Green×Digitalコンソーシアムが、2021年10月19日に設立される。ITおよびエレクトロニクスの業界団体である一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)が中心となり、社会全体でのカーボンニュートラルの実現に向けて、あらゆる業界や業種の企業が集結し、デジタル技術を活用した新しい社会づくりや市場創造を目指すもので、JEITAの会員企業だけでなく、幅広い業界、業種の企業に対して参加を呼び掛けている。

同コンソーシアムの設立の狙いや、今後行われる活動などについて、JEITA事業戦略本部グリーンデジタル室の伊藤潤室長に話を聞いた。

  • JEITAのGreen×Digitalコンソーシアム設立、脱炭素化にデジタル競争力への危機感

    一般社団法人電子情報技術産業協会 事業戦略本部グリーンデジタル室の伊藤潤室長

日本が世界のグリーン市場を牽引できるように活動

Green×Digitalコンソーシアムは、デジタル技術を利活用する事業者で構成する横断的組織として設立。関係省庁や国内外の関連団体などとの連携も進めながら、Green×Digitalによる経済成長の実現に向けた事業環境の整備を推進したり、デジタルを活用した新たな脱炭素化に向けた議論を行う体制を構築したりすることが目的だ。

脱炭素化に向けた具体的な検討テーマに基づく対話や、Green×Digitalで実現する脱炭素社会の将来像の発信、企業などの行動変容につながる新たなソリューションの提案、実証などを行うことになる。

設立の背景にあるのは、政府が掲げた「2050年カーボンニュートラル」への貢献と、IT/エレクトロニクス業界における危機感だ。

政府は2020年10月に、2050年にカーボンニュートラルを実現することを宣言。それを踏まえて、グリーン成長戦略を策定している。また、2021年4月には、2030年度の新たな温室効果ガス削減目標として、2013年度比で46%削減することを目指すとともに、50%の高みに向けて挑戦を続ける指針を示している。

Green×Digitalコンソーシアムは、カーボンニュートラルを目指す上で重要な役割を果たすデジタル技術を活用したソリューションを、創出し、実装することに、民間をあげて取り組む狙いがある。

JEITA 事業戦略本部グリーンデジタル室の伊藤潤室長は、「カーボンニュートラルの達成に向けて、グリーンとデジタルは車の両輪となる。IoTやAIによるエネルギー利用の効率化のみならず、個々の企業、業界ごとの取り組みを連携させ、産業や社会の全体最適を図る上でも、デジタル技術を最大限活用することが期待されている。Green×Digitalコンソーシアムは、環境関連分野のデジタル化や新たなビジネスモデルの創出などの取り組みを通じて、日本の関連産業が、世界のグリーン市場を牽引することができるように活動していくことになる」と、コンソーシアム発足の狙いを語る。

JEITAでは、2021年度の活動方針として、「Green×Digitalによる経済成長の実現に向けた事業環境整備の推進」、「デジタルを使った新たな脱炭素化に向けた議論を行う横断的な体制の構築」を掲げており、Green×Digitalコンソーシアムの設立は、これに則ったものと位置づけることができる。

JEITAはこれまでにも、業界横断でビジネスを創出するための「JEITA共創プログラム」を展開。同プログラムに基づいて、日本が水中光技術で世界をリードすることを目指す「ALANコンソーシアム」、地方自治体との連携により、地域における社会課題をオープンイノベーションで解決する「埼玉県社会課題解決型オープンイノベーション支援事業」、5Gやデジタル技術などを活用して、DXの社会浸透を目的とする「5G利活用型社会デザイン推進コンソーシアム」を発足している。今回のGreen×Digitalコンソーシアムは、JEITA共創プログラムの第4弾となるもので、2021年5月にJEITA内に設置したグリーンデジタル室が窓口となり、発足準備を進めてきた。

「JEITAの部会による活動では、参加が会員会社に限定される。幅広い活動につなげるために、部会の活動とは独立し、JEITA共創プログラムのなかで、コンソーシアムとして活動することにした。半導体や電子機器のほか、鉄鋼、化学、自動車、土木・建築などの製造、鉄道、航空、海運、車両、倉庫などの物流、エネルギー、金融・保険、通信、旅行といったインフラ/サービスなど、幅広い業界の企業に参加してもらうことで、脱炭素化に向けた成功事例を横展開したり、サプライチェーン全体で可視化したりといったことが可能になる」とする。

