ブラザー工業は、2030年度に向けたブラザーグループの新ビジョン「At your side 2030」を発表した。

ブラザーの存在意義を再定義した「あり続けたい姿」を起点に、どのような方法で価値を提供するのかを示す「価値の提供方法」、何を実現するのかといったことを示す「注力領域」を設定。これをベースに、バックキャスティングで中期戦略を立案し、実行することになる。

ブラザー工業 代表取締役社長の佐々木一郎氏は、「中期経営戦略は3年ごとに作っていたが、長期的なビジョンを持たないと、道がまっすぐにはならない。新ビジョンは、ブラザーグループが掲げるAt your sideの精神を維持しながら、2030年度に向けた方向性を示すものである。次世代を担う若いメンバーが、リモートを駆使して案を作り上げ、その後、役員も参加してブラッシュアップ。10カ月の期間を費やして完成した」とする。

  • ブラザー工業 代表取締役社長の佐々木一郎氏

    ブラザー工業 代表取締役社長の佐々木一郎氏

同社では、2022年度から新たな中期経営戦略をスタートする予定であり、今回発表した「At your side 2030」に基づいて、新中期経営計画を策定し、2022年春にも発表する予定だ。

「道をまっすぐにする」新ビジョン

At your side 2030は、「あり続けたい姿」、「価値の提供方法」、「注力領域」の3点で構成される。

  • 新ビジョンは「あり続けたい姿」、「価値の提供方法」、「注力領域」の3点で構成

ブラザーが何のために存在し、どのようにあり続けたいかを示した「あり続けたい姿」については、「世界中の“あなた”の生産性と創造性をすぐそばで支え、社会の発展と地球の未来に貢献する」と定義。「ブラザーは、世界中に存在する、お客様をはじめとした、価値創出を行い、進歩し続けたいと願うすべての人々を“あなた”と位置付け、その人々の願いを叶えるための存在であり続けたいと考えた。そして、社会の持続的な発展の実現に貢献しながら、地球環境への責任を果たす」としている。

佐々木社長は、「ブラザーが提供する普遍的な価値や存在意義を示すものであり、生産性や創造性を向上させたいというのは、At your sideの精神そのものである。“あなた”というのは、一義的にはお客様であるが、同時にブラザーグループの従業員のことでもある。最終的には社会と地球に貢献し、よりよい未来を作ることであることを明確に宣言した」という。

2つめの「価値の提供方法」については、「多様な独自技術とグローバルネットワークを強みに、お客様の成功へのボトルネックを見つけ解消する」とし、「ブラザーグループは、創業以来、様々な事業を生み出し、販売ルートを拡張し、グローバルに展開してきた。40以上の国と地域に広がる生産、販売、サービス、開発拠点のネットワークをベースとするグローバル複合事業企業ならではの強みを生かし、お客様や取引先など外部からの学びを得ながら、国や地域、事業を越えて優れた価値を迅速に提供する」とした。また、「お客様のバリューチェーンに向き合い、ボトルネックとなるものを見つけて解消し、さらにモノづくりにとどまらないデジタル技術の活用などの“コト”も含めて、お客様への価値提供の幅を広げる」とした。

佐々木社長は、「創業以来、技術または販路、顧客の連続性を活かし、新たな事業を生み出してきた。この連続性を、タテ糸、ヨコ糸とし、110年の歴史のなかで、織りなされた広がりがブラザーの強みである。技術とはお客様の役に立ち、ボトルネックを解消するための手段だと考えている。最適な技術を活用することで新たな価値を提供しつづける」としたほか、「40以上の国と地域に広がる生産、販売、サービス、・開発拠点のネットワークを活かし、世界中のお客様の声を聞き、速いスピードで改善し、次につなげてきた。今後は、外部パートナーの連携により、グローバルに優れた価値を提供する」と述べた。

  • タテ糸、ヨコ糸で織りなされた広がりがブラザーの「強み」

ここで言うボトルネックという表現についても説明。「お客様のバリューチェーンにおいて、スムーズな流れが妨げられている箇所」とし、「お客様が認識している課題だけでなく、お客様の仕事を注意深く観察することで、気づいていない課題を見つけに行くという領域にもチャレンジしていきたい。さらに、モノづくりに留まらない価値提供を行い、デジタル技術の活用などを通じて、コトの提供を強化する。モノに、コトを加えることで、価値提供の輪を広げ、ボトルネック解消に貢献する」などと語った。

  • 原点である「モノづくり」を、「コト」で強化するイメージ

そして、3つめの「注力領域」では、これらの価値を発揮することにより、産業用領域とプリンティング領域を、2030年までの注力領域と位置づけ、とくに強化すると宣言。産業用領域における飛躍と、プリンティング領域の変容によって事業ポートフォリオを変革し、複合事業体として成長し続けるとした。

産業用領域とプリンティング領域で新たな柱を築く

産業用領域では、ブラザーの強みが活きるビジネス領域での生産性の向上に加えて、働く人々や、地球環境の課題を解決することで、ベストパートナーとしての信頼を確かなものにするとした。また、プリンティング領域では、リモートワークの拡大やデジタル化によって、オフィスワークやプリンティングを取り巻く環境が大きく変わるなかで、働く人々の期待に応え続けるとともに、これまでの事業の枠を超えて新たな柱を築くとした。

