大手キャリアから提供されるスマートフォン。それを作っているのはメーカーであり、メーカーのブランドが前面に出ている機種も多いが、それらはあくまでキャリアの製品として販売されているものだ。端末の販売を巡る複雑な仕組みの理由に迫ってみよう。
実はメーカーはキャリアの下請け?
我々がキャリアから購入するスマートフォンには、「Xperia」「Galaxy」「AQUOS」などさまざまなメーカーのブランド名が付いている。それゆえ一見すると、メーカーがキャリアの販路を使って端末を売っているように見えるのだが、実はどのメーカーの製品であっても、それはあくまでキャリアの製品として、キャリア自身が販売している。日本において多くのスマートフォンメーカーは、キャリアに開発した商品を納品する、いわば下請けというべき立場なのだ。
なぜこのような仕組みがとられているのか?という理由を知るためには、フィーチャーフォン時代にまでさかのぼる必要がある。フィーチャーフォン時代は通信規格があまり統一されていなかったことから国や地域によって通信方式にばらつきがあり、利用するサービスや端末が国によって違うなど、全世界の人達が同じスマートフォンを使い、同じSNSを利用する現在とは大きく異なる状況だったのだ。
それゆえ当時は、キャリアがネットワークだけでなく、サービスから端末まで全ての開発を手掛ける必要があったのだ。特に日本では元々高度で高品質な通信サービスが求められる傾向が強いことから、キャリアが軸となって独自のネットワークやサービスを開発し、それに合った端末をメーカーと共同で開発。それをキャリアが買い上げ、自社製品として販売するという手法を採っていたのだ。
それゆえフィーチャーフォン時代にキャリアから発売される携帯電話は、現在のようにメーカーのブランドロゴはあまり入らず、代わりにキャリアのロゴが大きく入っているものが多く見られた。型番や機能、デザインなどに各メーカーの特徴が見える部分はあるものの、あくまでキャリアの製品であることを強く打ち出していたのだ。
だが実はこの仕組みには、キャリアだけでなくメーカー側にも大きなメリットがあった。それは開発した端末をキャリアが全て買い取ってくれることから、ビジネス上のリスクが非常に小さいことだ。小さいリスクで高い機能の端末が開発できることから、日本のフィーチャーフォンは、インターネット接続機能が世界で最も早く普及するなど、非常に高度な進化を遂げることとなったのである。
iPhoneの影響でメーカーが前面に出るように
だが通信方式が第2世代(2G)から第3世代(3G)、そして現在の第4世代(4G)へと進化するに従って、世界的に通信方式の共通化が進められていった。またスマートフォンの登場によって、キャリアに代わってOSを提供するアップルやグーグルがサービスを主導する立場になるなど、年を追うごとに端末開発を取り巻く環境は大きく変化していったのである。
中でもキャリアとメーカーとの関係に最も大きな影響を与えたのは、ソフトバンクモバイル(現・ソフトバンク)が、アップルから調達したiPhone 3Gを、一切のカスタマイズを加えることなく販売してヒットをもたらしたことだろう。このことは多くのキャリアやメーカーに衝撃を与え、iPhoneに対抗するべく端末開発のあり方を大きく変えることとなったのだ。
その最も大きな変化は、メーカーの存在を前面に押し出すようになったことだ。iPhone以外のスマートフォンは、現在も従来同様共同開発の形がとられており、周波数帯や日本向け対応など、いくつかのカスタマイズも施してはいる。だがiPhoneに対抗するため、端末の機能やデザインはメーカーが主導するケースが増え、ブランドもキャリアではなくメーカーのものを前面に打ち出すようになるなど、スマートフォンの市場環境に合わせてキャリアが端末開発に関与する部分が減っていったのだ。
キャリアにとっても、カスタマイズする要素が少ないほど、開発にかけるコストが減り、調達コストが下がるというメリットがある。既にアップルやグーグルにサービスの主導権が移っていることもあり、キャリアは自前で全てを用意するよりも、既存のものを活用してコストを下げることを重視するようになったといえるだろう。
とはいうものの、実は現在も、キャリア主導で開発されたオリジナルモデルはいくつか存在する。NTTドコモの「らくらくスマートフォン」や「MONO」、KDDI(au)の「Qua」シリーズなどがその代表例として挙げられる。
多くのメーカーは、スマートフォンを積極的に利用する層に向けた、売れ筋の端末を開発する傾向にあり、例えば子供向けやシニア向けなど、ニッチなターゲットに向けたスマートフォンは、台数が出ないためあまり開発したがらない。そうした特定層を狙った、市場にあまり存在しない端末をキャリアが提供するには、キャリア自身が端末開発に積極関与し、買い取りすることで、メーカーにリスクをかけることなく開発してもらうという、従来の共同開発の仕組みが役立っているのである。