Googleの研究開発部門であるGoogle Xのイノベーション責任者兼共同創業者のほか、ネスト(Nest)のCTO、Googleヘルスケア部門の副社長などを務めた松岡陽子氏が、パナソニックの子会社であるYohana. LLCの創業者兼CEOとして、新たな事業をスタートした。

30~40代の子育て世代の女性など、働く親を対象に、「こなさねばならない用事(タスク)」への負担を軽減するパーソナルアシスタントサービス「Yohana Membership」を提供。9月9日から、米シアトルにエリアを限定してサービスを開始した。

これを第1弾のサービスとして、今後、事業を拡大していくことになる。「米国で新たなものに挑戦するときには、絞りすぎぐらいの方が成功する。この成果をもとにして、米国のほかの地域にサービスを広げていきたい」としたほか、「様々な国でヒアリングしたが、文化の違いはあっても、働く親が抱える課題は共通である。働く親にとって、夕飯を作ることが一番の課題であることもわかった。日本市場向けにどんなサービスにするかということをしっかり考える時間は必要だが、日本にもニーズはあると考えている」と述べた。

  • Yohana. LLCの松岡陽子CEO

    Yohana. LLCの松岡陽子CEO

松岡氏は、2019年10月にパナソニック入りし、現在、常務執行役員 くらし事業戦略本部長を務めているが、パナソニックの子会社であるYohana. LLCの創業者兼CEOとして、新サービスについても陣頭指揮を執ることになる。

「私自身、4児の母親、妻、高齢の親を持つ娘、そしてCEOとして、山ほどある仕事をなんとかこなしてきたが、コロナ禍により、夫も私も、生活をまったくコントロールできなくなった。何百万人もの女性や家族も同じ経験をしている。技術者として歯がゆく感じたのは、多くのイノベーションがあるにもかかわらず、家族が幸せで、最も良い状態でいられるようにサポートするものが無いこと。そこで、最先端のテクノロジーと人間を融合したソリューションの開発に取りかかった」とし、「将来的には、パナソニックの商品とも組み合わせることで、介護分野や家庭のセキュリティなどの分野にも入っていけるサービスになる」としている。

AIの向こうに「人」がいる、毎日の暮らしのためのYohana

新たにサービスを開始するYohana Membershipは、月額149ドルを支払えば、件数制限なしで、利用者のタスク遂行を支援してくれる。

利用者は、Yohanaアプリのチャット機能を利用して、Yoアシスタントと呼ばれる問題解決のプロフェッショナルに連絡を取り、やりたいことや、やらなくてはならないことを相談。Yoアシスタントは、社内外の様々な分野別エキスパートや専任リサーチャー、地域ネットワークを駆使して、タスクを実行するための手配を行う。

たとえば、家庭内のネットワーク接続の課題解決や、カーペットのクリーニングの対応を頼んだり、友人の誕生日のプレゼントの相談や注文を頼んだりできる。家のメンテナンス、水泳教室をはじめとした子どもの習い事や課外活動の相談、旅行やデートの企画、歯医者や美容室の予約といった自分のための用事など、様々な要望に対して、Yoアシスタントは、最適な専門業者を見つけ、見積もりを取り、作業予定などの手配を行ってくれる。

「利用できるタスクの件数を制限してしまうと、それを気にして使わなくなってしまう。料金は1日5ドル程度。スターバックスのコーヒー一杯分のコストで利用できる」という。

  • スマートフォンのYohanaアプリ

松岡氏も、自ら1年間に渡って実施したフィールドトライアルに参加。「自宅にはガレージがあるが、いつもガレージの外にクルマを止めてしまうため、ガレージが不要だった。子供と一緒に楽しむことができる空間に変えたいと思い、To doリストには書いていたものの、何年も取り組むことができなかった。そこで、フィールドトライアルでは、私のYoアシスタントに、ガレージを子供が楽しめる場所に変えたいと相談した。Yoアシスタントは、様々なオプションを出してくれ、そのなかから映画館のようにして、ポップコーンを食べながら、子供たちと楽しんだり、友人が遊びに来た時に使えるようにすることに決めた」という。

また、「少しカビ臭いという話をしたら、Yoアシスタントが専門家に相談をして、私のスケジュール表に点検の予定を入れてくれた。専門家が家にやってきて、水漏れしていることやシロアリがいることを発見し、ガレージを改装する前に、修理や駆除をしてくれた。さらに、改装についても、多くの費用をかけるものから、手軽にできるものまで、いくつものオプションを用意してくれた。私は、手軽にできるほうを選び、設置する家具などは子供たちと一緒に作りあげることにした。自分ではできなかったことが、周りの人が動かしてくれることで実現できた」とする。

