ここ最近、携帯電話大手が法人向けの事業に関する発表やイベントを相次いで実施するなど、法人向けのビジネスをアピールする機会が増えている。その背景にはポジティブな要因と、ネガティブな要因の2つがあるようだ。

5GとIoTで生まれた大きな商機

毎月のように新しい取り組みを発表している携帯電話大手3社だが、ここ最近の発表内容を見ると、その傾向に明確な変化が見られるようになってきた。それは「B2B」、要するに法人向けのビジネスに関する内容が非常に多くなったということだ。

実際、KDDIは2019年6月27日に、法人向けにサービスやソリューションなどを紹介するイベント「KDDI 5G SUMMIT」を実施。これまで同社は限られた顧客に向けた法人向けのイベントは実施していたというが、一般から参加者を募り、大規模なカンファレンスを実施するなど、大々的な法人向けイベントを実施するのは初だという。

  • KDDIは2019年6月27日に、初となる大規模な法人向けイベント「KDDI 5G SUMMIT」を実施。5Gの商用サービスを控え法人向けのサービスを積極的にアピールしていた

ソフトバンクもまた、法人向けの大規模なイベント「SoftBank World」を毎年実施しており、2019年も7月18日より実施するとしているが、それに先立つ形で2019年7月2日、メディア向けに法人事業戦略の説明会を実施している。同社が法人向けのビジネスに関する事業方針の説明がメディア向けになされることは、これまであまりなかっただけに、やはり従来にない動きと見ることができるだろう。

  • ソフトバンクは2019年7月2日に、初となる法人向け事業戦略の説明会を実施。法人事業の拡大に向けた具体的な取り組みをアピールしている

しかしなぜ、携帯電話会社は「これまであまり積極的にアピールしていなかった」法人向けのビジネスに関する取り組みをアピールするようになったのだろうか。その理由は大きく2つあると考えられる。

1つはポジティブな理由で、5Gの商用サービス開始が2020年と、間近に控えているためだ。5Gは高速大容量通信ができるだけでなく、低遅延・高信頼性、多数同時接続といった従来の携帯電話ネットワークにはない特徴を備えていることから、IoTを支えるネットワークとして活用されることが期待されている。

そして5GとIoTによって、農業などの第一次産業や、製造業などの第二次産業といった、従来デジタル化が難しかった産業のデジタル化が進められると考えられている。そこに携帯電話会社は大きな商機を見出し、いち早くIoTによる法人ビジネスの拡大をアピールして顧客開拓を進めたい狙いがあるといえるだろう。

  • 5GがIoTと結びつき、そこからデータを取得し、AIによって分析することで、さまざまな産業のデジタル化を実現するということに、商機を期待しているようだ

通信だけでは商売にならない法人ビジネス

2つ目はネガティブな理由となるが、要するに従来の主力事業である、携帯電話やスマートフォン向けの通信サービスの成長に限界が出てきたことだ。既に携帯電話の契約数は国内の人口を超える規模にまで達しているのに加え、最近では総務省が、料金競争を促すため、携帯電話の過度な囲い込みをできなくし、乗り換えしやすくするための規制を積極的に打ち出している。今後、従来の携帯電話業界の商習慣が大きく変わろうとしているのだ。

さらに2019年10月には、楽天傘下の楽天モバイルが、携帯電話会社として新規参入を果たす予定であり、それによって携帯電話会社間の競争が一層加速されると見られている。そうしたことから、環境が厳しくなる一方の携帯電話事業に成長を求めるのは困難と判断し、携帯電話大手各社は最近、ビジネス領域の拡大や新規事業の開拓に成長を求めるようになってきている。

実際、KDDIは傘下の銀行や保険、決済事業などを取りまとめる中間金融持株会社「auフィナンシャルホールディングス」を設立し、金融事業に力を入れていく方針を示している。またソフトバンクは、兄弟会社だったヤフーを傘下に収め、コンテンツ・サービス分野の拡大を推し進めている。そうした事業拡大の一環として、法人向けのビジネス開拓にも活路を求めるようになったといえそうだ。

  • KDDIは金融事業拡大のため、金融事業を取りまとめる「auフィナンシャルホールディングス」を設立している

では、携帯電話会社はどのような形で法人向けビジネスを拡大しようとしているのかというと、それは各社が打ち出している「共創」「協創」などといった言葉に表れている。

  • NTTドコモはかねてよりパートナー企業と新しい事業価値を“協創”する「+d」の取り組みを進め、自治体や企業などとのパートナーシップによる事業拡大を進めている

実は法人向け、なかでも特に注目を集めているIoT機器の通信量は、1日数回数値データを送るだけでよいなど通信量がとても小さい。そのためコンシューマー向けと同様の通信量に応じた課金をしても、値段が安すぎて商売にならないのだ。そこでネットワークを活用したいというパートナー企業に対し、ネットワークだけでなくデバイスやサービスなどもセットにしたビジネスソリューションを共同で開発し、提供することで高い売上を得る狙いがある訳だ。

先にも触れた5GやIoTに対する注目の高さもあって、携帯電話会社の法人向けビジネスは今後急拡大することが考えられる。だが消費者目線からすると、それは既存の携帯電話ビジネスの盛り下がりを示していることでもあるだけに、複雑な心境を抱いてしまうというのもまた正直な所だろう。