  • 「Green×Digitalコンソーシアム」の概要

デジタル産業が国際競争力を失うという危機感

では、もうひとつの背景となる日本のIT/エレクトロニクス業界における危機感とはなにか。

実は、米国の巨大IT企業は、約10年前から経営問題のひとつにグリーン戦略を掲げており、その点では日本のIT企業は遅れがある。米マイクロソフトでは、2030年までにカーボンニュートラルを超えた「カーボンネガティブ」の目標を掲げ、米アップルでも、2030年までに、同社の事業そのものだけでなく、製造サプライチェーン、製品ライフサイクルのすべてにおいて、カーボンニュートラルを達成する目標を掲げている。

JEITAの伊藤室長は、「企業活動における環境負荷の把握と証明が、今後の事業継続の命運を握ることになる。実際、時価総額が高い欧米企業の多くは、脱炭素化への動きが積極的である。欧米の企業では、グリーンに対する取り組みが早い時期から進められており、その準備が整った上で、カーボンニュートラルへと踏み出している。このままでは、デジタル化を担う日本のIT企業や、モノづくりを行う日本のエレクトロニクス関連企業が、近い将来、国際競争力を失うことにつながりかねない。そうした危機感が先進企業にはある。IT/エレクトロニクス業界内でも喫緊の課題として議論されることが増えている」とする。

JEITAが、2021年度の活動方針のひとつに、「Green×Digital」を掲げたのも、そうした業界内の危機感が表面化してきたことがあげられる。

今後の事業継続の鍵が、グリーンおよびデジタルへの取り組みであるとすれば、日本の企業はグローバル企業の状況を正しく理解し、それをチャッチアップしていくことが、国際競争力の維持という点でも重要になる。そして、それに伴って、脱炭素化の潮流を経済成長の機会と捉えることが大切であり、グリーンをキーワードとした新しいデジタルビジネスの創出を促すための環境整備が必要となる。

こうした状況に危機感を持った企業の動きが、今回のコンソーシアム設立の背景にあるのは間違いない。

IT/エレクトロニクス業界外からの参加にも期待

Green×Digitalコンソーシアムは、2021年9月9日から参加申し込みを受け付けており、10月12日に締め切りを迎える。現在、10社以上が正式に参加を表明。さらに、多くの企業が参加を検討しており、発足時には、現在の数倍規模に参加企業が増えそうだ。

伊藤室長は、「早期に50社以上の企業に参加してもらいたいと考えている。すでに、IT/エレクトロニクス業界以外の企業の参加も予定されている。全体の2~3割は異業種からの参加を期待しており、JEITA会員企業以外にも積極的に参加してもらいたい」とする。

年会費は、2021年度は無料。2022年度以降は、運営委員会で検討して、決定することになる。

10月19日に設立総会を行うとともに、10月19日からメインイベントが開催されるCEATEC 2021 ONLINEのなかでも、設立総会の様子を公開。開催期間中には、カーボンニュートラルに関する様々なセッションも用意している。また、9月9日からスタートしているプレイベントにおいても、Green×Digitalコンソーシアムの狙いなどについて発信しており、この様子は11月末まで、アーカイブで視聴することができる。

  • コンソーシアム設立に向けた活動。なお、CEATEC 2021で発信した設立趣旨などはアーカイブ視聴できる

コンソーシアムの具体的な活動について、設立総会以降に決定することになるが、JEITAのグリーンデジタル室では、2021年6月から、すでに企業への意見聴取を進めており、ワーキンググループの設置に向けた提案も、早い段階で行われることになりそうだ。

たとえば、多くの企業からあがってきたテーマのひとつが、「サプライチェーン全体のCO2排出量の可視化」である。

企業が環境活動に取り組むには、CO2排出量の可視化が前提となり、それが、事業継続の前提となる。だが、部品や原材料といった川上における排出量データの把握が難しく、現時点では、調達における削減努力が反映されにくいのが実態だ。電子部品メーカーなどか参加するJEITAにとっては、サプライチェーン全体でのCO2排出量の可視化は、避けては通れないものであり、コンソーシアムでは、デジタルの活用によって、サプライチェーン全体でのCO2データの可視化が行える一気通貫のCO2データ共有プラットフォームの構築を目指す姿勢をみせる。ここでは、CO2データの可視化や共有に必要なデータフォーマットの検討なども行い、グローバルでの統一基準への採用も目指すことになりそうだ。

「サプライチェーン全体のCO2排出量を可視化することで、企業が調達先や輸送会社の選定要素として活用したり、妥当性を持った共通指標をもとに、投資家をはじめとしたステイクホルダーからの開示要求にも対応できるようになる」とする。

