中国のシャオミは2021年8月2日、日本市場に向けオリジナルのスマートフォン「Redmi Note 10 JE」をKDDIから独占販売することを発表した。FeliCaに加え防水・防塵にも対応するなど、日本市場専用モデルとして開発されたRedmi Note 10 JEだが、2万円台という非常に低価格なモデルながら、日本独自のカスタマイズを施したシャオミの狙いはどこにあるのだろうか。

防水・FeliCaに加えクアルコム製チップセットを搭載

2021年に入ってスマートフォン新機種を立て続けに投入し、日本市場での存在感を急速に高めている中国のシャオミ。実際2021年2月にはFeliCaを搭載しながら税抜きで2万円を切る「Redmi Note 9T」をソフトバンクから販売して大きな驚きをもたらしたほか、SIMフリー市場向けにも3万円台でハイエンド並みのカメラを備えた「Redmi Note 10 Pro」そして、5GとFeliCaに対応した4万円台の「Mi 11 Lite 5G」を投入し、非常に高いコストパフォーマンスで注目を集めている。

そのシャオミが2021年8月2日、また新しいスマートフォン「Redmi Note 10 JE」を発表している。これはその名前の通り「JE」、つまり「Japan Edition」とのことで、Redmi Note 10シリーズの日本専用モデルということになる。

  • 日本専用の低価格モデル「Redmi Note 10 JE」を投入したシャオミの狙い

    シャオミが2021年8月2日に発表した「Redmi Note 10 JE」。低価格ながらFeliCaや防水・防塵性能を備えた日本向けの独自開発モデルとなる

日本市場専用に開発されただけに、その内容を見ると既にいくつかの機種で実現しているFeliCaの採用に加え、新たにIP68の防水・防塵性能も備えている。そもそもシャオミがIP68の防水・防塵性能を搭載する機種を投入したのはごく最近のことで、それも「Mi 11 Pro」「Mi 11 Ultra」(いずれも日本未発売)といった非常に高い性能を持つフラッグシップモデルに限られている。

それゆえ低価格のRedmi Noteシリーズに、IP68の防水・防塵性能を対応させたのは世界的にもRedmi Note 10 JEが初になるとのこと。日本では既に当たり前の要素でもあるIP68レベルの防水・防塵性能だが、海外メーカーが対応するにはノウハウを得るためかなりの時間とコストがかかるとの話を聞くだけに、シャオミがそれだけRedmi Note 10 JEに力を入れている様子がうかがえる。

  • Redmi Note 10 JEはRedmi Noteシリーズ全体でも初めてIP68の防水・防塵性能を搭載したとのこと

そしてもう1つ、シャオミがRedmi Note 10 JEで日本向けにカスタマイズした要素として挙げているのが、チップセットに「Snapdragon 480」を採用していることだ。これはクアルコム製のエントリー向け5G対応チップセットなのだが、なぜこれが日本向けカスタマイズなのかといえば、ネットワークとの相性にあると考えられる。

世界的にはここ最近、エントリー向けスマートフォンにメディアテック(台湾MediaTek)製のチップセットを採用するケースが増えているが、日本の携帯電話会社が扱うするスマートフォンの殆どがクアルコム製のチップセットとモデムを採用しており、ネットワークもそれに合わせたチューニングがなされている。そうしたことから日本で安定した通信品質を確保するには、エントリー向けでもクアルコム製のチップセットを採用した方が良いと判断したのではないかと考えられる訳だ。

  • クアルコム製の「Snapdragon 480」を搭載したのも日本向け独自のカスタマイズとのこと。国内携帯大手のネットワークとの相性を考慮した結果と考えられる

市場シェア拡大に向けた先行投資か

もちろん低価格が重視されるエントリー向けということもあり、KDDIのauブランドにおけるRedmi Note 10 JEの価格は2万8765円と非常に安価。auだけでなく今後は低価格の「UQ mobile」ブランドからの販売も予定されているという。

ただRedmi Note 10シリーズというベースモデルがあるとはいえ、エントリー向けのスマートフォンにここまで日本向けのカスタマイズを施すとなると、かなりのコストアップ要因となることは確かだ。なぜシャオミがエントリー向けモデルで、既存モデルのカスタマイズではなく独自モデルを開発するに至ったのだろうか。

1つはやはり、日本市場での販売を拡大し市場シェアを高めたい狙いがあるからだろう。シャオミは日本に進出したスマートフォンメーカーとしては最後発で、シェアを伸ばす上では自らが得意としており参入メーカーが少ない低価格帯に狙いを定め、なおかつ日本向けのカスタマイズに力を入れることが得策と判断したものと考えられる。

実際、低価格モデルでのFeliCa対応などは、外資系メーカーがあまり積極的に取り組まなかった要素で、日本の消費者から不満の声があったのも事実だ。独自モデルの投入は、他社が積極的に取り組まなかった部分にあえて取り組むことで消費者の支持を獲得したい狙いがあるといえよう。

  • シャオミは2021年に入ってFeliCa対応モデルの投入を積極化。後発ということもあり、他社が取り組みに消極的な日本独自仕様への対応を積極化している

そしてもう1つはKDDI、ひいては携帯大手の存在があると考えられる。日本ではSIMフリー端末よりも、携帯大手から販売されるスマートフォンの方が圧倒的に数が多く、外資系のメーカーが成功を収めるには携帯大手から信頼を得ることが不可欠だということは、先行するアップルやサムスン電子が証明している。

それゆえシャオミも参入当初から携帯大手向けの端末供給には力を入れており、既にKDDIとソフトバンクとの関係構築に成功している。しかも携帯大手がいま力を入れているのは、政府の端末値引き規制があっても安価に販売できる低価格のスマートフォンであることから、低価格帯に強みを持つシャオミにとって大きなチャンスが到来しているのは確かだ。

ただ一方で、日本の携帯大手は品質面を中心に、販売する端末に対する要求が非常に厳しいことでも知られている。それだけに信頼を得るには、低価格モデルであっても日本市場のニーズに応えられる機能・性能と品質が必要と判断し、独自モデルの開発に至ったといえよう。とりわけクアルコム製のチップセットを採用した点などは、ネットワーク品質を重視する携帯大手の意向をくんだが故と考えられる。

  • Redmi Note 10 JEはKDDIの独占販売モデルで、SIMフリー市場向け以上に日本市場向けの対応と高い品質が求められることもあって独自モデルの開発に至ったといえる

そうした背景を考慮すると、Redmi Note 10 JEは日本市場でのシェア拡大に向けた先行投資の意味合いが大きい、戦略要素が非常に強いモデルといえる。それだけにRedmi Note 10 JEは、シャオミがSIMフリー市場だけでなく、国内市場全体で存在感を高めるための試金石になるともいえそうだ。