モバイルゲームが誕生した日――。それを明言するのは、文化や経済を大きく動かす出来事のタイミングを正確に示すのと同じで、簡単なことではありません。しかし、あえてモバイルゲーム業界の黎明期について語るのであれば、まずはNokiaの携帯電話に搭載されたゲーム『Snake』が初めてメインストリームでヒットした1997年から考えるべきでしょう。
当時モバイルは、ゲームプラットフォームとしてあくまでも「PCやコンソールを補完するもの」だと考えられていました。ところが20年後には、世界中の人々が同時にプレイできるバーチャルな世界まで登場。2018年の世界モバイルゲーム市場は約7兆円規模まで成長します(『ファミ通モバイルゲーム白書2019』より)。もはや、モバイルゲームの未来が、そのままゲームの未来であると言っても過言ではないかもしれません。
さて、20年でこれだけの成長を遂げたモバイルゲームの世界。将来はどのように進化しているのでしょうか。本連載では、ハードウェアの変化や5Gの登場、AI(人工知能)、VR(仮想現実)といった新たなテクノロジーの役割などに着目し、デベロッパー、パブリッシャー、そしてゲーマーに待ち受けている未来について考察します。
まずは、モバイルゲームの過去から現在をおさらいし、未来を見通してみましょう。
『Snake』から幕を開けたモバイルゲーム業界は20年で巨大な市場に
モバイルゲームは、初期の携帯電話のころからありましたが、既述の『Snake』が「Nokia 6110」に搭載され、ヒットした1997年を、歴史の起点にしたいと思います。そこからWi-Fiの登場を経て、2008年のiOSのApp Storeローンチ、その後間もなくのGoogleのAndroid Market(現在のGoogle Play Store)誕生で、モバイルゲームインフラは一気に発展しました。
そして、2012年に米国のスマートフォン普及率が50%を超えると、App Storeのトレンドに関するデータレポートも出るようになります。このときすでに、「将来はゲームパブリッシャーがアプリストアで大きな役割を担い、モバイルにおいて確固たるポジションを築く」という未来が見えていたと言っていいでしょう。
実際にモバイルゲームが主流になったのは、モバイルゲームの売上がコンソールやPCゲームの売上を超えた2016年ごろ。こうして、ほんの約20年前にはよちよち歩きだったモバイルゲームが成熟期を迎えたのです。
大まかな歴史ですが、以上が現在に至るまでの基礎部分です。次はモバイルゲームの現状を考えてみましょう。
勢い衰えないモバイルゲームは、eスポーツタイトルにも選ばれる
主流になったとはいえ、2016年に入ってもまだまだモバイルゲームの存在に懐疑的な人はいました。ただ、その懸念は2017年に、ようやく払しょくされたように思います。
そして2018年以降は、より勢いを増して、モバイルゲームがカルチャーとして浸透したと言えるでしょう。対戦型オンラインカードゲーム『Shadowverse』、オンラインストラテジーゲーム『ブロスタ』といったモバイルゲームが、大きなeスポーツイベントのタイトルに採用されるなど、流れが加速しつつあるムードを感じます。
なかでも特筆すべきは、『フォートナイト』や『PUBG Mobile』などのバトルロイヤルゲームの躍進。モバイルとコンソール / PCの垣根がなくなるほどのテクノロジーの進化が認知され、デベロッパーが得られる収入も大きくなりました。たとえば、2018年夏に『フォートナイト』は月間1億ドル超を売り上げており、これがそのままパブリッシャーであるエピックゲームズの収入になっているわけです。
ただし、これはモバイルゲームの世界のほんの一部のストーリー。バトルロイヤルゲームが注目を集めていますが、位置情報を使って恐竜を探す『Jurassic World アライブ!』や、2019年7月2日から日本でリリースされた『ハリーポッター:魔法同盟(Harry Potter: Wizards Unite)』、先日ベータテストを終えたばかりの『ドラゴンクエストウォーク』など、『Pokémon GO』の成功につながったAR技術に対する投資の流れも再び訪れています。
また、スマホに線を描くだけで遊べる『Love Balls』や、タワー型マップでボールを落としていく『Helix Jump』といったハイパーカジュアルゲームも、手軽ながら中毒性のあるゲーム体験を世界中のプレイヤーに提供することで成長を続けています。
このように、コンソールゲームのようなバトルロイヤルゲームはもちろん、モバイルだからこそできる位置情報を活用したゲームや、スキマ時間に手軽に遊べるハイパーカジュアルゲームなど、モバイルゲームのすそ野はさらに拡大しており、その流れは今後も続くでしょう。
拡大を続けるモバイルゲーム、年間消費1,000億ドル到達の予測も
では、この先モバイルゲームはどうなるのでしょうか。
アプリ市場データと分析ツールを提供するAppAnnieでは、2022年までにアプリをインストールできる端末が全世界で60億台に達すると予測。世界人口の76億人に迫る勢いで増えていくでしょう。
また、ゲーム業界の調査会社Newzooでは、2021年までに世界のモバイルゲーム消費が年間1,000億ドルに達し、2023年までに世界のゲーム売上高全体の大半をアジア太平洋地域で占めるようになると予測しています。
このように、世界に視野を広げてみると、モバイルゲーム市場はアジアを中心にして、引き続き活況を呈すると予想されます。
さて、今回はわずか20年数年でゲーム業界の中核にまで成長したモバイルゲームについて、ざっくりとその歴史について触れました。
この連載では引き続き、予測可能な未来として今後5年の展望を考察していきます。テクノロジーが進化する圧倒的なスピードを踏まえると、5年以上先はあまりにも不確実性が高くなるためです。
5年内の予測であれば、データサイエンスの力によって、その確度を上げることができます。業界に関する知見や、5Gなど新たなトレンドの知識をデータサイエンスと組み合わせると、未来の予測はより鮮明になるのです。たとえば、ハードウェアやネットワークの進化を背景にゲームは勢いを増すでしょうし、AIなどの先進技術が提供するパーソナル化された体験によってモバイルゲームが人々の生活に常に存在するようになるかもしれません。新興国市場でのモバイルゲーム市場の成長は、より裾野を広げるカギにもなりえます。
そのなかで、次回は「ゲームの未来を加速させるモバイルインフラ」をテーマに紹介する予定です。
著者プロフィール
林宣多
アプリデベロッパーのサポートを行うAppLovin代表取締役。GREE、Yahoo! Japanを経てAppLovinに参画。カリフォルニアにある本社の営業責任者を務めたのち、2016年4月にAppLovin日本法人の代表取締役に就任する。