新たな市場ルールの策定に向けては、世界中の企業や業界団体などと議論を進めていくことになるが、電子部品分野においては、強い存在感を持つ日本が主導権を取る必要があるともいえる。同時に日本の企業が過度に不利にならないように議論し、発信していく必要もある。

「ひとつひとつの企業ではできないような提案も、日本の企業が集まって議論を行うことで、今後の新たな市場ルールを確立していくことができる。また、企業がまとまることで、日本の政府や海外の関連団体などとも強固な結びつきができる。ワーキンググループの活動を通じて、サプライチェーン全体のCO2排出量の可視化をしていくことは、大きな意義がある」とする。

そのほかにも、再エネ利用サービスの普及に向けた事業環境整備や、カーボンゼロデータセンターのコンセプトモデルの検討なども、ワーキンググループの活動に盛り込まれる可能性が高い。

さらに、DigitalによるGreen推進への貢献について情報発信し、日本におけるカーボンニュートラルへの取り組みに関して認知度向上を図るほか、国内外の動向を把握し、ルール形成にも貢献。海外ステイクホルダーとの連携など、グローバルレベルでの活動推進を図る考えであり、情報発信、動向調査、国際協調といった活動も積極化させる考えだ。

政府が策定した「グリーン成長戦略」では、「温暖化への対応が、経済成長の制約やコストとする時代は終わり、国際的にも成長の機会と捉える時代に突入している」ことを指摘。「2050年カーボンニュートラルの実現に向けては、並大抵の努力では実現できず、エネルギー・産業部門の構造転換、大胆な投資によるイノベーションの創出といった取り組みを、大きく加速することが必要である」としている。

このように、世界的な認識が変化していることも、コンソーシアムを通じて発信。カーボンニュートラルの実現に不可欠なデジタルソリューションの提案や、デジタル活用のベストプラクティスの紹介。そして、日本のデジタルソリューション市場の拡大に向けた取り組みも行うことになる。

業界団体として長年の歴史を持ち、これまでにも、様々な領域において、明確に方針決定をもとに、ルール策定や標準規格としての普及活動を行い、製品やツールの活用などによる市場成長へとつなげてきた実績を持つJEITAのノウハウを生かしながら、コンソーシアムとしての活動を活発化させる考えだ。

  • 海外も見据え、コンソーシアムでGreen×Digital推進のための共通課題に対応する

日本のカーボンニュートラル実現にJEITAの役割は大きい

Green×Digitalコンソーシアムの設立の中心が、JEITAであることは大きな意味がある。

たとえば、政府は、グリーン成長戦略において、成長が期待される産業として14分野を選定しており、そのひとつが、JEITAが関連する「半導体・情報通信産業」である。しかも、早い段階から成長が期待される4分野のひとつでもあり、日本全体よりも10年早い、2040年までにカーボンニュートラルを目指すことになる。

そして、半導体・情報通信産業においては、デジタル化によるエネルギー需要の効率化や、省CO2化を実現する「Green by Digital」と、デジタル機器や産業の省エネ化、グリーン化を推進する「Green of Digital」に取り組むことが示されており、この2つのアプローチが、グリーン化を推進する上で常用なキーワードとなっている。カーボンニュートラルの実現において、JEITAは重要な役割を担う業界の団体というわけだ。

だが、理由はそれだけではない。

JEITAは、社会価値や環境価値、経済価値の同時実現を目指すSociety 5.0の推進に取り組む団体であり、ITおよびエレクトロニクス関連機器を生産する企業だけでなく、電子機器や電子部品、ITソリューションサービスを利活用する企業も、業界の枠ほを超えて参加。今年度は、JTBやセコムが副会長会社となっている。Society 5.0の実現に密接に関連し、業界の枠を超えた活動が求められるグリーンへの取り組みには最適化な業界団体といえる。

そして、カーボンニュートラルを実現する上で、エネルギー業界や鉄鋼業界などは、どうしても「守り」の姿勢を取らなくてはならないシーンが多いが、デジタルによる変革を進める役割を担うIT/エレクトロニクス業界にとっては、カーボンニュートラルの推進が、新たなビジネスの創出、想定される課題解決につながり、「攻め」の立場を取ることができる。

そうした点でも、カーボンニュートラルを推進する上では、最適なポジションに位置づけられるのがJEITAであり、産業をまたがる多くの企業が、攻めの環境のなかで、活動を進めていくことができる。

JEITAが中心なって推進されることになるGreen×Digitalコンソーシアムの活動は、日本のカーボンニュートラルの実現に向けて、重要な役割を果たすことになりそうだ。