ソニーは2019年4月1日付けで、スマートフォン部門を、カメラやテレビなどを手掛ける部門と統合し、エレクトロニクス・プロダクツ&ソリューション事業としてスタートする。エレクトロニクス関連部門の統合による連携強化で、赤字続きのスマートフォンを立て直せるのだろうか。

テレビ・カメラ主導の事業再編

ソニーは2019年3月26日、ホームエンタテインメント&サウンド(HE&S)、イメージング・プロダクツ&ソリューション(IP&S)、そしてモバイル・コミュニケーション(MC)の3つの事業を統合し、エレクトロニクス・プロダクツ&ソリューション(EP&S)事業とすることを発表した。統合は2019年4月1日付けだ。これをもってソニーの持つエレクトロニクス関連3事業が1つに統合されたことになる。

HE&Sはテレビの「BRAVIA」やオーディオ、IP&Sは「CyberShot」「α」などのカメラ、そしてMCはスマートフォン「Xperia」を主に手掛けていた。それら複数のエレクトロニクス事業を統合することで、製品開発や調達などで横の連携を深めるというのが、事業再編の狙いと考えられる。

だが発表内容を細かく見ると、EP&Sを統括するのはIP&Sの石塚茂樹専務で、それを補佐するのはHE&Sの高木一郎専務となっている。つまりIP&SとHE&Sが事業を主導する形となっており、MCが存在感を大きく落としている様子が見えてくる。

もっとも直近の業績を見れば、それはある意味やむを得ない部分もある。ソニーの2018年度第3四半期決算を見ると、HE&Sは475億円、IP&Sは342億円の営業利益を出しており、共に増益を果たしている。一方MCの営業利益はマイナス155億円で、前年同期比でも大幅なマイナスを記録している状況だ。好調が続く他の事業とは対照的に、スマートフォン事業だけが赤字で、その改善の兆しさえ見られない状況が続いている。

今回の統合は不振が続くMCの救済という見方もできるかもしれない。赤字が続くMC事業に関しては、かねてより投資家などから撤退を求める声が挙がっていたし、実際この統合が発表された直後から「スマートフォン事業の赤字隠しではないか」という声も挙がっていた。

  • ソニーの2018年度第3四半期決算説明会資料より。8つの事業セグメントで唯一、MC事業だけが赤字を記録しているなど、不振が続いている

「Xperia 1」に見る事業再編の効果

だが事業を統合したからといって、スマートフォンにおける市場環境の厳しさが改善する訳ではない。世界的に多くの人にスマートフォンが行き渡り、なおかつコモディティ化と低価格化が急速に進んでいる現在、どのメーカーにとってもスマートフォンの販売を大きく伸ばすのは難しくなっている状況だ。

実際、最近ではアップルがiPhoneなどの販売台数を非公開にしたことが大きな話題となったし、急成長を遂げてきた中国のスマートフォンメーカーも、いくつかが破たんしたり、買収されたりするなど再編が進みつつある。そうした中にあって、スマートフォンの販売を減少させ続けてきたソニーが復活するのは容易ではない。

では、事業統合したソニーはどうやって、この苦戦しているスマートフォン事業を立て直そうとしているのだろうか。そのヒントは、2019年2月に発表されたソニーモバイルコミュニケーションズの新しいスマートフォン「Xperia 1」から見て取ることができる。

Xperiaシリーズはかねてより、イメージセンサーやディスプレイなど、ソニーグループが持つ技術を結集して開発している所に強みがあった。Xperia 1ではそれをさらに推し進め、プロ向けの映像機器開発を手掛ける、ソニーの厚木テクノロジーセンターに協力を依頼している。映画に合わせた21:9比率のディスプレイを搭載したのに加え、プロ用のマスターモニターの発色に近づけた「クリエイターモード」を搭載し、ソニーピクチャーズの映画製作者に評価してもらうなどして、映像に強いこだわりを持つスマートフォンへと仕上げられているのだ。

  • 21:9のディスプレイを搭載したことで注目された「Xperia 1」。プロが使うマスターモニターの発色を実現する「クリエイターモード」を搭載するなど、映像の視聴に強いこだわりを持って作られている

そもそもXperiaシリーズの評価が大きく落ちたのは、2014年に中国メーカーとの低価格競争に敗れスマートフォンの販売が不振となったことを受け、ソニーモバイルが現在ソニーの代表執行役専務CFOを務める十時裕樹氏の体制に代わるなど、大規模な再編がなされて以降のことだ。実際にXperiaシリーズは2016年を境目に、これまでの最先端技術を重視した「Xperia Z」シリーズから、手ごろさや使い勝手を重視した「Xperia X」へと路線を大きく切り替えている。

だがそれ以降、苦戦していた低価格モデルだけでなく、ハイエンドモデルでも急速に製品の魅力を失い、シェアを激減させていった。「明確な理由がない限り複眼カメラは搭載しない」など特定のこだわりを見せるあまり、消費者ニーズやトレンドから離れた端末しか提供できなくなっていたことが、その要因のひとつといえるだろう。

  • 2016年の「Xperia X」シリーズ以降、Xperiaはハイエンドモデルでも市場ニーズとかけ離れた端末が目立つようになり、急速に魅力を失っていった

それだけに、MC単体では難しくなっていたソニー全体の力を生かしたスマートフォン開発ができるようになる今回の統合は、スマートフォン事業を再建する上でメリットに働く可能性が高いといえる。かねてよりソニーはスマートフォンから「撤退しない」と宣言しているだけに、今回の再編によって魅力あるスマートフォンを生み出し、販売改善を図ってくれることを期待したい。