「産業用領域のかけがえのないパートナーになること、プリンティングのオンリーワンを極め、次を切り拓くことを目指す」とする。

具体的には、産業用領域では、マシナリー、FA(ファクトリーオートメーション)、産業用印刷といったこれまでの領域において、生産性向上や省人化により、顧客課題と社会課題の解決を図る。

  • 2030年までの注力領域とされた産業用領域

プリンティング領域では、レーザープリンターやインクジェットプリンター、MFC、ラベルプリンター、モバイルプリンターといったこれまでの事業の枠を超えて、新たな柱を築く。「プリンター業界におけるオンリーワンの存在として、オフィスプリンティングやホームプリンティングの分野において、引き続き、ユニークな商品を開発し、価値を提供していく。とくに、SOHOは重要な顧客であり、新たな提案をしたい。すでに、いくつかの挑戦が始まっているところだ」と述べた。

また、プリンティング領域において言及した「新たな柱」にいては、「ブラザーグループは、これまでにも様々なものにトライして、そのなかから柱になるものが生まれ、それが生き残ってきた。いまの時点では、なにをやるということには言及できないが、様々な挑戦を通じて、次の柱を作っていく」と述べた。

  • プリンティングのオンリーワンを極めることで、新たな柱を築く

働きたい人に仕事を、愉快な工場を、輸入産業を輸出産業に

今回、「At your side 2030」を策定した背景について、佐々木社長は、これまでの歴史を振り返りながら、次のように語る。

「1908年に、ミシンの修理業から始まったブラザーグループは、独自に技術開発を行い、蓄積したコア技術を駆使し、事業を多角化し、お客様のニーズの変化を捉えながら変革してきた。あらゆる場面で、お客様を第一に考えたユニークで、オリジナリティのあるモノづくりが、成長の原動力である。働きたい人に仕事をつくる、愉快な工場をつくる、輸入産業を輸出産業にするという3点を創業の精神としており、社会に貢献し、明るく、従業員がやりがいを持って働くことができる職場環境の構築を目指してきた。ブラザーグループは、At your sideの精神で事業を展開してきた。At your sideは、あらゆる場面でお客様を第一に考え、常にお客様の立場に立って物事を考え、事業を進めていくことである。これは変えてはいけないものである」。

  • 創業の精神を堅持することで、事業を変革する

そして、「昨今、社会の変化に加えて、ブラザーを取り巻く事業環境も大きく変化している。働き方の変革は、新型コロナウイルスの流行でさらに加速し、サステナビリティに対する要望が高まり、企業の存在意義、社会的価値を問う動きがグローバルで拡大している。また、デジタル化やリモート化などによる変化が起こり、これらの対応しながら成長するためには、長期的視点で目指す姿を描き、戦略につなげていく必要があると考え、2030年度に向けた新たなビジョンを策定することにした」と述べた。

そのなかで、ブラザーグループ自らのデジタル化への取り組みが、コロナ禍において、プラスに働いた例も示してみせた。

「コロナ禍において、サプライチェーンの分断が世界的な課題となったが、ブラザーグループは、業務の効率化と、デジタル化を進めていたことによって、電子部品や材料が不足し、代替品を使わなくてはならない場合の設計変更などを、速いスピードで進められた。設計変更が難しいものや変更に時間がかかるものについては、ある程度、在庫を積み増しても対応すること、今後、製造の自動化を進めることで、先進国を含めた様々な地域で生産ができるようにしていくことも大切である。これからも継続的に、自分たちの変化対応力を磨くことが大切である」とした。

2050年度、全事業活動でカーボンニュートラルへ

一方、「ブラザーグループ 環境ビジョン2050」を改定したことを発表。環境対応や環境分野への投資をさらに強化することで、2050年度には、あらゆる事業活動におけるカーボンニュートラルと、バリューチェーン全体のCO2排出量の最小化を目指すことを明らかにした。

  • 改定された環境ビジョン。2050年度のカーボンニュートラルを目指す

同社では、2018年に同環境ビジョンを策定していたが、CO2排出削減の目標を、2030年度までに、スコープ1、2において、2015年度比で65%削減する。

「スコープ1、2において、2030年度目標として掲げた2015年度比30%削減の目標を、前倒しで達成したこと、さらなる地球環境への取り組みを目指すということで、目標値を見直した」という。

CO2排出量削減に向けては、省エネ活動の推進、太陽光パネルの設置を中心とした創エネ活動、CO2フリー電力の購入などを推進。愛知県名古屋市の本社地区では、新オフィスビルを環境配慮型ビルとして建設することで、2026年度中のカーボンニュートラルを目指す。また、2021年10月1日には、気候変動対応をグローバルに推進する専任部門として、気候変動対応戦略部を新設。ゼロカーボンシティを目指す福島県浪江町において、水素活用社会の実現に向け、水素輸送システムの実証実験に参加したり、サステナビリティ分野やDXなどのデジタル分野を投資分野に含むベンチャーファンドであるWiLVentures III, L.P.に出資したことも発表した。

  • CO2排出量削減に向けた取り組みの例。水素利活用の実証実験にも参加している