そして、「私たちの周りには、やらなくてはいけないが積み重なりがちなタスク、後まわしになってしまうタスク、やりたいけどできないタスクという3つの要素がある。だが、Yohana Membershipによって、すべてのTo doを、1人で負担する必要が無くなる。また、1週間が忙しすぎて、週末にやることを考える時間がなかったといった場合にも、Yoアシスタントがプロアクティブに週末のプランを提案してくれる。こうしたTo doリストにはないこともでき、大切なことに使える時間を増やすことができる」とする。

  • アプリのチャット機能を利用して、契約した専門家に課題解決を相談できる

Yoアシスタントは、利用者ごとにつき、長期的に渡って、信頼と人間関係を築くことができる点が特徴だ。また、タスクの進捗状況は、利用者とYoアシスタントの双方がYohanaアプリで確認でき、タスクの実行に一緒に取り組むことができる。

さらに、Yoアシスタントは、データシステムと直感的なツールを利用して、完了したタスクを学習することで、利用者の好みに合わせた解決策の提案ができるようになり、蓄積されたデータとAIを活用して、短期間に、効果的なタスク完了に取り組むことができる。子供の洋服の購入の際にも、好みやサイズを理解していたり、スケジュールや行きつけの美容院、好きなブランドなども理解して、毎日をサポートするという。

「私が事業を開始すると、すべての解決をAIでやるのではないかと思われるが、Yohanaアプリの向こうには、実際の人がいる。AIでは、音楽をかけてくれたり、アラームをかけてくれたり、ゲームを一緒にしてくれたりするが、毎日の苦労を解決したり、手伝ってくれたりはしない。それができないのは、AIがテクノロジーとして、そこまで届いていないからである。10年後も、AIがすべてを解決する環境にはならないだろう。AIと人をつなぎ、AIと人が、それぞれに活かせるところは、それぞれに活かしていく。この関係は、しばらくの間、続くことになるだろう。Yohana Membership では、AIスマートツールを利用して、Yoアシスタントをスーパーヒューマンになれるようにしている。そして、その後ろにもプロフェッショナルの人がいる。それがこのサービスの特徴である」とする。

Yoアシスタントは、フルタイムでの社員としての雇用や、兼業を含めた契約により採用。実際に作業などを行うプロフェッショナルは、専門家のネットワークとして構築するYoネットワークに加盟してもらい、Yohanaは紹介手数料を得る。

「米国では、紹介手数料を得る仕組みが定着している。プロフェショナルやサービス事業者、ビジネスパートナーから紹介手数料を得ることができるため、利用者には低料金でサービスを提供できる」とした。

まずは小さく、パナソニック本体との協業でスケールを生み出す

松岡氏が経営を担うYohanaは、働く親とその家族が、家族全員の幸せを最優先し、お互いと向き合う時間を大切にするためのサポートに特化した、新しいウェルネス企業だと位置づける。

「To doを手伝ってくれるだけでなく、そこで得られた時間によって、身体に余裕ができ、家族全員のウェルネスにつながることが大切である」とし、「暮らしを良くすることが私のミッションだと思っている。パナソニックはグローバルの会社であり、それを実現することができる1社である。パナソニックと一緒にできることにワクワクしている」とする。

  • Yohana. LLCは家族全員の幸せを最優先する「新しいウェルネス企業」だという

パナソニックとの関係は、独立している部分と、協業していく部分があるという。

「独立しているという部分では、これまで、パナソニックが米国内で行っているサービスはないため、Yohanaが独自に事業を展開していく点があげられる。一方で、パナソニックのアプライアンス社やライフソリューションズ社とは、話し合いの機会を多く持っている。まずは、スモールスタートで、米国からスタートし、人に役立つものを作りたい。将来、パナソニクッとのコラボレーションすることで、スケールするものが生まれることになる。最初のゴールは、Yohana Membershipの利用者が、このサービスがないと困る、生活ができないと思ってもらったり、なにかをやらなくてはいけないときに、最初にYohanaを考えてもえたりするようになること。それができれば、会員数は増える。悩みや課題を、人とテクノロジーに助けてもらうことで、生活が豊かになるという仕組みを広げたい。いまは、スターティングポイントであり、小さい発表からも知れないが、夢は大きい」と語る。

現時点では、具体的な事業目標などは明らかにしていないが、パナソニックグループが展開する新たな事業形態として、その取り組みが注目される。