セイコーエプソンの大容量インクタンク搭載インクジェットプリンターの世界累積販売台数が3,000万台に達した。そして同社は、今後も大容量インクタンクモデルの販売をさらに加速させる姿勢をみせる。

2018年度には販売総数の55%が大容量インクタンク機

セイコーエプソンは、2018年度の基本戦略として、従来のインクカートリッジモデルから大容量インクタンクモデルへの転換をさらに加速させる計画を明らかにしており、2018年度の年間販売計画は、前年比20%増の950万台。これは、同社のインクジェットプリンター販売総数の約55%を占めることになる。

2017年度実績は、50%弱としていた構成比は、いよいよ2018年度には過半数を突破。名実ともに、大容量インクタンク搭載プリンターが、エプソンのインクジェットプリンター事業の主軸になるというわけだ。

  • エプソンのインクジェット事業、ついに大容量インクタンク機が主軸に

セイコーエプソン 取締役 執行役員 経営管理本部長の瀬木達明氏は、「欧米などの先進国においても、2018年度には2割弱を大容量インクタンク搭載プリンターモデルが占めることになる。日本でも、2018年度には2割弱にまで引き上げ、今後、当社インクジェットプリンターの主流に位置づけたい」とする。

セイコーエプソン 取締役 執行役員 経営管理本部長の瀬木達明氏

大容量インクタンク搭載インクジェットプリンターは、2010年10月に、インドネシアで発売したのを皮切りに、2017年度には、販売エリアを約150の国と地域にまで拡大。低プリントコストに加えて、使い勝手を向上させた製品を投入するなど、ラインアップを強化。大容量インクタンク方式の先駆けともいえるエプソンが、この分野では、圧倒的な世界ナンバーワンシェアを獲得している。

日本でも大容量インクタンク搭載プリンターのラインアップを強化しており、最大の需要期となる昨年の年末商戦でも、テレビCMでの積極的な訴求と、量販店店頭での展示に力を注いでいた。昨年は、日本における大容量インクタンク搭載プリンターの攻勢はわずか数%であり、残りの90%以上を占めるインクカートリッジプリンタの訴求はほとんど行わないという異例のマーケティング手法を用いていた。同社のコメントなどを聞くと、今年も同様の手法が取られるのは明らかだ。

ビジネスモデルを変え、台数減も増収

セイコーエプソン 取締役 専務執行役員 プリンティングソリューションズ事業部の久保田孝一事業部長は、「大容量インクタンク搭載インクジェットプリンターは、レーザープリンターやインクカートリッジ方式のプリンターと比較して、印刷コストやインク交換の手間がかからず、環境負荷も低いことから、お客様に安心して印刷していただける製品」とし、「エプソンはプリンターのビジネスモデルを変革し、世界中のお客様が豊かな創造性と高い生産性を発揮できる、快適な印刷環境を届けたい」とする。

先頃、セイコーエプソンが発表した2018年度第1四半期決算でも、大容量インクタンク搭載プリンターの好調ぶりが示された。

前述の瀬木氏は、「大容量インクタンク搭載プリンターは、2018年度第1四半期の結果を見ても、好調に推移している。年間950万台の目標に向けて、順調なスタートを切った」とし、「競合他社も、大容量インクタンク搭載プリンターを投入してきたが、エプソンは、40機種以上のラインアップを持っていること、高い耐久性を持つエプソン独自のマイクロピエゾの優位性もあり、製品競争力が高い。レーザープリンターからの置き換えも増えているが、インクジェット同士の戦いに持ち込んでも勝てる」と自信をみせる。

  • 2018年度第1四半期のプリンター事業の実績

同社の第1四半期におけるプリンターの売上高は、前年同期比12億円増の1,163億円。この成長のベースになっているのは、やはり大容量インクタンク搭載プリンターだ。

「ビジネスモデルを変革させる戦略で販売した結果、大容量インクタンク搭載プリンターが、新興国、先進国ともに伸張し、大幅な増収になった」と説明する。

新興国での販売がさらに拡大していることに加えて、すでに、欧州、米国では、2割近い構成比にまで拡大しているという。「今年は先進国での展開を強化していく考えだが、当初の計画よりも進んでいる状況にある」とする。

大容量インクタンク搭載プリンターの好調ぶりは、インクカートリッジモデルでのビジネスにも変化を与えている。

瀬木氏は、「インクカートリッジモデルは、価格維持施策によって販売が減少している」と前置きしながらも、「今年度は、他社のキャンペーンに追随するといった過度なことは行わない」として、インクカートリッジモデルで他社が仕掛ける価格戦略には対抗しない姿勢をみせる。

