9月末、KDDIがauブランド向けの5G対応スマートフォン6新機種を発表しました。そのラインナップを見ると、サムスン電子製のGalaxyシリーズが4機種と多いうえ、話題の折り畳みスマートフォンはauの独占販売となるようです。KDDIは、なぜサムスン電子との関係を近づけているのでしょうか。
5G新機種の過半数がサムスン製、au独占販売も増加
秋冬商戦に向けた動きが活発化している昨今ですが、携帯大手の中では先陣を切って、KDDIが9月26日に「UNLIMITED WORLD au 5G 発表会 2020Autumn」を開催。5Gのさらなる普及に向けた端末やサービス、料金プランなどを発表しました。
なかでも多くの人が注目するのは、やはりスマートフォンの新機種ではないでしょうか。KDDIは、今回の発表会に合わせて新しい5Gスマートフォン6機種を発表。しかも、今後投入するスマートフォンはすべて5G対応にすると表明しました。
KDDIは、コロナ禍による店舗の営業時間短縮や、2019年の電気通信事業法改正によるスマートフォン値引き規制などの影響から、5Gのスマートフォン販売が大きく伸び悩んでいるとしています。それだけに新しい端末、そして今後のラインナップからは、KDDIがいかに5Gの早期普及を実現したいかという意気込みを見て取ることができます。
ですが、今回の新端末のラインナップを見ると、6機種中シャープとソニーモバイルコミュニケーションズが1機種ずつで、残り4機種がサムスン電子製のGalaxyシリーズと、サムスン電子製の端末が明らかに多いことが分かります。2020年3月の5Gサービス開始時に発表したラインナップは、これらの3社に加えて中国メーカー製の端末も多く取り入れられていましたが、今回は中国メーカー製端末の採用がなかったことも、サムスン電子製端末の多さを際立たせています。
ここ最近のKDDIの動向を見ると、サムスン電子製のスマートフォンをかなり積極的に取り扱っているようにも見えます。実際、2019年には、話題になった折り畳みスマートフォン「Galaxy Fold」を独占販売していますし、2020年に入ってからも「Galaxy Z Flip」「Galaxy S20 Ultra」といった大きな特徴を持つ高額な端末を、やはりau独占で販売しているからです。
携帯大手3社が採用と販売を巡って激しい競争を繰り広げた「iPhone」を提供するアップルを除けば、特定のスマートフォンメーカーと携帯電話会社がここまで密接な関係を持つケースはあまり多くありません。なぜKDDIは、サムスン電子の端末を積極採用して関係を強化しようとしているのでしょうか。
背景にある5Gインフラと米中摩擦
そこには、大きく2つの理由があると考えられます。1つは、サムスン電子との関係がスマートフォン端末だけではないということです。
実はKDDIは、3Gでは米国や韓国で多く利用されていた「CDMA2000」という通信方式を採用しており、そのころからサムスン電子製の基地局設備を導入しています。その関係は4G、そして5Gでも続いており、KDDIは5Gでエリクソンとノキアだけでなく、サムスン電子製の基地局の採用を打ち出しているのです。
そして両社は、5Gでの実証実験や技術検証などにも積極的に取り組んでいるようです。最近も、5Gのスタンドアローン構成におけるエンド・ツー・エンドでのネットワークスライシングの実証実験に成功したことを9月30日に発表しています。
つまり、KDDIはサムスン電子の端末とネットワークの双方を採用していることから、先行する韓国などで5Gの知見を持つ同社と、5Gの早期普及に向けてより関係を深め、協力を得たい考えているわけです。サムスン電子にとっても、端末事業は世界シェア1、2位を争う大手である一方、通信機器関連事業のシェアは小さいことから、日本で大手の一角を占めるKDDIとの関係を深くすることで、5Gの通信機器販売拡大につなげたい狙いがあるといえるでしょう。
そしてもう1つ、米中摩擦も大きく影響していると考えられます。中国のファーウェイ・テクノロジーズなどへの制裁で、米中摩擦の影響が通信産業にも大きな影響を及ぼしているのは多くの人がご存知かと思いますが、両国の対立は深まるばかりで改善の兆しは見られず、影響は当面続くと見られています。
価格重視で中国メーカーのラインナップを増やしたKDDIも、中国企業への依存度を容易に高めるわけにはいかない状況にあります。それだけに、米中対立の影響を受けにくい韓国メーカーであり、なおかつ5Gの豊富なラインナップを持つサムスン電子との距離を近づけたいというのが、KDDIの思うところではないでしょうか。
ただ、日韓関係も決して良好とはいえない状況にあることから、サムスン電子への依存度を高めることには一定のリスクがあるかもしれません。ですが、国内メーカーの体力が弱まり選択肢が年々少なくなっているなか、5Gの拡大に向けては海外、なかでも高いシェアを持つ韓国や中国の企業に端末などの調達を頼らざるを得ないのも事実であり、KDDIとしてはある意味で悩ましい判断といえるのかもしれません。