オッポは、2021年12月14日より開催された自社イベント「OPPO INNO DAY 2021」で折り畳み型スマートフォン「OPPO Find N」などを発表しましたが、注目されたのは「MariSilicon X」というAI技術を活用した画像処理チップです。MariSilicon Xの開発で、オッポは何を狙っているのでしょうか。

折り畳みスマホだけではないオッポの新技術

スマートフォンの世界出荷台数シェアで5本の指に入る中国のオッポは、最近日本でも低価格のスマートフォンを中心として人気を高めています。そのオッポは毎年、自社の新技術を紹介するイベント「OPPO INNO DAY」を開催しており、2021年は12月14日より2日間にわたってオンラインで開催されました。

そこで発表されたものはいくつかあるのですが、大きな注目を集めたのはやはりスマートフォン新機種の「OPPO Find N」でしょう。OPPO Find Nは外側に5.49インチ、内側に7.1インチのディスプレイを備え、ディスプレイを直接折り畳むことができるスマートフォンです。

  • オッポが中国向けの発売を発表した「OPPO Find N」。折り畳んだ状態で5.49インチ、開くと7.1インチのディスプレイが利用できる折り畳みスマートフォンだ

折り畳みスマートフォンといえば、韓国サムスン電子の「Galaxy Z」シリーズなどが先行していますが、OPPO Find Nはそれらをかなり研究して開発したことがうかがえます。実際OPPO Find Nは、ディスプレイを折り畳むヒンジ部分に空間を設けることで折り目を最小限に抑える構造とし、Galaxy Zシリーズで気になるとの声も多いディスプレイの折り目を目立たなくしています。

  • 独自開発のヒンジによってディスプレイの折り目を抑え、開いた時の画面にヒンジ部分の筋が目立たないのが大きな特徴となっている

それでいてOPPO Find Nは、50~120度の間で画面を開いた状態で固定することも可能で、画面を折り曲げた状態で分かれる2つの画面を有効活用できる仕組みを備えています。また、開いた状態で画面を分割する際にも面倒な操作が必要なく、2本の指で中央を下にスワイプするという簡単な操作で分割できるなど、インターフェースにも工夫が凝らされているようです。

もう1つ驚きをもたらしたのが価格です。中国での販売価格が7699元(約137,000円)と、縦折り型のスマートフォンとしてはかなり安価な値付けがなされたことも、大きな注目を集めた要因といえるでしょう。

ですが、そうした具体的な製品以外にも注目を集めたものがあり、それが「MariSilicon X」です。これは「イメージングNPU」、要は写真や動画を撮影する際の画像処理を担うチップなのですが、NPU(Neural network Processing Unit)とある通り、AI技術の活用に力が入れられているのが大きなポイントとなっています。

  • オッポが独自開発した「MariSilicon X」。AI処理を大幅に強化した画像処理チップで、従来より高度なコンピューティショナルフォトグラフィーを実現できるという

最近のスマートフォンのカメラは、主としてAI技術を活用した画像・映像のソフトウェア処理「コンピューティショナルフォトグラフィー」で、簡単かつきれいな撮影ができるようになっています。MariSilicon Xは、そのAI処理を高速化するNPUを画像処理チップに直接搭載することで、写真のRAWデータにリアルタイムでAI処理を施したり、4K映像のナイトモード撮影を可能にしたりするなど、非常に高度な撮影を可能にするとしています。

このMariSilicon Xは、2022年第1四半期に発表されるオッポのフラッグシップシリーズ「Find X」の新機種に搭載される予定とのこと。MariSilicon Xの搭載で、カメラの機能・性能向上をどのように実現するのかが大いに注目されますし、Find Xシリーズは日本でも継続的に投入されていることから、日本での発売も期待できます。

  • MariSilicon Xは、2022年の「Find X」新機種に搭載される予定とのこと

注目高まる「SoC」の自社開発への布石か

ですが、ここ最近のスマートフォン業界の動向を追っていると、オッポがこのタイミングでMariSilicon Xを発表したことは非常に大きな意味があると考えられます。それは、MariSilicon Xがオッポ独自のSoCの開発につながる可能性があることです。

SoCはCPUやGPU、モデムなどのさまざまな機能を1つにまとめたチップセットで、現在のスマートフォンでは心臓部分となっているもの。そしてスマートフォン業界では、ここ最近そのSoCを巡る動向に大きな関心が寄せられています。

そのことを示したのが、グーグルが「Pixel 6」シリーズ向けに開発したSoC「Tensor」です。グーグルはこれまで、自社製のスマートフォンにはクアルコム製の汎用SoCを採用してきましたが、Pixel 6シリーズではグーグルが得意とするAIを活用した写真や音声認識などの機能を強化するため、AI処理に長けたチップセットを自社で独自に開発したことで大きな注目を集めました。

  • 「Pixel 6」シリーズに搭載されたグーグル独自のチップセット「Tensor」。大幅に強化されたAI処理性能を生かし、高度な写真撮影や音声認識などを端末単体で実現した

そしてこの動きは、スマートフォンの新たな差異化要素として、SoCが重要になってきたことも示しています。これまで、スマートフォンの差異化要素といえばディスプレイやカメラでしたが、市場飽和が進む現状ではそれだけでの差異化が難しくなっているのも事実です。

そこで、新たな差異化要素として浮上してきたのがSoCなのです。汎用のSoCを使っている限り、他社のスマートフォンと性能的に大きな違いを打ち出すことはできませんが、自社開発のSoCであれば、グーグルのように強みを持つ技術に重点を置いた設計が可能となり、他社との明確な独自性を打ち出せるようになるからです。

これまでにも、アップルが独自のSoC「A」シリーズを開発して違いを打ち出してきたほか、ファーウェイ・テクノロジーズも米国からの制裁を受ける前は、独自の「Kirin」シリーズを傘下企業で開発し、差異化を進めてきました。そして、グーグルがTensorでSoCによる差異化を明確に打ち出してきたことから、今後はSoCが新たな競争軸の1つになるとみられるわけです。

もちろん、現在のMariSilicon Xはあくまで画像処理用のチップであり、SoCではありません。ですが、MariSilicon Xを取り込んだSoCを開発できれば、コンピューティショナルフォトグラフィーを大幅に強化し、他社との違いを明確に打ち出せるだけに、今回の動きがSoCの自社開発という動きにつながる可能性が高いと見る向きは多く、今後の同社の動きが注目されます。