2020年はいよいよ日本でも5Gの商用サービスが始まる年となるが、多くの消費者にとって気になるのは、5Gのサービスがいかにお得な形で提供されるかどうかという点ではないだろうか。携帯電話大手の料金プラン、そしてMVNOの5G展開に至るまで、5Gのサービスがどれだけお得な形で提供されるのかを考えてみよう。

大容量プランの料金で「使い放題」になる?

2019年よりプレサービスが実施されていた次世代モバイル通信規格の「5G」だが、2020年の春にはいよいよ商用サービスがスタートする。しかも2020年は東京五輪が実施される年でもあることから、携帯電話各社はスポーツと、ARやVRなど新しい技術を絡めた形で5Gを活用した先進的な取り組みをアピールしてくるものと考えられる。

だが多くの人にとって気になるのは、5Gのサービスがどれだけ安く、お得な形で提供されるのかということではないだろうか。確かに5Gは、条件が整えば2時間の映画を数秒でダウンロードできるなど、従来の4Gよりはるかに高い性能を持つのだが、それを利用するための料金プランが非常に高額になってしまえば、多くの人は利用できないからだ。

5Gの料金プランは、大手3社が商用サービスを開始するとされる2020年3月より前、つまり2月頃には何らかの発表がなされると見られている。そして各社は、5Gで大容量通信が増えることを見越し、データ通信量を無制限に利用できる「使い放題」、あるいはそれに近しい、従来よりも通信容量が非常に大きいプランを提供することが予想される。

その兆候を示しているのがKDDIだ。実際同社は2019年の時点で、5Gを意識した使い放題プラン「auデータMAXプラン Pro」などを提供しており、5Gでもその路線を踏襲するものと見られている。

  • KDDIは5G時代を見据え、2019年の「auデータMAXプラン」を皮切りに、データ通信量が無制限で利用できるプランに力を入れている

    KDDIは5G時代を見据え、2019年の「auデータMAXプラン」を皮切りに、データ通信量が無制限で利用できるプランに力を入れている

そしてもう1つは、NTTドコモが2020年1月1日より「ギガホ増量キャンペーン」を実施していることだ。これは同社の料金プランで、月額30GBの容量が利用できる「ギガホ」の契約者に対し、通信容量を倍の60GBに増量するというもの。このキャンペーンはギガホなど、2019年に提供した新料金プランへの移行を促進する狙いがあると見られているが、それだけにとどまらず、大容量通信が一層求められる5Gを見据えた動きと見ることもできよう。

  • NTTドコモが2020年1月より実施している「ギガホ増量キャンペーン」(プレスリリースより)。通常30GBのギガホの通信量が、同じ料金で倍の60GBになるというものだ

こうした動きから、5G向けの料金プランでは通信量が大幅に増加することは間違いないだろうが、気になるのはやはり毎月の料金だ。だが料金をあまり高額にすると利用者が増えないこと、そして行政から通信料に関して強い値下げ圧力を受けていることもあって大幅に高くなるとは考えにくく、現行の料金プランで最も高額なプランの水準、つまり値引きなしで月額7000円~9000円、さまざまな値引きを加味して月額5000円か~6000円程度となる可能性が高いというのが筆者の見方である。

5GでMVNOの料金は高くなる?

だが、もっとお得に5Gを利用したいという人も少なからずいることから、低価格でモバイル通信サービスを提供しているMVNOの5Gの展開に期待している人もいることだろう。では、MVNOが5Gのサービスを提供できるのかというと、そう遠くないうちに提供されるだろうが、さすがに携帯電話大手と同じタイミングという訳にはいかないだろう。

総務省もMVNOによる早期の5Gサービス提供は力を入れており、2019年12月には携帯電話大手3社に対し、MVNOが5Gのサービスを提供するのに必要な情報を速やかに提供するよう要請している。だが2019年末のタイミングで携帯電話会社側がMVNOに情報提供をしたとしても、MVNO側がサービスを提供するための準備を整える時間が不足していることから、携帯電話会社と同じタイミングに提供するというのは難しいというのが正直な所ではないだろうか。

しかも5Gは、MVNOの料金をむしろ高くする可能性すら秘めている。その理由は、MVNOが携帯電話会社から回線を借りる際に支払う接続料にある。

この接続料は「適正な原価」に「適正な利潤」を加えた金額と定められているのだが、5Gは4Gと異なり、いまエリア整備中の真っ最中であるため利用範囲が狭く、当初は利用者も少なく得られる利潤が少ない。それゆ従来の算定式に当てはめると、5Gの接続料は非常に高額になってしまうのだ。

それに加えて、5Gの導入当初用いられる、4Gのネットワークの中で5Gを展開するノンスタンドアローン運用では、携帯電話会社側が4Gと5Gのトラフィックを識別するのが難しいという事情もある。そうしたことから総務省での議論の中でも、4Gと5Gの接続料は一体で設定する方向で検討が進められているのだが、そうなれば5Gの影響でMVNOの接続料が上がる、もしくは下がりづらくなり、それがMVNOの料金プラン全体に影響を与えてしまう可能性がある訳だ。

  • 総務省の有識者会議「モバイル市場の競争環境に関する研究会(第19回)」の資料「5G時代におけるネットワーク提供に係る課題についての検討」より。5G単体で接続料を算定すると高額になるなどの問題があることから、4Gと一体での算定が検討されている

またそもそも、MVNOが得意としている、通信容量が少なくて低価格な料金プランというのは、高速大容量通信によるリッチコンテンツの利用が重視される5Gではあまり意味をなさないというのも正直な所である。それだけに、5GではMVNOも戦略の練り直しが求められ、立ち位置や料金プランにも大きな変化が出てくることになるかもしれない。