを記録した

東京2020でお披露目した新時代のスポーツの楽しみ方

東京2020大会では、新たな取り組みも行ったという。

1つめは、オリンピック初のオールIP放送の制作を支援したことだ。

東京2020大会では、NBC Olympicsの国際放送センターのオペレーションを、オリンピック史上初となるオールIP化。シスコは、NBC Olympicsによる7,000時間以上の放送をサポートするネットワークの構成に、6,700台以上のシスコ製品や、オールIP配信を実現するためのネットワーキングテクノロジーソリューションを提供。フィールドで撮影したカメラ映像を編集、制作、配信する環境をIP化することで、放送と通信の融合により、デジタルを広く活用。テレビ放送だけでなく、様々なデバイスで、東京2020大会を体験できたり、つながったりできる環境を実現した。

2つめは、データを活用したアスリートの支援である。

アスリートアンバサダー契約を結んだ選手への新たな取り組みであり、Webexをはじめとする同社のコラボレーションテクノロジーを活用して競技活動をサポート。卓球日本代表の石川選手と張本選手には、試合映像の視聴やデータ分析アプリを提供したほか、大会期間中はWebexのボット機能を使い、試合後約30分で、選手が見たい場面だけを簡単に呼び出し、再生できるサービスを提供した。

同社は「過去の対戦やマークしている選手の映像から、サーブのシーンでボールの軌道を確認したり、それが得点につながっているのか、失点につながっているのかといった点などをAIで分析でき、ボット機能を活用したクリッピングサービスにより、対戦選手のサーブシーンやスマッシュシーンを簡単に呼びだすことができる。試合の直前や移動中に見たり、不安になったときなどにも、ちょっとした合間を使って、映像を見て、安心してもらえることができる。テクノロジーとしては、画像データから、クリーンなデータをどう取得するかが難しかった」という。

オリンピックはトーナメント方式であり、試合の合間という限られた時間で、次の対戦相手の直近の試合について分析結果を提供する必要がある。以前の仕組みでは、データ入力だけで3~4時間かかっていたが、石川選手やコーチの意見を聞いて分析項目を絞り込むなど軌道修正を図り、短時間での画像視聴や分析結果の表示が可能になった。

どんな映像が必要なのか、どんな分類の仕方であれば見やすいのかといった選手の要望を反映。連続でレシーブやサーブを見たりといった操作も簡単に行えるように改良した。

  • 石川選手と張本選手。対戦相手の分析などにシスコのテクノロジーを活用した

石川選手は、「すべての選手の映像を用意してもらい、試合前にはタブレットを出して見ていた。スマホのアプリでも見ることもできて使いやすい。シングルス初戦の選手は初対戦であり、映像を見て、サーブやレシーブ、コース取りをしっかり確認できた。映像は、対戦相手のサーブや、バックハンドの動きなども選んで見ることができたり、勝っているゲームと負けているゲームのときの様子も比べることができる。得意、不得意を見分けることができる。何度も対戦している選手でも、データを見るとイメージと違う場合もある。得意と思っているコースでも、データでは意外とミスが多いことがわかったり、逆にここは苦手だと思っていたのに得点が多く、ハッとさせられた選手もいる。攻める際の戦術が立てやすくなった」とコメント。

張本選手は、「自分がよく打つコースなどの傾向を調べたり、相手が得意とするコースの分析を行ったりした。データを見て、バックハンドが得意と思っていた対戦選手が、フォアハンドでの得点が多いとこともわかる。サーブが研究対象になることが多い。短いサーブが多い選手に対しては、思い切ってチキータで対応するといったことを考えることもできた。男子団体準決勝のドイツ戦では、何度も戦っている対戦相手で傾向がわかっていたが、試合前に分析しなおした。それもあって、2ゲーム目から冷静に立て直して逆転できた。対戦相手の動画を見て、その選手にあわせた練習に変更するなど、練習のモチベーションがあがった。いまは、十分すぎるほどいいものを使わせてもらっている」とした。

3つめが、ダイバーシティへの取り組みと、サイバーセキュリティ人材の育成支援だ。

2020年10月に、日本で初めてとなる常設型の大型総合LGBTQ+センター「プライドハウス東京レガシー」を東京都新宿区に開設。シスコは最上位スポンサーとして、このプロジェクトを支援し、施設内のネットワーク環境の整備やコラボレーションツールの提供などを行った。

同プロジェクトは、東京2020公認プログラムとして、大会期間中に、LGBTQ+とスポーツ、文化、教育などに関する情報発信企画を、オンラインとオフラインで展開。ここでは、Webexが活用された。

また、シスコは、2017年から約4年間に渡って、東京2020公認プログラムとして、サイバーセキュリティ スカラシップ プログラムを提供。全国170校以上の大学、大学院、専門学校、高等専門学校生など、6,500人以上がオンラインコースを受講したほか、1,350人が基礎コースであるインストラクターによる座学コースを受講。67人が応用コースであるインターンシップに参加したという。そして、5人のプログラム卒業生が、2021年度新卒入社として、シスコやシスコの販売パートナーに就職する実績が生まれたという。

さらに、50人以上の教員を対象に、CCNA Cyber Ops. 認定講師トレーニングを提供した。

「オリンピックは、大会を通じて、多様性を実現し、人材を育成する場でもある。日本は、サイバーセキュリティ後進国と言われるように、不足しているサイバーセキュリティ人材の育成にフォーカスし、数多くの人に受講してもらった。今後のサイバーセキュリティを担う人材育成に貢献ができた」とした。

  • ダイバーシティの普及、サイバーセキュリティ人材の育成の場にもなった

東京からパリへ、東京2020大会の知見を活かす

シスコは、2024年に開催されるパリオリンピックにおいても、オフィシャルパートナーとして大会を支援する。

これまでのネットワーク製品だけでなく、サイバーセキュリティ製品、会議ソフトウェア製品も対象となる。

「東京2020大会では、Webexを使って、スポーツを観戦する、選手を応援する、選手とつながるといった新たなスポーツの楽しみ方、観戦モデルを示すことができた。また、様々な機器を接続して、より安心、安全な大会も実現できた。セキュリティツールは、卓球のラケットと同じであり、道具である。これを使って、事前に訓練をしないとうまくいかない。今回は、様々な企業のセキュリティ製品を活用しており、かなり訓練をした。その成果が、セキュリティインシデントゼロにつながっている。ネットワークについては、3回の大会を経て、かなり経験を積んだが、サイバーセキュリティは年々高度化するため、過去の経験が役に立たない分野ともいえる。パリ2024大会では、東京での学びや知見を活用し、新たな学びも生かしながら、過去最高の大会にしていきたい」と述べた。

  • 2024年のパリへ向けて、東京での学びと知見を活かす

シスコは、「The Bridge to Possible(すべてがつながれば、あらゆることが可能になる)」を信念に掲げているという。また、「To Power an Inclusive Future for All(すべての人にインクルーシブな未来を実現する」を、企業活動のパーパスとしている。

シスコシステムズの鈴木会長は、「東京2020大会の経験を生かして、日本の企業のDXを支援に加えて、日本社会のデジタイゼーションに貢献したい。シスコジャパンは、日本の社会課題を解決できる会社になりたい」などと述べた。