これが、結果として、プリンター事業の収益性の改善につながっているのだ。

「過度な戦いは避け、価格維持施策を堅持したことで、販売台数は減少しているが、プリンター本体合計では増収になっている」という。

インクカートリッジで収益を得るビジネスモデルに変化

欧米では、現在も、競合他社のインクジェットプリンターのプロモーションが継続しているが、エプソンは、これに対しても過度な対応は行っていないという。

実は、プリンターの最大の商戦期が含まれる2017年度第3四半期(2017年10~12月)に、エプソンは、競合他社のキャンペーンに対抗する形で、価格対応を図った。だが、このときに、低価格でプリンタを購入したユーザーは、大量に印刷するという用途よりも、年賀状印刷などのスポット利用が多く、インクカートリッジの追加購入が少ない傾向があるという。

本体を低価格で販売して、インクカートリッジで収益を得るモデルが、インクカートリッジモデルの収益構造だが、過度な低価格キャンペーンを打っても、本体購入後にはインクカートリッジを購入せず、収益を得にくいユーザーばかりが増えても収益構造を悪化させるだけだ。

エプソンは、大容量インクタンク搭載モデルという新たなビジネスモデルを構築したことで、インクカートリッジモデルでは無理な仕掛けをせずに済むというわけだ。

「第1四半期には、インクカートリッジそのものの販売数量は、前年同期比7%減となっており、とくに西欧では想定以上に落ちている。インクカートリッジモデルで過度な戦いは避けて、無理な仕掛けをしないことと、その一方で、大容量インクタンク搭載プリンターの販売が増加していることが、インクカートリッジそのものの販売数量の減少に影響している」という。

インクカートリッジの販売が減少したため、インク全体では減収となっているが、インクの下振れを、大容量インクタンク搭載プリンターがカバーしている格好だ。

  • インクカートリッジの販売減を、大容量インクタンクでカバーする格好に

エプソンは第1四半期においては、前年同期に比べて広告宣伝費や販売促進費を増やしているが、これは大容量インクタンク搭載プリンターをはじめとする戦略製品のプロモーション強化のための費用である。

また、在庫の回転日数は、2018年3月には74日間だったものを、2018年6月には83日間に増やしている。これも、大容量インクタンク搭載プリンターの在庫を増やしているのが要因だ。「部材確保が予想以上にスムーズであり、それが在庫の増加にもつながっているが、今後の大容量インクタンク搭載プリンターの販売拡大に向けて貯めているところである」と説明する。

今年の年末商戦、競合にも動きが

では、今年の日本の年末商戦では、どうなるのだろうか。

エプソンは、昨年同様、大容量インクタンク搭載プリンターの訴求を中心にする施策になりそうだ。年末年始に恒例となっているキャッシュバックキャンペーンにも、積極的には追随しない可能性も高い。

だが、対抗するキヤノンも、価格重視のキャンペーンや低価格モデルの販売には慎重な姿勢を、いまからみせている。

キヤノンマーケティングジャパン(キヤノンMJ)が発表した2018年度上期(2018年1~6月)連結業績の会見のなかで、同社の松阪喜幸 取締役 専務執行役員は、「キヤノンは、大容量インクタンク搭載プリンターやビジネスインクジェットプリンターでは出遅れている」と前置きしながら、「ホームプリンターでは、年賀状での利用を含めて、ドキュメントボリュームが減っている。やみくもに台数シェアを追うのではなく、高付加価値モデルへのシフト、大容量インクタンクモデルへのシフトを行っていく」とする。

こうしたコメントを聞く限り、例年通り、各社のキャンペーンが実施されたとしても、その内容は少し変化しそうだ。

そして、今年の年末商戦においては、大容量インクタンク搭載プリンターで先行するセイコーエプソンの手の打ち方が、市場動向に大きな影響を与えることになりそうだ。

果たして、セイコーエプソンは、今年の年末商戦に、どんな手を打ってくるのだろうか。大容量インクタンク搭載プリンターを前面に打ち出したエプソンの戦略が、市場競争にどんな影響を与えるかが注目される。

大河原克行

1965年、東京都生まれ。IT業界の専門紙「週刊BCN(ビジネスコンピュータニュース)」の編集長を務め、2001年フリーランスジャーナリストとして独立。電機、IT産業を中心に幅広く取材、執筆活動を行う。著書に「ソニースピリットはよみがえるか」(日経BP社)、「松下電器 変革への挑戦」(宝島社)など。