人工知能(AI)という単語はここ最近バズワード化しており、あらゆる企業がAIの活用を主張しはじめています。しかし、ゲームにおけるAIの活用は今に始まったことではなく、昔から当たり前とされているものでした。
例えば、1970年代に登場した卓球ゲーム『Pong(ポン)』。一般的に広く知れ渡った最初のビデオゲームとしても有名ですが、実は初歩的なAIが活用されており、ゲームプレイに予測不能な要素を加えることで、ゲーマーのチャレンジ精神を掻き立てるような新しいゲーム体験を提供していました。
現在ゲームに活用されているAIは、もちろん従来よりも洗練されています。AIを採用したツールによって、ゲームデベロッパーはよりリアリティのあるゲームを効率的に開発できるようになっているのです。
今回は、モバイルゲームとその開発が、AIによってどのように変わるかについて考察します。
ゲームにおけるAIの役割
AIとは、ソフトウェアなどが人間の知的な行動を再現するもので、音声認識やパターン認識、自動運転車のナビゲーションなどがよく例として挙げられます。AIは複雑な計算を必要とするため、ゲーム業界ではコンソールゲームやPCゲームを中心に、開発・活用が進んできました。
しかし、スマートフォンがよりパワフルで高機能になるにつれ、モバイルゲームにおけるAI活用も急速に発展。5Gやゲームストリーミングによって、コンソールやPCで培われたAI技術がさらに進歩すると期待されています。
モバイルゲームでのAIの活用例には、AIのキャラクターが登場するGoogleのVR(仮想現実)ゲーム『Artie's Adventure』が挙げられます。
主人公は「Artie」と名付けられた子犬。さまざまなキャラクターと交流しながら遠く離れた家を目指す、というのがメインストーリーですが、登場キャラクターにはAIが活用されており、ゲームのプレイ情報を解析し、それを理解したうえで反応するようになっているのです。
AIは、キャラクターに対話するための知能を与えるだけではなく、進行状況に合わせた柔軟な「ゲームバランス調整」や、「キャラクターの新規作成」も可能です。例えば、ブロックを配置して建物を作ったり、冒険に出たりできるゲーム『マインクラフト』は、ゲームプレイが進む過程で、新しいコンテンツが次々と生みだされる仕組みが用いられています。プレイヤーに対して新鮮なゲーム体験を提供している好例といえるでしょう。
モバイルゲーム開発への影響は
AIがプレイヤーの操作データを分析することで、それぞれのプレイヤーに対して、よりパーソナライズされたゲーム体験を提供することが可能になります。
Telltale Gamesのホラーアドベンチャーゲーム『The Walking Dead』では、プレイデータに基づいて個々のプレイヤーに異なった選択肢を提供。ゲームの難易度が高く、プレイヤーが困惑していることをAIが判断した場合、手助けになるようなヒントを提供し、クリアの達成感を味わってもらえます。
つまり、AIによって、ゲームの難易度をプレイヤーのスキルに応じて変化させられるので、スタート時点でゲームの難易度を選ばずとも、適切なレベルでゲームを楽しめるというわけです。
さらに、AIは収益の最適化にも活用されています。「Game of Whales」などのサービスでは、AIと機械学習を活用してゲーム内の行動や進み具合を分析することで、アプリ内課金や広告表示の最適なタイミングを特定しています。
これにより、早い段階で広告を表示してゲームを台無しにするといったことを避けられるだけでなく、適切な段階での広告表示によってプレイヤーの興味を引くことができるでしょう。また、ユーザーに課金を促すポイントまで、デベロッパーが判断できるようにサポートされています。
今後さらに加速するモバイルゲームのAI活用
プレイヤーとデベロッパーの双方において、AIがゲームを変える力を秘めているのは明らかであり、企業はAI技術に多額の投資をしています。
ゲーム会社大手の Electronic Arts(EA)は、「SEED」という独自の研究・開発部隊を創設し、未来のゲーム開発を見据えてAIをはじめとする「新しい技術とクリエイティブな機会」を模索しています。
ゲーム業界全体では、AIは労働集約型の仕事を自動化する一助となっており、ゲームデベロッパーがクリエイティブな活動に集中できる環境を生み出しています。小規模なスタジオでは、AIを活用してグラフィックや音楽、キャラクターなどを作り出しているところもあるようです。
急速に進化するAIは、ゲームにおいて重要な要素。現時点では、AI開発はPCやコンソールのゲームが中心かもしれませんが、そのままの状態が続くとは限りません。世界で最も人気のゲームプラットフォームになりつつあるモバイルが、AIによるゲームの革新をけん引する日もそう遠くないでしょう。
著者プロフィール
林宣多
アプリデベロッパーのサポートを行うAppLovin代表取締役。GREE、Yahoo! Japanを経てAppLovinに参画。カリフォルニアにある本社の営業責任者を務めたのち、2016年4月にAppLovin日本法人の代表取締役に就任する。