再編が進み各社のキャンペーン施策も落ち着いてきた、QRコード決済を主体としたスマートフォン決済サービス。ここ最近、そのスマートフォン決済事業者が、消費者ではなく店舗に向けたサービス強化を相次いで打ち出し、注目されているようです。そこには、中小店舗に向けた決済手数料の無料キャンペーンが終了することが大きく影響しているのですが、各社の戦略と狙いには大きな違いがあるようです。

決済手数料無料が終了で現金回帰の可能性も

ここ数年来大きな盛り上がりを見せてきた、QRコードを用いたスマートフォン決済サービス。2019年には各社が大規模キャンペーンを乱発したことで、2020年にはそのキャンペーンで疲弊した事業者の買収・提携などが相次ぎ、急速に再編が進んだことで注目されましたが、2021年は、また別の角度から大きな注目が集まっているようです。

それは消費者ではなく、スマートフォン決済サービスを導入する店舗側に関する動きです。スマートフォン決済各社は、サービスを本格展開し始めた2018年ごろ、大規模なチェーン店だけでなく、なかなか進んでいなかった中小、あるいは個人運営の小規模店舗のキャッシュレス化を推し進めるべく、中小店舗に向けた決済手数料の優遇策を打ち出していました。

それは、中小の店舗に対し、QRコード決済の手数料を3年間無料にするというもの。中小店舗がキャッシュレス決済を導入しない最大の理由とされているのが決済手数料の存在で、クレジットカードなどで一般的な3%前後の決済手数料がかかるだけで利益がほとんど出なくなるケースが少なからずあることから、店舗側の負担を軽減しながらもサービス導入を進めてもらうべく、各社は手数料無料化に踏み切ったわけです。

  • スマートフォン決済各社はMPM方式(客が店頭に掲示されているQRコードをスマートフォンで読み取って決済する方式)でサービスを導入した中小店舗に対し、3年間決済手数料を無料にするキャンペーンを実施していたが、2021年にはそれが終了してしまう

それが功を奏し、中小の店舗にもスマートフォン決済の導入が進んだというのは多くの人が感じているのではないかと思います。ですが、それから3年が経過した現在、各社のキャンペーンが終了し、決済手数料の徴収が始まってしまうのです。先にも触れた通り、中小店舗は決済手数料を徴収されると商売そのものが厳しくなってしまうことから、無料キャンペーン終了と同時にスマートフォン決済の利用を止め、現金に回帰する店舗が増えることが懸念されているのです。

とはいえ、スマートフォン決済を提供する側も、手数料を徴収しなければビジネスが成り立たないだけに、いつまでも無料キャンペーンによる大盤振る舞いを続けるわけにもいきません。それだけに、手数料の徴収を開始しながらも、どうやって店舗側にサービス利用を継続してもらうかという各社の取り組みが注目されていたのです。

有料サービスに活路見出すPayPay、楽天ペイは逆張り戦略

とりわけ中小店舗を積極的に開拓してきたソフトバンク系の「PayPay」は、2021年8月19日に無料キャンペーン終了後の新たな施策を打ち出しています。その1つは、決済手数料を従来より大幅に低い水準に引き下げるというもので、無料キャンペーンが終了する2021年10月1日以降の決済手数料を取引金額の1.98%(税別)にするとしています。

ですが、より大きな施策となるのが「PayPayマイストア ライトプラン」の提供です。これは、PayPay上で店舗の情報を発信したり、独自のクーポンやスタンプカードを発行したりできるマーケティングツールで、月額1,980円(税別)で利用できるというものです。

  • PayPayは独自の店舗向けマーケティングサービス「PayPayマイストア ライトプラン」を有料で提供。PayPay上で顧客への情報発信やクーポンの発行などができるという

しかも、PayPayマイストア ライトプランに加入している店舗に対しては、決済手数料を取引金額の1.60%(税別)へと、さらに引き下げるとしています。PayPayとしては、店舗側が嫌う決済手数料を可能な限り引き下げる一方、店舗側のメリットとなる有料サービスを提供することにより、そちらの収益から決済手数料を補おうとしている狙いが見て取れます。

  • PayPayマイストア ライトプラン加入店舗は、決済手数料を1.98%からさらに引き下げ、1.60%にするとしている

一方で、逆にこれから無料キャンペーンを始めようというのが楽天グループ系の「楽天ペイ」です。楽天ペイを運営する楽天ペイメントは8月25日、中小の新規加盟店に向けて決済手数料を1年間無料にするキャンペーンを実施すると発表しています。

これは、同社のWebサイトから申し込んだ年商10億円以下の店舗に対し、MPM方式でのQRコード決済の手数料を上限なしで全額キャッシュバックすることにより、実質0円にするというものです。

  • 楽天ペイは各社が無料キャンペーンを終了するタイミングで、新規に加盟した店舗に対して1年間、QRコード決済の手数料を実質0円にするキャンペーンを実施する

楽天ペイは、ポイントを軸とした「楽天経済圏」で獲得した忠誠心の高い顧客がその利用を支えてきたこともあって、消費者や店舗に向けてもあまり大規模なキャンペーンを実施したことがありませんでした。他社が決済手数料無料キャンペーンを続ける中にあって、楽天ペイは中小の加盟店からも取引金額の3.24~3.74%という決済手数料をしっかり徴収してきたのです。

ですが、他社が無料キャンペーンを終了する今からキャンペーンを実施すれば、1年間は確実に優位性を保てる。それだけに楽天ペイ側はこのタイミングを絶好の好機と見てキャンペーンを実施、攻めに打って出たといえそうです。

しかしながら、「au PAY」を提供するKDDIはその5日後となる8月30日に、9月末で終了するとしていた決済手数料無料キャンペーンを1年間延長すると発表し、楽天ペイをけん制する動きに出ています。NTTドコモも、「d払い」の新規加盟店の決済手数料を2022年9月末まで無料にすると発表しました。決済手数料を巡る各社の争いと試行錯誤は、まだしばらく続くことになりそうです。