KDDIは2024年2月6日、三菱商事やローソンと資本業務提携を実施し、公開買付けによってローソン株式の半数を取得、三菱商事と共同運営することを明らかにしました。通信会社のKDDIがコンビニエンスストアであるローソンの経営に参画することで、何を実現しようとしているのでしょうか。

「リモート接客」でローソンの事業領域を拡大

2024年2月6日、通信大手のKDDIがコンビニエンスストア大手のローソンの経営に参画するという発表がなされ、大きな驚きをもたらしました。KDDIはローソン、そしてローソンの親会社である三菱商事と資本業務提携を締結、KDDIが約4,971億円を費やしてローソン株式の公開買付けによって50%の株式を取得し、同じく50%の株式を保有する三菱商事とローソンを共同経営する予定だとしています。

  • 三菱商事、KDDI、ローソンは2024年2月6日に記者説明会を実施。KDDIが公開買付けでローソンの株式50%を取得し、経営に参画することとなる

ですが、ローソンはコンビニエンスストア、ひいては流通小売業であり、通信事業を主とするKDDIにとってはまったくの異業種となります。確かにKDDIはここ最近、子会社のauフィナンシャルホールディングスを立ち上げて金融事業に力を入れるなど、通信以外の事業にも力を注いでいるようですが、それらはスマートフォン上で利用できるサービスの充実を図り、顧客の囲い込みを図る狙いが強いものです。

とはいえ、コンビニエンスストアは決済やデリバリーなどの部分でスマートフォンとの連携は可能である一方、実店舗がビジネスの根幹となるだけに完全にオンライン化することは難しいでしょう。一方で、KDDIの経営参画により「auのコンビニ」という印象が強まってしまえば、NTTドコモやソフトバンクなど競合の顧客がローソンに訪れなくなり、顧客減少にもつながりかねません。

そもそも、ローソンの共同経営を持ちかけたのは三菱商事側であるようですが、KDDI側も5,000億円近い巨額の投資をしてその誘いに乗る決断をしたのもまた確か。それだけに、KDDIがどこに商機を見出したのかは非常に気になります。発表と同日に実施された説明会で、KDDIとローソンの両社から説明がなされた内容を確認するに、とりわけKDDI側にとって大きな狙いとなっているのが、1つに「リモート接客」の実現です。

これは、店頭に設置した何らかの端末を通じ、さまざまなサービスやサポートをビデオ会議のようなリモートスタイルで提供するもの。KDDIの事業に関連するものとしては「auショップ」で実施しているスマートフォンのサポートや、「auじぶん銀行」「auカブコム証券」など金融サービスの相談などを提供することが考えられますが、説明会では服薬指導サービスの展開なども検討がなされているようで、KDDIだけによらない幅広いサービスにリモート接客を活用し、ローソンの事業領域を広げていきたい様子です。

  • KDDIの経営参画により、ローソンは「リモート接客」の提供を検討。専門知識が求められるサービスを全国のローソン店舗で提供するのが大きな狙いとなるようだ

スマートフォンのサポートや金融サービス、服薬指導などは、サービスを提供するうえで専門的な知識が必要ですが、その分対応できる人が少なく、全国に人員を配置するのは難しい状況です。そこで、全国におよそ14,600店舗を有するローソンとリモート接客を活用することで、そうした専門知識の必要なサービスを少ない人数で全国に展開しやすくする、というのが大きな狙いとなるようです。

確かに、リモート接客は従来のローソンにはないサービスなので、顧客に受け入れられればローソンの付加価値向上とビジネスの成長につなげられる可能性があるでしょう。また、リモート接客を実現するにはネットワークとデジタル技術が必要なだけに、KDDIの強みを発揮しやすいといえます。

世界的に飽和の通信市場で攻めるための策

そしてもう1つが、リモート接客などデジタル技術と通信を取り入れた新しいコンビニエンスストアの形態を、海外にも展開していくことです。ローソンは、アジアを中心とした海外展開にも力を入れており、さらなる成長に向けてデジタル技術を活用した新しいコンビニエンスストアの形態を、国内で実績を作ったうえで海外展開していきたい考えのようです。

ですが、海外で通信とデジタル技術を活用したサービスを展開するには、それらに長けた現地パートナーが必要となってきます。その点KDDIは、通信サービスだけでなくデータセンターやIoTなどで海外に多くの拠点を有していることから、ローソンにとってそれらのリソースを活用して海外展開を進められる点は大きなメリットとなるでしょう。

  • ローソンは「Global Real×Tech Convenience」を掲げ、デジタル技術を活用した新しい店舗の海外展開に積極的な様子を見せている

一方、KDDIから見た場合、本業の通信事業、とりわけコンシューマー向けのモバイル通信事業はスマートフォンの普及が世界的に進んだことで飽和傾向にあり、海外の通信会社を買収したり、新たに設立したりしたとしても大きな成長につなげるのは難しい状況にあります。海外に事業を拡大して成長するためには従来とは異なる戦略が求められており、KDDIが力を入れているのが通信を活用した法人向けソリューションビジネスです。

実際KDDIは、コネクテッドカーなどに向けたIoT向け通信基盤で世界展開を推し進め、それが海外事業の大きな柱の1つとして成長を支える要因となりつつあります。そうしたことから、ローソンと協力して新しいコンビニエンスストアの海外展開を積極化することで、小売店舗に向けたソリューションの開拓を推し進め、海外事業の新たな成長要素にしたいというのがKDDIの本音といえそうです。

  • KDDIは、海外での事業拡大にあたって法人向けの通信ビジネスを強化しており、とりわけコネクテッドカーを主体としたIoT向け通信基盤サービスは好調に伸びているという

ただ、KDDI以外の通信事業者が、この動きに追随する動きは現時点では見られません。実際、この発表のあとに開かれた競合各社の決算説明会でも、ソフトバンクの代表取締役社長執行役員兼CEOである宮川潤一氏は「僕がやりたいことと違うと感じている」と話すほか、日本電信電話(NTT)の代表取締役社長である島田明氏も「我々自体がコンビニに出ていくとは考えていない」と話しています。

通信とデジタル技術を活用したサービスやソリューションは経営に深く関与しなくても実現できるし、小売事業者向けの施策を特定の企業に絞ることが事業の幅を狭めることにつながりかねない、というのが競合側の考えであるようです。それだけにKDDIは、ある意味非常に大きな賭けに出たと見ることもでき、今後の取り組みとその成否が大いに関心を呼ぶと思われます。